翌朝はだらしない始まりだ。起き抜けの煙草を吸ってキスをし、そのまま緩慢に肌を探り、昨晩よりはだいぶおとなしく、密やかに笑いながら抱き合ってベッドを出る。それからBJはバスローブ姿のままパティオのラタンカウチに座り、朝の陽光を反射する海面の眩しさに目を眇めながら、キリコが作ってくれた冷たいノンアルコールカクテルで夢心地の世界からようやく抜け出した。朝から抱かれると夢から覚めにくいのだと生まれて初めて知った。
くぁ、と隣でキリコが煙草片手にだらしない欠伸をする。何となく嬉しくなる。人前ではこんな顔を見せないからだろう。紳士な死神がわたしの前では人間の男になるのだと思うと、ひどく得意な気分になった。
ホテル所有のビーチにはちらほらと人の姿が見える。早起きの家族連れが多いようだ。子供の朝は早いな、とキリコが呟き、BJはピノコを思い出して頷いた。
「ユリさんとピノコ、もう起きてるかな」
「今何時」
「7時。多分ピノコは起きてるけど、でも昨日は疲れてたから分かんないな」
「ユリは起きてそうだが、どうだろうな。悪い、朝はおまえが電話してやって」
「うん」
兄とはいえ、起き抜けに男の声では驚かれるからだろう。確かに自分もモーニングコールは女性の声の方が安心する。すぐに理解したBJは室内の電話に向かった。
ユリとピノコはとうに起きていて、先生とにいさんこそいつ起きるのかしらって言ってたんですよ、と電話の向こうのユリに笑われた。気を使ってくれていたのだと知って苦笑を漏らし、ありがとう、と言う。レストランで合流して朝食を取ることにした。
「ちぇんちぇい、ピノコたちのお部屋もね、しゅごい贅沢なのよさ! 後で見て欲しいのよさ!」
「パティオじゃないけどバルコニーがあるんです。芝生なの」
「え、珍しくない?」
「ベッドはねぇ、クイーンサイズでねぇ──」
朝から早速女三人の会話が始まる。キリコは無論終始無言で、話を振られた時だけ短く答え、後は女たちが不自由しないよう、気が付いた時にウエイターを呼ぶサインを出すだけだ。もっとも朝食ではそうそう不自由も出ない。4人のアイスティのお代わりと、ビーチに持って行くドリンクの用意を頼んだ程度だった。
朝食が終わればピノコの熱烈な希望により早速ビーチだ。ホテルのランドリーサービスは完璧に水着を仕上げてくれていて、ビーチに行かないという選択肢を消去してしまった。相変わらずBJはラッシュガードにトレンカで、ちらりとキリコを見てすぐに目を逸らす。キリコは少し考えた後、荷物に入れてあったサマーパーカーを羽織る。気付いたBJが手を繋いで来たので指を絡めた。
ホテルの宿泊客専用のビーチは快適な環境が整えられている。既にあちこちで日光浴や水遊びを楽しむ人々が多く、昨日の専用ビーチとは違う賑やかさを楽しめた。
「ユリ、見えるところにいろよ」
「はあい」
兄が何を言いたいのかすぐに理解し、ユリは素直に返事をする。幼い頃からいつも兄はそう言ってくれた。変な男に絡まれた時、いつの間にか傍に来て助けてくれたものだ。
──今は先生を優先しなさいよって言いたいけど、先生が許してくれなさそう。
「わたしもきちんと彼氏、見付けないと駄目かなあ」
「何だって?」
「何でもないわ。ちょっと泳いで来る、見えない場所には行かないから!」
遠泳よりは近場、だが浜辺からそれなりに離れた場所を泳ぐ人々もいる。潮流が安全な場所なら問題ないと思い、キリコは「ああ」と頷いた。
「ちぇんちぇい、日焼け止め塗ってなのよさ」
「持って来た?」
「これなのわよ」
パラソルの下で母娘が可愛らしく日焼け止めを塗りながらきゃあきゃあと笑い声を上げる光景を楽しみつつ、キリコは海に歩いて行くユリを見る。案の定、ビーチの視線が男女問わず集まっていた。ホテルのグレードが高い分、客の性質も良いことは分かっているが、たまにバカンスの解放感で気が大きくなる男もいる。
戻って来るまで目が離せないなと思った瞬間、溜息をついた。
「マフィン」
「ん?」
「メスダーツの用意をしておくといい」
キリコの視線の先でユリが男二人に声をかけられる姿を見る。ユリがすげなくあしらい、それでもしつこく食い下がろうとした男の姿と、そして笑顔で割って入った赤毛の男の姿も。
キリコの視線を追ったBJもその光景を見る。
「妹を助けてくれたお礼くらいは言って来たら、おにいちゃん」
要はこの場所まで来させるなと言うことだ。それきりキリコを見ずにピノコにまた日焼け止めを塗り始めたBJにかける言葉が見つからず、キリコは黙ってアイパッチを外し、妹とデルタフォースの隊長がいる方向へ歩き出したのだった。
キリコがその場に着いた時、男二人はすっかり戦意を喪失していた。かろうじて見栄を張り、まだその場を立ち去らないだけだ。男にとって海辺は上下関係が分かりやすい、とキリコは思う。赤毛の男は細身だが、明らかに鍛え上げられている。しかも胸元にはドッグタグを下げ、米語訛りのフランス語を話すとなれば、アメリカ軍人である可能性が高い。暴力沙汰になれば負けるとはっきり分かる状況だった。
ユリの身の安全は確保されている。キリコは男二人の心を救ってやることにした。
「妹が世話になったな」
片目が潰れた背の高い、そして赤毛の男と同様に、細身だが鍛えられた身体を持った男が現れれば、その場の上下関係は完全に決定される。男二人は口の中で何事かを呟くと、ユリに「良いバカンスを」とフランス訛りの英語で言って歩き去った。
「悪かったな、グラディス。ありがとう」
仕事以外では、否、仕事でも極力顔を合わせたくないカテゴリーに入る米国特殊部隊の隊長に礼を言う。グラディスは肩を竦めた。
「最初はユリちゃんだって気が付かなかった。すっごい美人がいたからナンパしようと思って、あいつらを追い払っただけだから」
「性格が悪いのを知ってるから、グラディスくんじゃちょっとねえ」
「僕も合気道の達人の年上はちょっとねえ」
軍人の中でも高い戦闘能力を誇る特殊部隊員でありながら、ユリに一撃食らいかけた過去がある男は苦々しく言う。ユリは笑い、キリコは苦笑した。
「にいさん、先生たちを放っておいちゃ駄目じゃないの。戻りましょうよ」
「そうだな。じゃあグラディス、どうも。恋愛相手が必要ならよそでやってくれ」
「電話に出てくれよ」
ユリを連れて戻ろうとしたキリコに、グラディスが涼しい顔で言った。キリコは思わず足を止め、それから溜息をつく。ユリは兄と既知の男の顔を交互に見てから小さな声で言った。
「にいさんは休暇中よ。変な話をしないで頂戴、少佐さん」
「僕だって休暇中なんだ。ここで会ったのは偶然だよ。毎年ここに来てるのに、今年に限って何て面倒だ」
「──ユリ、戻ってろ。三人で何か甘いものでも食べるといい」
ユリは再び二人の男を交互に見た後、分かったわ、と呟いてその場を去った。グラディスはその後姿を兄の前でも不躾に眺め、本音と分かる声を出す。
「ユリちゃん、すっごいスタイルいいね。あの水着も最高」
「俺も他人ならそう思っただろうよ」
「何で先生はラッシュガードとトレンカなの。いくら傷があるからってもったいなくない? THEアジアンビューティって感じですっごい綺麗なプロポーションなのに」
「……否定はしないが、待て、どこで見た」
「あ、やっぱりそうなんだ? 鎌かけただけなんだけど」
地位の割に若い男は悪戯げに笑う。キリコは腹の底から湧き上がる怒りを堪え、本題に入ることにした。
「電話に出る必要があるとは思わなかった。だから出なかった」
「ふうん。出なかったから休暇中の僕のところに電話が来てさ、同じホテルにいるなら様子を見て来いって言われてさ。休暇が明けたらいの一番に時間外勤務の書類を書かなきゃいけないはめになってんの」
「しっかりした勤め先だな、大事にしろよ。様子見をありがとう、お陰様で全員休暇を楽しんでるよ」
「それは良かった」
「また縁があれば」
「なくていいと思ってるでしょ」
「もちろん」
「良い休暇を」
「お互いに」
軽く握手をし、互いに違う方向へ歩き出す。歩きながらキリコはやや意外だった。てっきりもう少し食い下がられると思っていたからだ。
──あいつ、本当に休暇ってことか。それなら仕事なんざしたくないだろう。
もう少しグラディスに好意を持っていれば、せっかくの休暇に悪いことをしたと思ったかもしれないが、好意など全く持っていないので何ひとつ後ろめたい気分にはならなかった。
「もう行った。毎年休暇でここに来てるそうだ。俺が電話に出なかったから確認させられただけらしい」
BJの元に戻って言うと、いつの間にか医療鞄とコートを手元に置いていた女は数秒沈黙した後に「そう」と返事をした。本気でメスダーツをするつもりだったのだと知り、キリコは背筋が寒くなる。
「何かあったら俺が何とかする。もう忘れろ」
「何もないって言ってよ」
「願いたいもんだね」
BJの言は心からの願望だと分かったが、こればかりは何とも言えない。曖昧な返答で女の機嫌をやや悪くしてから、ホテルからのデリバリーサービスメニューをピノコに見せていたユリに言った。
「仕事の話じゃなかった。偶然だ」
「そう、良い話だわ。──にいさんが復員してから初めて一緒の旅行なんだから、にいさんだけワシントンにでも連れて行かれたら寂しいと思ってたのよ」
キリコはしばらく黙った後、妹にキスをし、それから妹と同じような顔をしていた恋人を抱き締めてキスをした。恋人の愛娘はキリコをちらりと見、それからいやに高飛車な口調で言った。
「ピノコ、知ってるのよさ。今年はロクターがいないと、素敵なバカンスは送れないのわよ」
キリコは笑い、穏やかであたたかい感情が胸を満たす感覚を味わいながら、三人の女の中で最もいい女だと信じてやまない少女と握手をした。
それからしばらくビーチで時間を過ごす。ユリは一人の時どころかピノコと波打ち際にいても声をかけられることが頻発したが、そのたびにキリコが出動し、やがてビーチでユリを狙っていた男たちは無駄だと悟り、ようやく思う存分遊べるようになる。
「本当にすごいね、ユリさん」
パラソルの下でライチの皮を剥きながらBJは感嘆する。キリコは苦笑するばかりだった。
「プリスクールの頃からああだ。お陰で結構な男性不信の時期もあった」
幼稚園からと聞いたBJは唖然とし、だがユリのような美女の幼い姿を想像すると、なるほど天使のようだったに違いないと一人納得する。
「あ、また」
BJが指す方を見てキリコは溜息をついた。凝りもせずに、もしくはビーチに来たばかりで事情を察するタイミングに恵まれなかった男がユリに声をかけている。キリコは眉を顰めた。男がユリの腕を掴んだからだ。一緒にいたピノコが怒るがどこ吹く風、ユリにべらべらと話しかけている。
「連れて来いよ、私がタマ切り落としてやるから」
その方が見せしめになりそうだと思いながら立ち上がりかけたが、上げた腰をまた下ろした。BJが肩を竦める。
「何か奢ってやれば?」
「あいつじゃなきゃ喜んでそうするところなんだが」
先ほどと同様、どこから現れたのかグラディスが割って入ったのだ。遠目だが、今度は笑顔ではないと分かった。男の腕を掴み、何かを言っている。
「逃げられた」
「やっぱり奢らないとまずいか」
男が逃げたのではない。グラディスがビーチで合意に漕ぎつけたに違いないひと夏限りの恋人が、ユリを睨み付けて歩き去ってしまったのだ。だがBJは感心した。
「女がいなくなったのは分かってるのに、男から目を離さないんだな」
「対敵の基本。──できればあの男、連れて来て欲しいんだが。無理か」
「何で」
「切り落としてやるのさ」
「麻酔無しにしろよ」
妹に気安く触った男を見逃すのも業腹だ。グラディスが入ってくれて良かったとつい思った。自分が行けば無礼な男に対して冷静でいられたか分からない。
「おお」
「流石」
二人で小さく拍手をした。視線の先で男がグラディスに怒鳴った瞬間、男は宙を舞った。瞬きをする間もなく砂に叩き付けられた男は、おそらく何が起きたのか分かっていないだろう。それほどの早業だった。
グラディスはそれ以上男に構わず、ユリとピノコに声をかけた。すぐにBJとキリコがいる方へ三人で歩いて来る。周囲は倒れた男に軽蔑と同情の視線を送り、ビーチの男たちはあの美女に手を出してはいけないと決意を新たにした。
「ご苦労、赤毛」
「ったく、逃げられた。好みだったのに」
勧められてもいないビーチチェアに勝手に座り、これも勧められていないミネラルウオーターのボトルを勝手に開ける。咎める者はここに誰もいなかった。キリコはビーチ専任のホテルマンを呼び、簡単に食べられるものを見繕って欲しいと頼む。
「休憩時だ、奢ってやる。新しい女を探しに行く前に腹ごしらえをして行け」
「僕を歓迎しない割には大盤振る舞いじゃないか。何を企んでるの」
「うちは世話になった相手に食事くらいご馳走するっていうマナーがあるのさ。俺の家系の話だが」
「初めて聞いたのよさ」
「本来は奥さんの仕事だ」
首を傾げたピノコにキリコが答えると、ピノコは得意げに元気よく頷いてみせた。BJとユリは微笑み、悪くないルールだと思う。
「グラディスくん、二回もありがとう。さっきはちょっと困ったの」
「いつ合気道が出るかと期待したんだけどね。腕くらい掴まれても逃げられるんじゃないの」
「水着で立ち回る勇気はないわ」
グラディスに心から感謝しよう──キリコはしみじみ思った。BJも納得の理由だった。
「先生のお嬢ちゃん? 可愛いね。いつ産んだの」
「どうせ知ってんだろ、白々しいんだよ」
どうせ米国には素性を調べ上げられていると分かっているBJは冷たく返事をする。この男のこういう部分が大嫌いだった。案の定、グラディスは含み笑う。ピノコがBJを見る。視線に気付いたBJはこの男について、特殊部隊の隊長だと言うこと以外を簡単に説明した。おまえさんのことも理解してるはずだよ、と言うと、ほっとしたように頷いた。
ホテルマンが用意してくれた軽食を食べながら、キリコは改めて偶然とグラディスについて考える。目の前でピノコと話しながらも──思った以上に子供の扱いに慣れているようだった──さり気なく周囲への警戒を怠っていない。職業病と考えれば納得できなくもないが、それにしても引っかかる。そして思った。ユリを二度も助けたのは偶然なのか?
「赤毛」
「赤毛って言うな。差別用語なんだぞ」
「それはすまなかった。ところで赤毛」
「死ね」
「一人で来てるのか?」
「僕を寂しい奴にするなよ。家族旅行だよ。僕だけ休暇の始まりの都合で早く来たから明後日まで一人だけど」
「一人で来てるんじゃないか」
「家族がいたらやりにくいことを楽しむ時間なんだ。逃げられたけど」
「悪かったわよ」
せっかく楽しみを共有できそうな女性に逃げられたグラディスに、原因となったユリは謝る。
「別にいいよ、また探すし。そう言えばさ、ユリちゃん」
「なあに」
「ガリシア行ったんでしょ、どうだった?」
「あら、知ってるの?」
「ドクターに聞いたんだ」
キリコはBJと視線を交わす。二人に構わずグラディスはユリとピノコに話を振り、ガリシアの話を楽しむ風情を見せた。BJとキリコは一気にグラディスを警戒する。
確かにキリコ自身は、ガリシアに行くことをフォート・デトリックに事前連絡しておいた。だがここでグラディスがその話題を出すことが不自然に思える。フォート・デトリックの警備をすることもある男なのだから不自然ではないと言っても良いのかもしれないが、BJとキリコの闇社会を知る者独特の感覚に引っかかったのだ。
「最後は変なトラブルがあってね。麻薬関係だったから引き上げたの」
「麻薬って──ああ、ヘロインか。あそこはポルトガルの国境に近いから」
「よく知ってるわね」
「仕事上ね」
BJとキリコは諦めた。視線を再び交わし合い、腹を括るか、と言う意思を疎通させる。何もかも調べ上げられている上に、後で必ず自分たちだけに接触してくるだろうと看破した。
「そろそろ戻ろうか。ピノコ、部屋のプールに入るなら水着を替えて。じゃあグラディス、ありがとう」
「うん、ご機嫌よう。ご馳走様」
BJは溜息を押し殺し、キリコはグラディスに小声のフランス語で「用事がある時は俺だけを通せ」と言った。グラディスもフランス語で答えた。本当に休暇なんだってば。
パティオのプールではしゃぐピノコとユリを見ながら、BJはビーチでは飲めなかったアルコールをまた我慢する。いくら浅い場所に限定しているとはいえ、小さな身体の娘が水遊びをする時に酒を飲んでいいとはとても思えない。
部屋に戻るなりリビングの電話が鳴り、応対したキリコがすぐにまた出掛けることになってしまった。
「出て来る」
「赤毛?」
眉を跳ね上げるBJの警戒心に苦笑し、キリコは「違うよ」と言った。
「車のナンバーがスペインのレンタカーだから、長期滞在の時には手続きがいるらしい。チェックインの時にホテルマンが忘れてたんだ」
「ふうん」
「すぐ戻るよ」
BJにキスをしてキリコは出て行く。いつの間にかこういう事務手続きは全てキリコがやることになっていて、それも不思議なものだとBJは思った。
「ちぇんちぇいも入るのよさ!」
「私はいいよ」
水辺での日焼けは思った以上に深くなる。縫い傷が乾燥して痒くなりやすいため、あまり水に入りたいとは思っていなかった。ただ、リゾート地で海を眺めながら過ごせる時間は悪くない。
ピノコとユリがこそこそと何か話していたかと思ったら、プールサイドのパラソルの下にいたBJの元へ、ユリがすうっと水音を立てずに泳いでやって来た。人魚みたい、とBJは思う。
「ね、先生」
「はい」
「水着、にいさんに見せてないでしょう?」
BJは難しい顔になる。それが照れ隠しだと分かっているユリは悪戯げに笑い、浅瀬にいるピノコもにやにやしている。ピノコが訊いたらBJが叱り付けるところだが、だからこそ二人で相談してユリが訊くことにしたのだ。
「見せる必要もないし」
「にいさんが好きそうな水着にしたのに?」
「さあ、どうだか」
「先生、わたし、先生が綺麗だと思うんです」
唐突にユリが言った言葉を一瞬理解できない。思わずぽかんとして、プールサイドの縁に腕を付いて見上げるユリを眺めてしまう。それから何とか理解し、苦笑した。あなたに言われたくない、と心の中で呟いて。
だがそれすらも見抜いたのか、ユリは続けた。
「わたしに言われたくないって思ったでしょう。わたし、普通の人より綺麗だから」
堂々とした宣言にBJは腹を立てる気にすらならなかった。いっそそこまで正しいことを口にできるユリの潔さと、そして勇気を羨ましいとすら思った。
「でもわたし、綺麗でいるように努力してるから。はっきり言えば当然なの。ここまでいいですか?」
「ええ」
確かに努力している姿を見ている。肌の手入れや髪型へのこだわり、体形を保つためのエクササイズに熱心だ。生まれ持っての美貌にあぐらをかいているわけではない人なのだとBJは改めて思い起こす。
「でも先生は、綺麗でいるように努力してないですよね」
「……まあ、そうですね」
はっきりとしたジャッジに苦笑してしまう。おっしゃる通り、としか言えなかった。でもそれには理由があって──元々が人並みにも及ばないくらい醜いツギハギで──そんなことを言っても仕方ない。だから言わない。
「傷を気にしてらっしゃるのは知ってます。──ごめんなさいね、でも、にいさんがいない今しか言えないから」
今度はあっさり切り込む美女に、BJは既に白旗を上げていた。不愉快になれないことが悔しかった。ユリが自分を貶めるために話しているわけではなく、むしろ手を差し伸べようとしてくれていると分かってしまったからだ。
「努力してないのにとても綺麗なの。羨ましいし、ちょっと妬んだこともあるんですよ」
「嘘ばっかり」
「本当。元々綺麗なお顔立ちだし、それからたぶん、わたしには想像もつかないような先生の生き方や経験が、先生を凄く綺麗にしてるんだと思う。妬んだって仕方ない部分から、もう先生は綺麗なの」
自信を持って。ユリは強く言った。
「自信を持って。それから、先生はもっと自分を認める勇気を出してもいいと思う。わたし、先生より綺麗なひとを知りません。にいさんの隣に先生がいてくれて、どれだけわたしが誇らしいか分かりますか?」
分かるものか。そう言いたかった。本当に分からないのだから仕方ない。だが今、それをユリに言うべきではないと思う。最後まで聞きたい、聞きたくない。そんな感情がせめぎ合う中、ユリは続けた。
「今しか着られない水着も服も、あるでしょう。歳を取ったら着られないような」
「そうですね」
「その今を、にいさんにも分けてあげて欲しいんです。先生は恋人の前で今しか着られない服を着て、にいさんは恋人が今しか着られない服を着ている姿を見るの」
それからユリは笑った。
「本当に着たくないなら、先生、絶対に着ないわ。そうでしょう? ラッシュガードとトレンカに隠しても着てるってことは、今しか着られない服を着る選択を自分でしたってことじゃないかしら?」
BJはしばらくユリを見ていた。ユリもしばらくBJを見詰める。そしてふっと優しい笑みを口元に浮かべ、楽しみに待っているピノコの方へまた人魚のように泳いで行ってしまった。
ビーチチェア上でBJは立てた膝を抱えて顔を埋め、溜息をつく。自分に自信があるからそんなことが言えるんです、と言い返せば良かったかもしれない。だが本当は分かっている。ユリは間違ったことを何ひとつ言っていなかった。
たかが水着じゃないですか、傷なんて気にしないで見せてあげればいいじゃない──そんなことを言うひとでなくて良かった。心から思った。またユリのことが好きになった。それから、早くキリコの顔が見たいと思った。
ホテルマンどころか支配人までが顔を出し、手続きの不手際を詫びる。こちらこそ急な宿泊だから、とキリコが気を使うほどに謝られた。手続きを終えて部屋に戻ろうかと思ったが、車にガソリンを足しておこうと思い立った。それほど時間もかからないだろう。BJたちには連絡しないでそのまま外出する。
市街に出てすぐにガソリンスタンドを見つけ、給油と軽い掃除を頼んで車を降りる。上流の観光客が多いガソリンスタンドの店員は慣れ切っていて、店内のラウンジを勧めてくれた。
ラウンジには一組の先客がいた。中年男性とピノコの外見程度の年齢少女が、飲み物を前にテーブルに着いている。リゾート地ではよく見かける父と娘だろう。妻を育児から束の間自由にしてやるために夫が連れ出したのかもしれない。
あいつはそういうのがなさそうだな、一人になりたい時は勝手になるだろうし、そもそもお嬢ちゃんも結構な大人だし──BJとピノコを思い出してそう考えていたが、ふと耳に二人の会話が飛び込んだ。そのまま無視することは多少以上の努力が必要となりそうで、キリコは少し離れたテーブルに着きつつ、その努力を放棄することにした。
「──パパが帰って来る前に、少しだけ手伝って欲しいんだ」
これだけで、男が少女の父親ではないことが分かった。キリコは耳を澄ませる。
「でも、ここで待ってなさいって言われてるの。一緒に行ったら叱られちゃう」
「パパにバレないうちに帰って来られるよ。大丈夫、ほんの少しでいいんだ。おじさんの車にプレゼントがあるから」
「知らない人から物をもらっちゃいけないのよ」
「もう知らない人じゃないだろう。僕はダニーできみはメラニーだ。もう友達じゃないか」
キリコはひとつ溜息をついてから立ち上がり、「おい」と声をかけながら二人のテーブルに近寄った。たちまち男がキリコを睨み付ける。
「何の用だ」
「分かってるだろう」
「分からないね。そちらこそ失礼じゃないか。何を言いたい?」
「先に断っておくが、俺はおまえを通報する。たとえ勘違いでもな。きみはメラニー?」
「……そうよ」
少し緊張した声で返事をし、キリコの左目を凝視する。アイパッチを忘れて来ていたことにやっと気付いた。ホテルマンや支配人、ガソリンスタンドのスタッフが顔に出さなかったため分からなかったのだ。彼らのホスピタリティに感心した。
「俺はキリコだ。──と言うホテルに泊まってる。きみはお父さんと来ているんだね?」
「そうよ」
「彼がお父さん?」
「そうだ、余計な口を──」
「違うわ。ねえ、怖いの、助けてくれる?」
男の荒い口調を遮り、はっきりと言ったメラニーと彼女への教育を称賛したくなる。おそらく親がメラニーに危機への対処を教え込んでいるのだろう。だからこそ男に「行こう」としつこく言われても拒否し続けられたのだ。キリコは男を見た。
「児童誘拐は未遂でも重罪になる。覚悟しておくんだな」
その瞬間、男が椅子を蹴って走り出そうとした。無論キリコが許すはずもなく、足を引っ掛けて転ばせ、抵抗させる間もなく床に抑え付けて全てが終了する。男は何とかもがき、立ち上がろうとしたが、異変を察知して飛び込んで来たスタンドのスタッフたちにたちまち取り押さえられた。
「お客様、ご協力をありがとうございます!」
「いや、お子さんが無事なら何よりだが、あなたたちも行動が早いな」
キリコはスタッフたちの素早さにも違和感を覚える。だがすぐに、彼ら自身の説明でその疑問を払拭することができた。
「警戒中だったんです。最近、この辺りで何人も子供が行方不明になっていて。国家警察からも警告が回ってるんですよ」
「──情報をありがとう。俺の恋人にも小さな娘がいるから用心しておくよ」
そこへようやくメラニーの父が現れた。手洗いへ行っていたと言い、娘の危機を聞いて青ざめ、キリコとスタッフたちに何度も礼を言う。メラニーは父にしがみつき、離れようとしなかった。ホテルに戻ってBJとピノコに伝えておいた方が良さそうだ、とキリコは思った。
ホテルへ戻る時間が予想よりも遅くなり、これは先に連絡をしておくべきだったと後悔する。案の定、部屋で待っていたBJは機嫌が悪いどころか普段の服に着替えていた。今日はもう海にもプールにも行かないと全身で主張している。夕方から市街に出る予定だが、この機嫌ではそれもご破算かもしれないとキリコは絶望した。
「悪かった。事情があるんだ」
「まだ何も言ってないけど」
「ただいま」
「お帰り」
「事情があって遅くなった」
BJは「ふうん」と冷たく返事をし、ぷいとパティオに出てしまう。キリコは女の態度に苦笑しつつ、本音で我儘な顔を見せられることに奇妙な嬉しさを感じた。
ミニバーで少し甘めのワインカクテルと、自分には辛口のカクテルを作ってパティオのBJの元へ行く。指定席になったラタンソファのBJにグラスを渡した。
「お帰りのキスくらいしてくれよ」
「ただいまのキスくらいすれば?」
隣に座って丁寧にキスをすれば、これで半分ほど機嫌が直る。あと半分はキリコの努力だ。
「ユリとお嬢ちゃんは?」
「誰かさんが遅いから、先にランチ。それから自分たちの部屋で昼寝するって」
「おまえは食べたのか」
「まだ」
「俺もまだだ。食べに行くか」
「その前に説明すれば?」
白ワインとオレンジジュースのカクテルを口に運び、BJは先ほどよりは冷たさを排した声で言う。飲みたい時に飲みたいものを作ってくれる男に感心していた。
「ついでにガソリンを入れに行ったら面倒があって」
「どんな」
キリコはガソリンスタンドでのトラブルを説明した。BJは機嫌の悪さを忘れ、嫌な話に眉を顰める。
「その子が無事で良かった。いいことしたな」
「おちおちトイレにも行けない世の中ってのもな。──ホテルの宿泊客に警告を出してくれても良さそうなものなんだが。家族連れも多い時期なんだし」
客足が減ることを心配したのかもしれない、とキリコは思った。ビジネスの都合は時として防犯意識をないがしろにすることもある。
「でも、その男が連続誘拐犯だったかもしれないわけだし、これで解決になればいいんだけど──先に行方不明になってる子たちがどうなってるか」
「そこは警察に任せるしかないな。国境を超えるようならまた大問題になるが」
ふと、キリコはBJの幼馴染を思い出す。口にすれば怒らせると分かっているから言うことはないが、あの幼馴染が統括するマフィアは児童誘拐に手を染めているのだろうかと疑問を持った。大抵の悪事には関係している予想が付くが、児童誘拐は特殊な分野になる。このフランスで起きている誘拐事件で、万一彼が関わっていた場合、BJがどれほど傷付くだろうかと思った。
「単独犯とは限らない。当分は用心しておいて損はないんじゃないか。お嬢ちゃんほど可愛ければ狙われやすいし、ホテル内でも一人で出歩かないように言っておいた方がいい」
「そうする。──もう、せっかくの休暇なのに。どこに行ってもトラブルばっかり拾ってくるんだから、死神は。人の役に立ってなかったら怒ってるとこだ」
死神は苦笑し、抱き寄せて頬に口付ける。戯れに頬を甘噛みすると、初めてそんなことをされたBJはひどく驚き、それから笑って、キリコにも同じことをした。じゃれるように繰り返しているうち、キリコの指が昼には不似合いな熱心さをもってBJの肌を探り始める。
「ちょ、ちょっと待って、まだ昼」
「関係ある?」
「その、朝もしたし、場所──……ん!」
服の上から探り当てられた乳首を軽くつままれ、布越しのもどかしい半端な刺激に息を呑む。するりとリボンタイを外される。求められれば嫌な気分ではないが、かと言って今すぐこの場で、と言う気にはなれなかった。何しろパティオだ。外部からは見えないプライベートが確保されたスペースとはいえ、まだBJはそこまで開き直れない。
「待って、だから、ま……っ」
「うん?」
「ひっ」
耳を食まれて首を竦めた隙に、どこをどうしたものか、男の指が一気にブラウスのボタンを弾くように外してしまった。あっと言う間に手を差し入れられ、じかに乳房を揉みしだかれながら、気付けば膝の間に背後から抱かれる格好になっていた。あまりの早業にBJは驚愕するしかない。
「こんなの、どこで修行するんだ!?」
「修行って」
キリコが笑いながら乳首を摘まみ上げ、BJは答えを得る前に高い声を漏らしてしまう。信じられない、と思った。信じられない。いつも取り澄ました死神の顔をしているくせに、こんな不埒な真似が上手いなんて。
「前から思ってたけど、おまえ、下着のサイズ合ってないよ」
「前からって、───あ」
窮屈そうな下着を飛び出して露わになったふたつの乳房を、キリコは遠慮なく背後から揉みしだき、指先ですっかり勃ち上がった先端を摘まんではこりこりと捏ね、戯れにぴんと弾く。そのたびにBJは身体をひくつかせ、声を上げそうになっては唇を噛んだ。
「外には聞こえないよ。隣の部屋までどれだけ離れてると思ってる?」
「そうじゃなくて、そういうのじゃなくて、だから、ここじゃ嫌だって……!」
本気で恥ずかしがり、嫌がる声音を察したキリコは「俺はこういうのも好きなんだけどね」と呟いた後、一度手を止め、BJの腰に手を回した。譲歩してくれたと思ったBJは安堵の溜息をつく。だが譲歩まではかなり難しい条件があるとすぐに知ることになった。キリコが左腕でBJの腰をホールドしたまま、右手がまた器用に動いて修行の成果を発揮する。
「ちょ、っと!」
BJが止める間もなく、今度はするりとウエストボタンを外した右手が下着の中に入り込んだ。暴れて逃れようとするBJを、恐怖を与えない程度の力で抑えてから耳元で囁く。
「濡れてなかったらやめてあげる」
「──あ!」
滑り込んだ指が秘芯を掠り、堪らずひくついた秘所でたちまちくちゅりと濡れた音を立てる。キリコが耳元でまた囁いた。馬鹿じゃないのとBJが減らず口を叩いてやりたくなるほどに、嬉しそうに。
「濡れてる」
顔に血が上る音が聞こえそうなほど一気に赤面し、いわれのない羞恥心で身体を丸めてしまったBJの髪に宥めるようなキスを落とす。これ以上は本気で嫌がるだろうと理解できたし、それなりに楽しめた満足感も得たキリコは、ごめんね、と優しく言った。
「ベッドに行く? それともやめる?」
「ふざけんな、馬鹿キリコ」
BJが振り向き、真っ赤なまま涙目でキリコを睨み付ける。可愛い、とキリコが思う間もなくその手が動いた。そしてキリコは思わず呻いた。
「……っ、こら」
「こんなにしてるくせに、やめられるもんならやめてみろよ」
とうに熱く、硬くなっていた中心を思い切り掴まれれば、衣服越しとはいえ息を呑んで当然だ。流石医者、えげつねえ、とキリコが言いたくなるほどにギリギリの力で容赦なく掴まれている。
「ちょ、強い、加減しろって!」
「おまえさんが言うことか、好き勝手しやがって!」
「分かった、分かりました、ごめんなさい!」
言うなり手を外させ、キスをする。そのまま立ち上がり、BJの身体に手を回した。抱き上げて寝室に連れて行ってくれるのかな、と甘く思ったBJの予想はある意味では正しく、ある意味では間違っていた。
「酷くない!?」
「おまえの方がよっぽど酷いだろう!」
抱き上げられたことには代わりない。だがいつものように丁寧な、それこそ姫君を抱くような恭しい横抱きなどではなく、いつか見た、酔い潰れた妹を運んだ時と同じように肩に担ぎ上げられていた。
「早漏野郎、米俵だとでも思ってんのかよ!?」
「もうそのネタは通じねえって知ってんだろうが、クソビッチ!」
言い終えないうちから二人で笑い出してしまっているのだからどうしようもない。やだやだぁ、とわざとらしく脚をばたつかせて嫌がる振りで、それでも笑うBJの尻を叩く真似をしながらキリコも笑い、さあどうしてくれようとわざとらしさ半分、本気半分で言いながら寝室へ歩く。
リビングの電話が鳴ったのはその時だ。キリコは出るつもりなど毛頭なく、BJも今はいいかな、と聞こえない振りをする。寝室のベッドに荒っぽい振りをして丁寧に投げられると同時に電話は静かになり、あとは思う存分、ふたりきりでシーツの上で遊ぶことにした。
先に上がっていた体温はベッドの中でもあっさりと熱を取り戻し、軽くキスをしただけで互いの息は欲を孕み、BJはキリコの愛撫を喜んで受け入れる。パティオで押し殺し続けた快楽の喘ぎを惜しみなく漏らしては男を煽り、煽られたキリコの愛撫は熱を帯びるばかりだった。
指と唇に肌を探られ、漣のように緩やかに押し寄せる快楽に陶然としながら、ふわふわとした感覚に満たされて行く。キリコは色んな抱き方を知っている──BJは幸福感に包まれながら思う。
昨夜のような強すぎる抱き方も、朝のような穏やかな抱き方も、今のような緩やかな幸福感を与えてくれる抱き方も、キリコがもたらしてくれる快感だと思うと全てが愛おしい。
気持ちいい。素直にその感覚を受け入れる。気持ちよくて、よくて、いつまでも緩やかな心地の感覚の中にたゆたっていたくなる。
こんな心地をくれる男が愛おしすぎて胸が痛くなった。キリコが中に入って来た時、あまりに愛おしくて我知らず涙が出た。驚いたキリコが動きを止め、頬に手を当てて涙を拭ってくれる。これも幸せだと思った。
「痛かった? ごめん」
「そうじゃなくて」
その訊き方も好きだ。とにかく好きでたまらない。好きで好きで──わたしはこの男がいなかった時、よくも生きていられたものだと思うほどに、好きで、愛おしくてたまらない。
「キリコにしてもらうのが気持ちよすぎて、幸せで、ずうっと、このまんまでいたくなっちゃった」
するとキリコが嬉しそうに微笑む。その笑い方でまた胸があたたかくなる。愛おしさに任せて腕を延ばすと、覆い被さるように抱き締めてくれた。
「俺も。愛してる。──クロオ」
その瞬間、自分でも驚くほどに下腹の奥が熱く震えた。ぎゅう、と身体の中で音がした錯覚を覚えたほどにきつく男を締め付け、首元に顔を埋めたキリコが息を呑んだ気配を感じる。
「ちょ、っと、締め付けすぎ。危なかった」
「ごめん、あの」
「うん?」
顔を上げ、キリコが顔を覗き込んで来る。困り果てたと言っても過言ではないほどに感情を揺さぶられたBJは、何を言えばいいのか分からず、結局は思ったままを言うしかなくなった。
「は、──初めて、呼ばれたから、その──幸せが、オーバードーズしちゃった感じで……」
キリコはしばらく沈黙した。それから苦笑と言うには柔らかい笑い方で息を吐き、BJの額に、頬に唇を寄せる。
「ODって──薬物じゃあるまいし」
「ご、ごめん、ちょっと今、語彙が」
的外れなことを言ってしまったかと焦るBJに、やはりキリコも思ったままを言う。
「いいよ。過剰摂取なんて嬉しいじゃないか」
俺もODになりそう。囁くとBJは嬉しそうに笑い、抱き付いた腕にぎゅっと力を込めた