私有地から続く細い階段を下りれば砂浜に出る。ピノコが眠った後、短い時間を二人で歩くこともたびたびあった。それでもキリコが早めに切り上げて帰るように促していた。アメリカだと逮捕されちまうからな、どうしても感覚が抜けなくて、と笑って言っていた。聞いた時、BJはこの男が本当に好きだと思ったものだ。
だが、ユリがいるし、と今日はキリコが言った。BJはそれだけで色めいた嬉しさを覚えた自分を浅ましいと思ったが、繋いだ手にいつもより力が入っているような気がして、きっとこの男も、と感じたことも確かだ。そうでなければあんなサプリメントをわざとらしく飲ませるはずがない。
あのMRはたまに冗談とトラブルの線引きがぎりぎりになるような薬を持ち込んで来る。表社会のストレスを闇で晴らす変わった男だ。キリコが線引きを楽しむ彼を気に入っていることは知っているし、自分も機嫌のいい時には好ましい相手だった。
「寒くないか」
「平気」
キリコの優しい問いに返事をし、ああ、と思った。わたしは浅ましい。海風で少し寒くてもおかしくないはずなのに、この男と手を繋いで歩いて、優しく話しかけられただけで──熱い。
繋いだ手から熱さが伝わってしまうのではないかと焦る。だが手を離したいとも思えない。絡めた指が汗をかいてしまいそうで、それが恥ずかしかった。
踝まである慣れないスカート丈が少し歩きにくい。キリコの家ではよく着るタイプだが、砂浜の上を歩くのは初めての長さだった。
穏やかな波の音を聞きながらゆっくりと歩く。夏場でもこの辺りまで人が来ることは少ない。ましてやまだ夜は冷える春先、間家の私有地だと勘違いしそうなほど、二人の他には誰もいなかった。
「夏場はこんな場所でも人が来るよ」
「へえ、そうなのか」
崖の下だけあって岩場も多い。キリコは砂と岩場の間を選びながら歩く。ロマンティックな波打ち際は少し遠いが、この時期に飛沫で濡れる必要はなく、BJがそこに行きたがらなければ問題なかった。
「昔はあの階段を見付けて上がって来ちゃって、うちに入り込んだりする奴もいてね。迷惑だから親分に愚痴ったら、その年から誰も来なくなった」
「ああ、元患者のヤクザのボス? 何をしてもらったんだ?」
「知らない」
「ふうん?」
「あの人、教えてくれなかったし。でも助かってる」
こいつの愚痴る、相談するってのは命令するのと同意なんだよな、分かってやってるからたちが悪い、自分に責任が発生しないやり方で望みをかなえるんだ、とキリコは顔に出さずに思った。それに応じる表裏の権力者たちは理解した上で手を回すのであろうことも。
「すごい人でね。わたしが長く家を空ける時はピノコのこともお願いしてるし」
「ふうん」
キリコは相槌を打ちつつ時間を計算する。あの錠剤を飲んだ時間から考えると多少早いが、風呂上りで眠い状況だったBJならそろそろ効果が出ていてもおかしくない。繋いだ手が普段よりも温かいことも予想に信憑性を与えてくれた。
「それで──」
「マフィン」
足を止めて微笑みながら、思ってもいない、だが効果的な言葉をあの低く甘い声で言った。
「他の男の話をしないでくれよ」
「え」
BJが失態だと悟って顔を曇らせる前に抱き寄せ、額を合わせて囁く。
「妬けるからね」
「……何それ」
怒らせなかったと安心したBJは身を捩り、だが安堵を隠せずに男の首にしがみつく。病んだ女が可愛いと思える、キリコが最高に好きな瞬間だった。BJ以外の病んだ女に同じことを思える自信はないが、この女なら全く問題がない。
しがみつくBJに唇を重ねた。少しだけ丁寧なキスだと思っているであろう女を抱きすくめ、驚かせる間もなく片手で顎を抑えて深いキスをする。不意打ちと言ってもいいそれにBJはびくりと身を震わせ、それでもすぐにキリコが望む熱量で応えた。
まるでベッドの中でするような、深すぎて吐息も呑み込まれるほどの口付けは、やがていやらしく湿った音を響かせ始める。遠くに聴こえる波の音よりもはっきりと聴こえる水音は、いつもように──否、いつもよりも急激にBJの性感を疼かせ、戸惑わせた。
男に絡め取られた舌が明らかにやわらかく蕩け、漏れる吐息が熱すぎる。熱いのは吐息だけではなかった。自分でもはっきり分かるほどに身体が熱く、腹の中がうねり、疼いた奥からじゅんと濡れて零れそうになる。
どうして、と焦った。どうして。キスだけで熱くなることはそりゃあ前にもあったけど、でもこんなになったことなんて──焦りを見抜いたかのように男が合わせた唇の奥で笑い、BJの下唇をぺろりと舐めて言った。
「さっきの薬」
「え」
「効いてるのかもな」
「え、……え?」
だってただのサプリメントだって──だがそれは言わなかった。言えなかったのだ。確かにこの身体の熱さは、性感の昂ぶりは、通常と違いすぎると分かっているのだから。
そう思った瞬間にまた溢れるように濡れた。思わずスカートに隠れた両腿を擦り合わせると、身動きで察したキリコが笑って目元に唇を落とす。
「濡れちゃった?」
「……っ!」
途端に真っ赤になるBJが可愛くてたまらない。キリコは今すぐにでも抱いてしまいたい衝動を堪えながら、恋人が大好きな甘い声を耳元に与えた。
「恥ずかしくないよ。俺以外の男の前でそんなことになったら許さないけど」
「……ない」
「本当に?」
「ない、もん……!」
神よ、とキリコは呻きたくなった。反則だと断定したいほどに可愛い応えだとしか言いようがなかった。可愛さを噛み締めながらも、BJが過剰な身体の反応のせいで恋人に疑われたと思い込みそうになる前に「嬉しいよ」と言ってまた強く抱き締める。
「ごめんね、疑ったんじゃないんだ。俺が嫉妬深いのがよくない」
「キリコが?」
「そうだよ。知らなかった?」
「知らない。全然そんなふうに思えない」
そりゃおまえに比べれば誰でも嫉妬と無縁に見えるだろうよ──無論、そんなことを口にする愚を犯そうとは思わない。
「買い被り過ぎだよ」
さも心外だと言わんばかりに苦笑を作ってやる。すると女は満更でもない顔をし、自分からキスをして来た。男の嫉妬が心地よい刺激になったのか、普段のBJからは考えられないほど熱を帯びたキスにキリコは密かな楽しみが順調に進行していると確信する。
「……ん、ぅ」
合わせた唇の間から、息継ぎの合間にBJが甘い声を漏らし始める。キリコに先をねだるように身体をくねらせながら擦り付けるさまはひどく煽情的で、他のどんな男も知らない姿であろうことは間違いない。その姿と事実はキリコをいとも簡単に煽る。
やがて唇を離したBJがキリコの手を取り、自分の胸の上へと導いた。キリコからすれば驚天動地と言ってもいい行為だ。こんな真似をされたことがない。だが真っ赤に潤んだ目元で見上げ、濡れた唇を半開きにして自分を見上げる女を見て、あの錠剤の効果を確認することができた。
「ねえ」
そして濡れた唇が動く。
「可愛がって」
理性はそこで役割を終えた。キリコは返事もせずに噛み付くようなキスをし、慌ててそれに応えようとする女のトップスの裾を下着ごとたくし上げて胸を露わにさせ、痛みを与えない程度に強い力で柔らかいふくらみを揉みしだく。
「ぁ、っ」
たちまちBJの声は崩れ、直接的な性感よりもキリコの手の感触に煽られたように感じ入った喘ぎを漏らした。
「んんっ」
揉みしだく指の間に乳首を挟まれた途端に息を呑み、それだけで奥から溢れ出す感触を覚えて、もっと、と呟いてキリコにしがみつく。キリコは一度手を離し、BJが喪失感に襲われる前に抱き上げてしまった。
何をされるか分からないまま、それでも男への全幅の信頼を示すかのように首筋に抱き着いたBJは、それほど歩かないうちに岩場の上に丁寧に座らされた。比較的凹凸の少ない岩だった。キリコが先に目を着けていた岩だとは想像もしない。
「ベッドまで我慢できそうにないんだ。痛かったらごめんね」
我慢できないのはわたしのほう。本当はそう言うべきかもしれないとBJは思っていても、目の前に立つキリコがバーガンディーカラーのパーカーを脱いだ瞬間、月と海の光の逆光の中、露わになった男らしく引き締まった上半身を見て息を呑み、自らの浅ましさを恥じて言えなくなった。恥じたはずなのに腹の奥がうねり、また濡れて、スカートの下の腿を擦り合わせるしかできない。
キリコが中腰になってキスをしながらパーカーを岩に敷く。そのまま押し倒されそうになったBJは待ってと声を絞り出し、男の胸を押した。堅く男らしい胸板の感触と熱がてのひらから身体の芯まで一瞬で侵食し、ああ、と思う。ああ、わたしの理性なんて焼き切れてしまう。
あの錠剤はサプリメントなんかじゃない、と強く思った。──あれはサプリメントなんかじゃない。キリコがわたしを騙したか、あのMRがキリコを騙したんだ。きっとそうだ。
目の前の身体に抱き着いた。立っている男の腰に腕を回し、鍛えられた腹筋に頬を寄せる。どうしたの、と笑って髪を撫でてくれた。その感触だけでぞくりと欲が沸き上がる。腹の奥と口の粘膜がひどく疼いた。止められなかった。
普段よりもカジュアルなキリコの服に手を延ばし、フロントを開こうとする。慣れなくて上手く出来ず、もどかしくて仕方ない。もう、と悔し気に呟いて、服の上から熱くなりかけていたそれを食んだ。見降ろすキリコの熱を込めた視線を感じたが、恥ずかしいとは思わなかった。だって仕方ないじゃない、としか思わなかった。──仕方ないじゃない、あんな薬を飲ませるから。
布地の上から甘噛みを繰り返し、もどかしい動きをどうにかこなしてフロントを開けていく。途中でキリコが手伝ってくれた。嬉しいよ、可愛いね、と湿った熱と歓喜を込めた声で言われ、嬉しくてたまらずに、物も言わずにそれを口に含んだ。
キリコに教えられている通りに舌を使い、指で触れ、硬く、熱く育てば吸いながらゆっくりと顔を前後させる。溢れる唾液の始末が苦手で、どうしてもじゅるりと音を漏らしてしまうことが情けなくて仕方ないのに、上手だよ、と男が嬉しそうに言って肩を撫でてくれるのはいつもこの瞬間だ。そのたびに舌に苦い味を感じて、きっとキリコはこれが好きなのだろうと思うことができる。
「もういいよ。俺にもさせて」
優しく顎をくすぐられるのが終了のいつもの合図だ。ふぁ、と息を吐きながら口から外し、名残惜しくて先端をちろりと舐めると、いっちゃうよ、と苦笑して髪を撫でられ、身を屈めた男に唇を塞がれた。そのまま今度こそ後ろへ優しく倒され、パーカーを敷いた岩の上で膝を立てさせられる。裾からひやりとした空気が入り込み、既にだらしなく露わになっている乳房が揺れるほどぶるりと身体が震えた。
「寒い?」
「あつ、あつい」
快楽を予感して目元を紅くし、荒い息でありながら消え入りそうな声で応える女に頷いて笑いかけ、キリコはわざと雑にスカートの裾をめくり上げた。反射的に閉じようとした脚をやんわりと抑え、薄闇と月の光の狭間に浮かび上がるきめ細かいなめらかな肌と、キリコからすれば美しい芸術としか思えない縫合痕に目を奪われる。
太腿の内側を撫で、綺麗だね、と言うと、それだけで感じた女は吐息と喘ぎをないまぜにした猫のような声を漏らした。それが男を感じさせる。誘われるように太腿の奥に手を進ませ、湿った布地に辿り着いた。
「いつもより濡れてる」
「……っ、だって、くすり……」
「薬?」
「さっきの」
「──そうか。効いたね」
キリコは意図せず笑った。途端に女の瞳が情欲に揺れ、ああ、俺は今、きっと獰猛な目を隠し切れなかったんだろう、と正解を知った。自らむしゃぶりつくように咥えた姿を思い出すまでもない。
愛しい、そして楽しくて仕方ない。あの錠剤は確かにBJに効いた。ならば自分も効果を認めよう。身体は確かに熱く、精神が高揚している。間違いなく効果があった。
「──っ!」
ひどく濡れた下着の上からも分かるほど膨れ上がった秘芯を布越しに引っ掻くと、声にならない悲鳴を上げてBJの身体が跳ねた。ああ、可愛い──熱に血が集まる感覚を自覚しながらこりこりと何度も引っ掻く。そのたびに跳ねる身体が愛おしくてならない。
「ぁ、あっ、ぁ──っ……!」
「気持ちいい?」
「いいっ、きもちいい……っ!」
「これは?」
「ひんっ!」
布ごと摘まみ上げられれば嬌声と共に身体が跳ね、スカートの裾がめくり上がる。太腿も露わに与えられる快感を受け入れ、腹の奥から途切れることなく沸き上がる熱は留まるところを知らなかった。身体の隅々、細胞のすべてが熱くてたまらない。愛しい男も明らかに熱く、高揚している。何て薬、と思う。──何て薬なんだろう、何てひどい、何て──何てきもちいいくすりなの!
下着の横から差し入れられた指がびしょ濡れになった秘所の入り口を探る。それだけでも気持ち良くて気持ち良くてたまらない。もっと、もっとと腰を揺らせば長くて節くれだった指がぐちゅりと音を立てて入り込み、浅い、ひどく感じる場所をいやらしく探り始める。
「あ、ぁっ、──は……っ」
下着のせいで制限される指の動きがもどかしい。身体が覚えている深い刺激が得られず、BJは腰をくねらせて抗議した。キリコが笑い、脱ぎたいの、と問う。普段のBJなら赤くなって文句のひとつも言うところだが、今はいいんだ、薬が効いてるんだもの、と思いながら素直に頷いた。
「本当はね」
ゆっくりと女の下着を降ろしながら、キリコは静かに言う。
「ここをたくさん舐めて、何回もいかせてあげたいんだけど──ここだと背中が痛くなるから、それはまた今度にしよう」
何を言われているのか分からないほど、この男に愛されていないわけではない。意味を理解した途端にぞくぞくと甘い痺れが走り、同時に失望感に襲われたBJは、頷きながらも恨みがましい目でキリコを見上げた。その顔を見たキリコは笑った。
「そんな顔をするなよ。ちゃんと気持ち良くしてあげるから」
膝に下着を引っ掛け、目で楽しみながら指を進める。露わになった太腿の奥で溢れる潤みの中へ差し込むと、甘い声と共にBJの顎がくいと仰け反った。
「んあぁっ」
浅い一点で指を曲げればまた腰が跳ね、揺れては指を奥まで誘い込もうと柔肉がまとわりつく。宥めるように軽く撫で上げてから指を増やし、背後の海の波音の中でも聴こえるくちゅりといういやらしい水音と、いつもよりも明らかに過敏に感じている女の艶めかしい喘ぎ声を響かせた。
「ぁ、──そこ、あんまりするのだめ……っ」
「うん?」
「いっちゃう、から、服、汚れちゃうからぁ……っ!」
快感を必死で堪えようとしては失敗し、蕩けた顔で言っても説得力などあるはずがない。無体を強いているような錯覚にさえ陥り、キリコは思わず昏い、雄としての本能的な感覚から刺激を得た。それでもその欲求に流されるわけにはいかない。怖がらせるなど以ての外なのだから。
「──うん、分かってる。これでやめるよ」
いくら人が来ないとはいえ屋外だ。衣服をひどく汚すわけにはいかない。元々今はそうさせるつもりもなかった。最後に少し強めの刺激を与えて性感を深めることにして、ぐっしょりと溢れた秘所の中で遊ぶ指に力を入れた。
「ひっ!」
入り込んだ指がぐるりと回って柔肉を抉り、BJは悲鳴を上げて痙攣を起こす。しまった、とキリコが焦る間もなく、噴き出したなまぬるい水が腕を濡らし、キリコの胸、口元まで飛んだ。ひくひくと痙攣を繰り返して意味を持たない喘ぎを漏らすBJの顔を見降ろし、最高、と我知らず呟く。
惚けた顔の女と目が合い、わざと視線を外さずに口元についた愛液をぺろりと舐めてみせると、一気に理性が戻りかけたBJの顔が真っ赤になった。可愛いとしか思えずに笑ってしまった。
「可愛い」
「……汚れた」
「そうだね。帰ったら着替えないと」
「もう帰る」
「それは酷い。慈悲をくれよ」
快感の余韻と恥ずかしさで顔を赤くしたまま起き上がろうとしたBJにのしかかるように押しとどめ、露わなままの太腿を軽く撫でる。達したせいで敏感になった肌に触れられたBJはびくりと震え、またあの薬の効果を思い出したかのように、もう、と甘え声で呟いて男の首に腕を回した。だからキリコは囁いた。
「効いてるね」
「知らない」
「効いてるよ。いつもより感じやすいし、興奮してる」
俺もね。とどめのようにそう付け加えると、それだけでBJの身体がまた震える。
「……ん」
薬のせいだからと自分に言い訳をしながらキリコに深いキスを仕掛け、片手を伸ばしてまた熱に触れた。とうに硬くなっていたそれはひどく熱くて濡れている。指で触れるだけで腹の奥が疼いた。たまらなかった。ねえ、と言った。ねえ、早く。
「キリコ」
「うん?」
「早く、して」
最高だよ、と男が熱い息を吐きながら、甘い声で囁いてくれた。それだけで腰が砕けてしまいそうで、あの薬、なんてひどい、なんてすてき、と思いながら、BJは夢中で身体を押し付けていた。
岩に手を付かされて顔が熱くなる。後ろからされたことは幾度もあるが、服を着たまま、それなのに尻の上まで服の裾をたくし上げられて眺められたことなどない。
「腰、もう少し上げて」
甘い声はまるで命令だ。唯々諾々と従う以外に何もできない。動物のように高く上げた尻をてのひらで撫でられた。それだけで疼いて溢れていく。自分でもはっきりと分かるほど息が熱く、荒い。
硬い熱が当てられただけで喉が鳴り、疼いて秘所が締め付けようとひくついてしまった。入れさせてよ、と先端でその動きを味わわされた男が笑って言った。その声も熱くて、その熱さにまた疼く。
「ん──っ……」
後ろから尻を割るように入り込んで来た熱に呻きのような喘ぎを漏らす。ぞくぞくと背筋に快感が走り、身体中が男の熱に歓喜した。
「力抜いて」
「ん、ん……っ」
「上手」
「あぁっ」
言われた通りに力を抜くと少し深くキリコが入り込み、堪え切れずに高い声を上げてしまった。
外で服を着たまま、しかも動物のように繋がる姿など恥ずかしくて想像したくもない。それなのに勝手に脳裏にいやらしい光景が浮かんで、そして男の熱さと自分の疼きが現実の感覚として襲い掛かって来る。いやだ、と思った。いやだ、いやらしい、こんなの、こんな、──きもちいい。
岩の上に敷いたパーカーのバーガンディーカラーが目に入る。敷いた意味がないじゃない、と思っておかしくなったが、すぐに浅い場所を緩く突かれて身体がぐずぐずに崩れる感覚に飲み込まれてしまった。
「ぁ、っ、んん……っ」
突かれるたびに腰が揺れるのは無意識だ。浅い場所だけではもどかしくて、どうにか奥へ奥へと招き入れたがり、柔肉が涎を垂らして男を絡め取ろうとする。もっと、と鳴いた。
「キリコ」
「うん?」
「もっと、奥、して」
あの薬のせいだ。たまらない。濡れて飲み込む秘所も、じんじんと痛いほど疼いている秘芯も、すっかり降りて突いて欲しがっている腹の奥も、すべていつもより熱い。キリコが背後から腰を支えてくれなければへたりこんでしまってもおかしくないほどに力が入らない。手を付いているだけで精一杯だった。それなのに性感だけははっきりと上がって行くばかりで、いつものようにすぐに奥に入ってくれない男を恨みがましくさえ思ってしまう。
「気持ち良くない?」
「いい、けど、もっと奥がいい」
首だけを回して肩越しにキリコを見上げる。優しい笑みを見せてくれた。それなのに明らかに欲情した青い目を見ただけでまた疼き、締め付けて男の笑みを苦笑に変える。
「可愛いね」
充足にも似た息を吐き、キリコは心の底から呟いた。肩越しに見上げ、締め付ける女の何と可愛いことか。奥がいいといつもより恥じらいを見せずにねだる顔は明らかに焦れていて、ゆるゆると腰を揺らして呑み込もうとする。見ているだけで達してしまっても言い訳ができないほど熱が高まったことを自覚した。途端にBJが小さな喘ぎを漏らして下を向く。
「きり、こ」
「うん?」
「なかで、おっきくなった……」
今の声でいかなかった俺を褒めろ、とキリコは世界中の男性に要求したい衝動に駆られた。それほど今のBJは可愛かった。可愛いという言葉では足りないほどだ。
「──たまんねえよ、おまえ」
「……っ」
知らず乱れた荒い言葉にすら感じる。びくりと揺れた背中にキリコは笑いかけた。ある種の満足と獰猛さがないまぜになった笑みだとは気付かなかった。この女は俺がセックス中に言葉を乱すと喜ぶんだ、と確信した。
「奥じゃなくても、ここも気持ちいいだろ? 駄目?」
「あぁんっ!」
浅いままで少し強く突くと、BJは高く喘いで背を逸らせる。明らかに普段よりも顕著な反応に、キリコは思わず舌なめずりをし、最高、と小さく呟いていた。あの薬は相当効いているようだ。片手を前に回して秘芯を探る。充血し切って膨れたそれに触れた途端、飲み込んだ秘所がきつく締まり、ひときわ高い声で悲鳴が上がった。
「駄目、だめ……っ、それだめ……っ!」
「駄目じゃない、気持ちいいよ。剥いちゃおうか」
「やだ、ぁ、──ひ……っ!」
抵抗も虚しく慣れた指で薄皮を剥かれた秘芯に海風混じりの空気が触れる。それだけでもひどい刺激だというのに、男の指は容赦がない。剥き出しになった芯を愛液で濡らした指の腹で抑え、くるくると回すように滑らせる。
「だめ、や、やぁぁっ」
「嫌なの? 気持ちよくない?」
「っひ、ぁ、あぁっ、──らめぇ……!」
堪り兼ねたBJはパーカーに頬を押し付け、浅い呼吸を繰り返しながらがくがくと両腿を震わせて喘ぎに喘ぐ。浅い場所でしか繋がっていないそこから抜けないようにキリコの片手が強く腰を抑え、逃げることもできなかった。触れる指は止まらない。下着越しに触られていた時よりも強すぎる快感を苦痛と錯覚してしまいそうになるほどで、BJは自分が喘いでいるのか泣いているのかも分からなくなる。
「ぁ、やっ、らめ、また、またいく、いっちゃぅっ」
「いきそう?」
「らめっ、も、らめぇぇっ!」
「いいよ」
「ぁ──!」
二本の指できゅうと摘まんだ瞬間、BJがびくびくとひどい痙攣を起こした。また勢いよく溢れ出した多すぎる愛液が砂の上に小さな水たまりを作る。
潜り込んだ先端を強く締め付ける秘所の痙攣を堪えつつ、滅茶苦茶エロいけどこれは見せない方がいいな、恥ずかしがって泣き出しそうだ、とキリコはどこか冷静に思った。
荒い息を吐き、敷いたパーカーにしがみついて、BJはぐったりと上半身を岩の上に伏せてしまう。力が入らない。それなのにすぐにキリコがまた浅い場所を突き始めて、か細い悲鳴のような、しかし明らかに快楽に囚われた喘ぎを零した。そしてすぐにそれは泣き声に変わる。
「きりこ」
また肩越しに見上げ、泣き顔で本気の懇願をした。こんな声でキリコに縋ることになるとは考えたこともなかった。あの薬のせいだ。そうとしか思えなかった。自分の中にこんな声があったなどと到底信じられない。
「うん?」
「おねが、お願い、だから。奥、入れて」
「どうしても?」
「我慢できないからぁ、……ちょうだい……」
泣きながらねだり、無意識に腰を振った。奥へ入れたくてキリコに腰を押し付けるように突き出してしまう。ふ、とキリコが明らかに熱を抑え切れない息を吐き、押し付けられた尻を強く掴んで、それだけでBJを喘がせた。
「あっ」
不意にキリコがBJの右太腿を高く持ち上げる。繋がった場所にひやりと触れた海風に動揺する間もなく、足を岩の上に上げさせられていた。脚を大きく開き、右膝だけを立てるような格好に羞恥の喘ぎを漏らす。
「恥ずか、し……」
「そんなはずないよ」
気持ちいいはずだよ。笑いを含んだキリコの声に、腹の奥が狂ったように喚き始めた。早く。早く早く。ああ、とBJは喘ぐ。ああ、──ああ、あの薬、なんてすてきなの!
「──あぁぁっ!」
大きく開いた股からぐいと勢いよく入り込まれ、奥に当たった瞬間、BJはまた達していた。キリコが息を詰め、それから笑い混じりに吐き出す。
「ほら、気持ちいいね?」
「ん、……ん……、きもちぃ、きもちぃぃ……っ、──ぁあんっ!」
脚を上げたために奥まで容赦なく入り込めるようになった硬い熱が、じゅぶじゅぶと泡立つほどに溢れて締め付ける秘所を擦る。蹂躙するように叩き付けられたBJが小さく痙攣するたびにびゅくりと愛液が噴き出した。断続的に小さく達しては潮を噴いている。気付いたキリコは感嘆にも似た熱い息を吐いていた。
「きりこ、ぁ、あぁんっ、奥、きもちぃ……!」
「エロすぎるだろ、おまえ」
「だ、って、あれ……っ」
「うん?」
「くすり……」
「──本当によく効いてる。凄いよ」
「あぁっ!」
笑いながら強く叩き付け、必死で熱を取り込もうとする奥の動きの快感を味わいながら、また仰け反って濡れた歓喜の悲鳴を上げるBJの背中を眺める。ベッドではできないような体位で片脚をはしたなく下品に高い位置に上げ、夢中で腰を振って尻を揺らすさまは、普段の姿からはとても想像できない。その光景と事実がキリコの劣情を煽らないはずがなかった。
「んんっ」
パーカーにしがみつくBJの上半身を抱え起こし、キリコは僅かに前屈みになってBJの背中と密着する。たくし上げられて乱れたままの乳房を強く掴んで乳首を指で挟むと悲鳴が上がり、首を巡らせて振り向いたBJが片手をキリコの首に回してキスをねだった。不自由な態勢のまま深いキスを与え、女の喘ぎを飲み込み、降りて喰らい付く奥へ何度も腰を叩き付ける。そのたびに飛び散る愛液がBJの脚とキリコのボトムを濡らしていく。
「きり、こ」
「うん」
「きもち、い」
「俺もだよ。すげえいい」
「きもちいい、──きもちい……これすき、このくすり、すきぃ……」
快感に蕩けきった顔で訴える女が可愛くて仕方ない。熱すぎる吐息と喘ぎを舌で絡め合い、伝い落ちる唾液もそのままに強く抱いた。腹の奥を蹂躙されて悦ぶ女は揺すぶられるままに喘ぎ、きもちいい、と何度も繰り返しては男を締め付ける。
「可愛い」
キリコは言った。何度も言った。可愛い、俺の。言うたびにBJは震えて快感を示す。何よりも好きな言葉なのだと全身で教える女が可愛くて可愛くてたまらない。
「ぁ、きりこ、もう、すごいのくる……っ、いっちゃうよぉ……!」
「……っ、俺も。いいよ」
大きくうねった奥に強く絡められ、キリコも限界を感じる。今までにない激しさで腰を打ち付けるとBJがひときわ高く啼き、きもちいい、きもちいいと薬の効果だと信じて喘ぎ狂う。ぞくぞくと襲い来る快楽の波の中でそれを聞き、キリコは笑った。
「あ、ぁ──……っ!」
瞬間、BJが激しく痙攣する。キリコはその強すぎる締め付けに耐える努力を放棄し、また噴き出した愛液から熱を引き抜いて、濡れた太腿に白濁を吐き出していた。
荒い息が収まるまで背後からBJを強く抱き締め、やがてBJが動いて前を向き、抱き着いてキスをねだる。後戯に相応しい緩くて甘い口付けを繰り返しながら、やがて二人は顔を見合わせて笑った。
「すっごい効いた」
「うん?」
「薬」
「──そうだな。可愛かった」
頬にキスをするとBJは笑う。キリコも笑う。それからBJは悪戯げな目でキリコを見上げ、小さな声で言った。
「まだある?」
「癖になりそう? エロいね」
「そういうこと言わないで」
たちまち羞恥に襲われて拗ねた顔をするBJに笑いながらキスをして、帰ろうか、と言った。
汚れた衣服を直す時、ようやくBJはとんでもなくはしたないセックスをしたのだと思い出して顔を赤くする。あれだけ悦んでおいてこれだもんなあ、これがたまんねえんだよなあ──顔には出さずにしみじみと噛み締めつつ、キリコは服の乱れを直す手伝いをしてやった。
「ユリさんに怒られるかな」
「どうして」
「だって、随分長く外に出たし。ピノコのこと見ててくれてるのに」
「ああ、それなら平気」
「え?」
「そこまで野暮に育てた覚えはないからな」
「おにいちゃんだ!」
「おにいちゃんですから」
手を繋いで歩きながらくすくすと笑うBJに微笑みつつ、妹に渡す21万が財布に入っているかどうかを思い出そうとしたのだった。野暮ではないがしたたかに育ったものだと思いながら。
「でも、あの薬って」
「うん?」
「他に何の成分が入ってたのかな。あの彼が持って来たなら違法成分じゃないとは思うんだけど」
「どうだろうな。今度訊いておくよ」
「キリコが?」
「おまえ、訊ける? 彼氏と使ったら盛り上がったんだけど、あれ何入ってるのって」
「……無理。頼んだ」
たちまち顔を赤くしたBJが可愛くてキスをする。家に戻るまで何度もキスをした。今度は外じゃなくてベッドで使ってみよう、と言うと、BJは顔を赤くしたまま頷いた。
「こんにちは、ご在宅ですかぁ?」
翌日の正午前、あのMRの明るい声が響く。男の訪問は男が出るという家族の決まりに則り、キリコが玄関に出た。
「よう、また来たのか」
「おや、ドクター。お泊りだったんですねぇ。先生にご挨拶をと思いまして」
「機嫌は悪くない。おまえさん次第だろ」
「ありがたい情報です!」
そしてMRは声を潜め、わざと作った下世話な顔でキリコを見上げた。
「あのサンプル、使いました?」
「ああ、あいつの風呂上りにね」
「──それはきっと、効果があったでしょうねぇ!」
MRの鼻につかない程度のわざとらしさが心地良いほどで、こいつは天性の営業スキルがあるんだろうなと感心する。だから素直に言った。
「素晴らしくね。特にあいつは効いたよ」
「ええ、あれは女性にも非常に効果がある成分ばかりですからねぇ。漢方よりも飲みやすいし、血行が良くなって身体が温まると評判を頂いているんですよぉ」
「あいつが気に入ってた。俺の医院に納品してくれ。あいつの分も」
「──ありがとうございますぅ! 健康食品ですからねぇ、先生にも積極的に召し上がって頂きたいですねぇ!」
喜色満面のMRは踊るように家の中に入って行く。やがてリビングのBJやピノコ、ユリたちに迎えられ、彼の心地良い程度のお世辞を混ぜた挨拶が聞こえて来た。
キリコはドアを閉め、胸ポケットに入れておいた錠剤の残りを出して眺めて笑う。
そりゃあ身体も熱くなるさ、風呂上りだった上に眠かったんだからな、と思った。
──偽薬ってわけじゃないんだが、プラセボってのは凄いもんだな。
MRが寄越した錠剤には、媚薬成分など欠片も入っていなかった。そもそも日本の法律で禁じられた成分を使えない以上、そんな薬を手に入れることなどできないのだ。覚醒剤や準ずる成分が入っていればまた別だが、それとて性感が上がるわけではなく、単に異様に興奮するだけであり、ポルノ作品のように女がよがり狂うことなどない。
──あいつだってよく知ってるだろうに、可愛い奴。
要は風呂と眠気で血行が良くなり、錠剤に含まれていた滋養強壮成分で体温が上がったところへ、キリコの意図的なミスリードでそう思い込んだだけだった。思い込ませたキリコの手腕が昨夜の楽しい時間を作り出したと言える。
とはいえ、キリコ自身も普段より興奮したことは否定できなかった。普段とは違うBJの痴態が、自分にとっては媚薬同然だったのだと思う。
リビングでBJが難しい顔をしていた。MRに勧められている新薬の購入に迷っているようだ。
「マフィン」
MRに少しばかりの恩を返すため、そしてこれからも何かと面白そうなものを都合してもらうため、キリコは言った。
「あの薬、俺の医院に2セット注文しておいた。1セットこっちに置けよ」
「あ、──あ、そうなんだ?」
聞いていたピノコとユリは顔を見合わせる。BJがなぜか顔を赤くしたからだ。MRは「そうなんですよぉ」と喜んでみせた。BJは何度か小さく頷き、そっか、そうなんだ、と呟く。
「じゃあ、──うん、これ、新薬? 1セット──2セットもらおうかな」
「ありがとうございますぅ!」
MRは飛び上がって喜び、ピノコとユリはあれだけ迷っていながら急に購入を決めたBJの態度にまた顔を見合わせる。
本当に可愛い奴、と笑いを堪えながらテラスへ出て、キリコは煙草に火を点ける。午前中の海は穏やかで、昨夜の爛れた遊びなど知らないかのように、緩やかな波の音を響かせていた。