売店で買った酒と、先にキリコにと買っておいた山菜の酢漬け、それから栃餅をお供にバルコニーで小さな酒宴を開いた。テーブルを挟んで向かい合わせになっていた椅子をBJがわざわざ並べ、キリコに寄り掛かって満足そうに「よし」と言う。その仕草が可愛くてたまらず、キリコは笑って腰を抱き寄せた。
「日本の小旅行ってのは随分忙しいな。でも面白い」
「一泊だしね。長逗留ならまた違うんだろうけど」
ホテルから漏れる照明や月と星の光があっても山肌はもう暗い。夜の中に浮かび上がる樹々は静かに眠っているようだった。渓谷の流れだけは相変わらず清冽な音を聞かせてくれる。
「とちもち、ほんとに美味しい」
「山ほど買って帰れよ」
まだ栃餅を食べるBJにキリコは半ば呆れるが、そこまで気に入ったのなら好きなだけ食べればいいと思う。栄養補給以外で食べ物を楽しめる時間は平和の証だ。少しつまんだ山菜の酢漬けは和風のピクルスとして認識しておくことにした。それなりに美味く、酒の肴にはちょうどよかった。
「そう言えば」
「うん?」
「キッチンの換気扇の調子が悪くて。ピノコが困ってて」
「ああ、帰ったら見るよ。そう言えばテラスの手すりも──」
特に目新しい話もない。食事の時と同様、日常のちょっとしたことばかりを話した。そのうち話もしなくなる。かと言って気詰まりであるはずもなく、ふたりの静かな空間が指先まで染み渡る時間を過ごした。それが幸せな時間だと気付きもしなかった。
やがてキリコがゆっくりと唇を寄せる。重ねられる前に自分からキスをした。何度も角度を変えては深く重ね、熱の共有を期待させるキスを繰り返す。優しくていやらしい、とBJが思う口付けを充分すぎるほど長く交わした後、可愛いね、とキリコがあの低くて甘い声で言ってくれた。嬉しかった。
「ねえ」
自分のものとは思えないほど、甘えた声が唇から零れた。
「うん?」
優しい返事も嬉しい。誰も聞いていないと分かっているのに、囁くように問いかけた。
「フォーマルは?」
その途端、キリコが軽く噴き出した。BJも小さく笑った。
「俺の我儘を聞いてくれる?」
「どんな?」
「風呂でしたいな」
言うなりまた軽くキスをされ、BJは上目遣いでキリコを見上げる。キリコはノーと言われるはずがないと分かり切った顔で返事を待っている。BJはそれがどうにも悔しくて、たっぷり数秒ほどじらしてからようやく返事をしてやった。
「卓球で汗かいたし」
「うん」
「いいんじゃない?」
「決まりだ」
素直ではない可愛い女にもう一度キスをして、キリコは笑った。
バルコニーから露天風呂までは室内に戻らなくても歩いて行ける。手を繋いでバルコニーを歩きながら、セックスをするから一緒に歩いて行くって変な気分、とBJは思う。それでも楽しいし、嬉しいのは確かだ。
「ねえ」
「うん?」
「えっちするから一緒に移動するのって、不思議じゃない?」
「うーん、そう言えば滅多にないよな。俺の家でたまにあるくらい?」
「うん。大抵はエロ死神がその場で手を出して来るから」
「おまえがエロいから手を出したくなるんだよ」
「人のせいにするなよ」
笑いながら露天風呂へ着いたはいいが、今度はここで脱ぐのかとまた二人で笑った。それは嫌だとBJが脱衣所へ入り、これなら部屋の中を通って来たって良かったのに、とキリコは思いながら後に続いた。
帯を解いていたBJに背後から抱き付いてまた笑い合い、振り返ったBJとキスをしながら浴衣を脱がせ合う。そのまま深く唇を重ねると、BJが慌てたようにどんとキリコの胸を叩いた。
「気が早い」
「したかったから」
「汗を流してからにして」
言いながらBJはバスタオルを身体に巻く。キリコも、とバスタオルを投げ付け、先に浴場へ出て行った。どうせ取るのに日本人の羞恥心はたまに面倒だと思ったが、言えば言ったでまたうるさい反論が返って来ることを予想し、キリコもBJに倣っておいた。
浴場に入ると、洗い場のオブジェにバスタオルを引っ掛け、湯船に浸かったBJがちょうど深い息を吐いたところだった。キリコも掛け湯をしてその隣に静かに入る。ちらりとキリコを見たBJが不意に照れたように笑った。
「何だか」
「うん?」
「えっちしに来て先に入るのって、待ってるみたいで恥ずかしい」
「──俺は嬉しいよ」
キリコは微笑んだ。はっきり言えば全力で自分を抑えた。それほど今のBJの言葉と仕草は男としての嗜好を貫いた。とにかく可愛い、それ以外に言葉が見つからない。
可愛さに招かれたことにして、肩を抱き寄せて唇を重ねた。今度はBJも嫌がらず、最初から深いキスを素直に受け入れる。キスをしながら抱き寄せた身体を向かい合わせにして膝をまたがせた途端、んく、と喉の奥でBJが啼いた。
「どうしたの」
唇を離して問うと、BJは目元を赤らめ、消え入りそうな声で言った。
「お湯が」
「うん?」
「その、……少し、入って来ちゃって」
「──あ、そうか」
理解したキリコはやや気まずくなったが、派手なリップ音を響かせて頬にキスをすることで誤魔化した。それからBJの目を見て、少し意地の悪い顔を作ってやる。BJはこの顔が好きだと知っていた。
「さっきしたから、まだ柔らかくて入りやすいんだな」
「そ、──そういうこと、言うの、やめて」
BJは瞬時に真っ赤になる。湯のあたたかさのせいではなかった。いくら身体を重ねても、どれほどいやらしいことを教え込まれても、言葉での応酬はどうしても慣れない。その反応も可愛くて、キリコはたまらずにまた唇を重ねた。
今度はきつく抱いて肌をぴたりと合わせ、ぽってりと可愛い唇を飲み込んでしまいたい衝動を抑えながら、僅かな隙間もないほどに深く重ねる。女の口腔は既に熱く、入り込んだキリコの舌を待ち兼ねたように自分のそれで捕らえ、上手いとは到底言えないキスをした。教え込んだ男はいつまでも上手くならない稚拙なキスを可愛いと思いながら、主導権を譲らせるために口付けを深める。それだけでBJの身体から力が抜けて、あとはキリコにされるがままだ。
唇を離さないまま何度も角度を変えるたび、跳ねた湯がぱしゃりと音をたて、注がれ続ける掛け流しの湯の音と共に、熱を帯びた二人の濡れた息遣いを隠してしまう。
BJが唇を離し、促されることもなく、湯から上半身を出すように少し背筋を伸ばす。勝手に身体が動くことが不思議だった。触れて欲しかった。恥ずかしいと思いかけたが、その必要はないと快楽を期待する違う自分が言ってくれた。
露わになった柔らかい乳房の先で湯に濡れた乳首がふるりと揺れ、キリコの目を楽しませる。片方の乳房を丁寧に揉みしだきながら目の前の乳首を含んだ。
「……ぁ」
途端に零れる甘い声がいつもよりも熱かった。普段とは違う環境で明らかに昂揚している。それはキリコも同様で、湯船から立ち上る湯気でじわりと広がるBJの清潔な香りがいつもよりも肌にまとわりつくようだった。
「ん……っ」
唇で甘噛みされ、舌で転がされるだけで腰が砕けそうになる。その腰を撫でられてのけぞるほどの震えが走り、自分でも驚くほど大きな声を上げてしまった。キリコが唇を離して「可愛い」と言ってくれたような気がしたが、注がれ続ける掛け流しの湯の音に隠れていく。
再び唇と手指で胸を愛撫されながら、いつの間にか揺れていた腰を撫でていたはずの手が下がり、この上なくいやらしい触れ方で柔らかい尻を揉み始めた。普段のふたりの時間にはないそれに、あぁ、あ、とBJが戸惑いながらも確実に性感を拾い上げて喘いだ。
「ひぁっ!」
指できゅうと強めに乳首を摘まみ上げられた瞬間、全身に電流のような快楽が走った。同時に腹の奥が熱くうねり、湯ではない熱い滴りが溢れ出してしまう。
「ん、ぅ、──あつ、熱い」
ほぐされるように優しくやわらかく、いやらしく揉まれる尻の間から秘所へと湯が入り込んで来る。体内を直接温められる液体への違和感に身を捩ると、乳首から唇を離したキリコが笑った。
「もっと濡れれば全部出て行くよ」
「──馬鹿!」
「怒るな、悪かった」
笑うキリコに両腕で抱き寄せられ、丁寧な、だがふたりの時間だけで楽しめるいやらしさを忘れないキスをまたされる。絡めた舌がくちゅりと鳴った。その音がいやらしくて好きだと思って、BJは半ば夢中で男の舌を絡め取り、吸っては男を喜ばせた。
おまえがしてくれると嬉しいよ、と囁かれ、BJも嬉しくなって、もっと喜んで欲しくて湯の中へ手を延ばす。堅くなった熱をそこに見付けて指を絡めた。キリコが熱を帯びた息を吐いた。また嬉しくなってキスをねだり、くちゅくちゅと濡れた音をたてて舌を絡ませながら、手の中の熱を擦る。
キリコに教え込まれた通りの、それでも滅多にやらせてくれないためにいつまでも上手くならない指の動きはぎこちない。そのぎこちなさが男の嗜好を喜ばせていることなど知る由もなかった。
「──あっ!」
いつの間にか前に滑り込んでいた指に、思わず唇と指を離して声を上げた。キリコは熱い息を吐きながら笑い、女の身体の中に湯を入れないよう、蜜を垂れ流すそこを避けながら、陰唇の付け根をこりこりとほぐすように指先を前後させて触れていく。
「ぁ、や、そこ、やぁ……っ」
「嫌?」
「んぅ」
慣れない感触にぞくぞくと背筋を震わせ、そして腹の中がまたうねる感覚に耐え切れず、キリコの首筋に顔を埋めて浅い呼吸を繰り返した。疼き出した秘芯がたまらないほどもどかしい。
指先が前後するたびにぬるついた感触が秘所に溢れ、湯の中にだらしなく愛液を垂れ流していることが恥ずかしくなった。恥ずかしい、と言おうと思った。それなのに違うことを言っていた。
「きもち、いい」
「──うん」
それはキリコに雄としての満足感を与える言葉だった。まともな性経験がない身体と心に教え込んだことのひとつだ。
「そうだね。気持ちいいって言えばもっと気持ち良くなるの、知ってるよね」
「きもちい、……それ、きもちいい……」
「ちゃんとできてる。いい子だ」
低くて甘い声を耳元に与えられればそれだけで腰が跳ねる。じくじくと疼く秘芯が切なかった。それでも指で擦られる場所が気持ち良くてたまらなかった。きもちいい、と言った。きもちいい、もっと、と言った。言われた男は嬉しそうに笑い、可愛いね、と囁いてくれた。
「キリコ」
「うん?」
「さわって」
「どこ?」
「きもちいいとこ、さわって」
「ここかな」
「──あぁぁっ!」
秘芯を擦り上げた瞬間、BJはキリコの腕の中で身体を仰け反らせ、堪え切れない痙攣を起こして小さく達していた。嘘、うそ、と荒い息の下で喘ぐ。たったこれだけで、と思ったのだ。
「軽くいっちゃった?」
キリコの声は甘く優しい。だが隠し切れない熱にまるで聴覚から犯されて行くようで、BJはぞくりと身体を震わせた。
「少し身体を冷やすといい」
「んん……っ」
言いながら肌をなぞる指に悶え、小さく達して敏感になったBJは息を詰める。それでも、冷やすといいと言われたことには不満だった。もう肌の熱も疼く秘芯も濡れ切った秘所も、そして腹の奥も、早く早くと喚き出しているのに。するとキリコがまるで見抜いたかのように言った。
「まだたくさんしてあげたいからね。のぼせたらできないよ?」
「……っ」
そう言われればもう抗う理由が見つからない。返事をする前にキリコに手を取られ、二人で入るには広い浴槽の中を移動した。
雨避けの庇の支柱に腕を回し、腰を突き出す格好を取らされる。太腿から下は湯に浸かっているが、身体が冷えることには間違いない。こんな格好をするのは恥ずかしくて仕方なかったが、それよりも期待に疼く身体中の熱が止められなかった。
「あ……っ!」
背後に回ったキリコの指が後ろから秘所を開いた。中に入り込んでいた湯、それから愛液が溢れ出し、ぽたぽたと音を立てて湯面に滴り落ちる。喉を鳴らしそうな自分を制しながら、キリコはその光景を眺めた。湯温ではなく羞恥で背中を赤くしていくBJが可愛くて仕方ない。
「キリコ」
「うん?」
「はず、恥ずかし、い」
「そう? 可愛いよ。すごく。ここも、恥ずかしがるのも」
心底の本音だが、やだ、と半分泣き声で呻いたBJの背中が揺れたので、これは本当に恥ずかしいんだなと理解し、手早く次の段階へ進むことにする。
「──や……!」
背後から忍び込んだ唇の感触に身が跳ね、逃げられないように太腿を掴まれた。羞恥心と舐め上げられる感覚に耐え兼ねて支柱にしがみつく。じゅ、とわざと音を響かせる男の舌と唇がわざとらしいほどいやらしく動き始めた。
「あ、──ぁ、うん……っ」
恥ずかしい、と泣き声を漏らした。泣き声なのに明らかに色めいた声が男を止められるはずもなかった。舌は止まることなく、さりとて急ぐこともなく、濡れた秘所をゆっくりと舐め回していく。そのたびにBJの腰が震え、太腿から上は湯に浸かっていないはずなのに、腹の奥底の熱と秘芯の疼きに身体は火照るばかりだった。
普段は見られない奥まった場所まで見られていることが分かる。特殊な性行為以外には用のない奥の奥まで舐め上げられれば予想外に快感が走り、背徳感に震えて喘ぐばかりだ。そんなとこ汚いのにと言っても、やめるどころか更に舌を這わされて余計に啼いた。
恥ずかしい、きもちいい──せめぎ合う感覚が更に性感を増し、唇はだらしなく開いたまま甘い声を垂れ流して、秘所からは涎のように愛液が溢れ続ける。そこをじゅうと吸われてひときわ高い声を上げ、また小さい絶頂に押し上げられた。
「……ぁ、ぅ」
堪え切れずに支柱から手を離し、上半身を床にぺたりとうつ伏せに押し付けて喘ぐように息を吐くBJを見て、キリコは濡れた唇をぺろりと舐めてから立ち上がった。
「クロオ」
「……んん──っ!」
湯よりもぬるついた滴で溢れた秘所に入り込んだ指に高く呻くBJの顔が見たくて、指を緩やかに出し入れしたまま縁に手をついて覗き込む。小さな絶頂を二度与えられた女の顔は蕩け切り、浅い呼吸と一緒に唇の端から涎を零しながら小さな喘ぎを漏らし続けていた。それだけでキリコはぞくりと昂ぶり、俺の女は何て可愛いんだろう、今すぐ犯してやりてえよ、とBJの前では決して口にできないことを思った。
「あ、ぁ、っ、ん、あぁ……ん!」
背後から指で愛されることはほとんどない。だからこそ今は自分でも信じられないほどに感じているのだと、快楽だけで満たされそうな意識の片隅でBJは思う。湯船から溢れる掛け流しの湯を飲んでしまいそうで、どうにか力を入れて肘を立て、上半身を支えた。
「んあぁっ」
その途端に露わになった乳房を片手で鷲掴みにされると同時に指で乳首を強く挟まれ、高く喘いで秘所を締め付けてしまう。あぁ、とそれだけでひどい疼きが増した。キリコが少し余裕をなくし始めている触り方だと思い出したからだ。余裕のないキリコがどんな抱き方をするか、何をしてくれるか、思い出すだけで、考えるだけでまた疼いてあふれていく。
「ぁ、ひぃっ!」
一点で指が曲げられた瞬間、悲鳴と共に腰が跳ねる。目の前に火花が見えそうなほど強すぎる感覚が快感だと理解できるまで少しの時間が必要だった。何もかも分かっているキリコは指を止め、BJが理解するまで待つ。
「それ、なに……っ」
「普段触らないとこ。おまえには刺激が強すぎるから」
「あぁんっ!」
秘芯の裏側を指先で引っかかれ、がくがくと腰が震えた。可愛い、と熱を孕んだ男の声が聞こえたような気がしたが、何度も繰り返されるその快感に身体の芯が爆発してしまいそうだった。強すぎる刺激は秘芯を直接愛撫される時のそれと似ているような気がした。
「男の前立腺と同じだよ。女性はだいぶ小さいから、見付けるのが難しいけどね」
「あぁぁ、ひっ、や、んぁぁっ!」
親切にも解説してくれる男の指は止まらない。あそこか、と医者ならではの知識が顔を出すものの、指に与えられる強すぎる快感に悲鳴を上げるばかりだった。だめ、と言った。だめ、強すぎてもうだめ──
「きり、こ」
「うん?」
「らめ、もぉ……、もぉらめぇ……!」
「……非常に。非常によろしい」
しみじみと呟き、キリコは惜しみつつも指を引いた。これ以上はまだ耐え切れないだろう。過ぎた快楽は暴力だ。BJが受け入れられる快楽の範囲をもう少し広げるまでは堪えておくことにした。
「大丈夫?」
ついて行けない快楽に茫然とした顔でまた床に身を伏せてしまったBJの髪を撫で、起こして抱き締めてから湯船に入れてやる。それでも片手で肌を探ることは忘れなかった。這い回る指に力なく身体をくねらせながら、んん、とBJは喘ぎとも返事ともつかない声を出した。
「ちょっと強かったね。また今度、ゆっくりしてみよう」
「ん……」
ひどい快楽は終わったのに、だからこそ身体の奥底の熱さを思い出す。それに秘芯がいつもより強く疼いて痛みを感じるほどだった。快感のあまり充血して膨張しているのだと医者の知識が教え、また恥ずかしくなった。
髪に、頬にキスをして抱き締めながら片手で肌を撫でていく男に身を任せれば任せるほど、その疼きはたまらなくなってくる。
「キリコ」
「うん?」
「あの」
「うん」
「痛い」
「痛い? どこ? 中?」
指で強く触り過ぎたかと焦りかけたキリコの前で、BJが上気させた顔を更に赤くして首を横に振った。
「どうした?」
「……外側」
「うん?」
「触ってたとこ、の、そとがわ……」
一体何のことか分からず、キリコはしばらくBJの顔を見て考える。その視線にBJはますます赤くなる。数秒して理解したキリコは、ああ、と安堵半分、欲情を逃がす半分で息を吐いた。逃がさなければ可愛すぎるあまりに暴走してしまいそうだった。名称も言えない女が可愛すぎる、と思った。医療の場なら何の躊躇いもなく口にするだろうに。
暴走を止めるために両手で頭を抱え込み、唇を奪った。自分では止められたと思っていたが、女が男の隠し切れない獣性を感じ取って身を震わせたことに気付けなかった。
飽きることなく深いキスを繰り返しながらBJを縁に座らせる。触れてくれるのだと期待する可愛い女を見て、自分でもどうしようもない男だと思いながらキリコはゆっくりと、あの低くて甘い声を意識的に出した。
「どうして欲しい?」
「え」
「自分で言ってごらん。好きなようにしてあげるから」
「……え」
「クロオのどこをどうして欲しいか、俺に教えて」
「……っ!」
瞬時に顔どころか身体中を赤くするBJが可愛くてたまらない。言えなければ言えないでいい。少しの間、BJが恥ずかしがる姿を楽しみながら自分が冷静になる時間を稼ぎたいだけだった。
それなのにこの女は、とキリコが完全に白旗を上げたのはそれから数秒も要さなかった。
「……ぁ、の」
顔を赤くしたまま、目に涙さえ浮かべながら、BJは湯船から緩慢に脚を上げる。傷だらけの、だが白い脚の踵が縁に上がる光景に、嘘だろう、とキリコは呟いてしまうところだった。
後ろの床に手をつき、唇を噛んでから、BJはそろそろとその脚を開いて行く。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。それでも羞恥心を上回る情欲が身体を、唇を動かした。
「くろお、の。……ここ、さわって」
目眩がした。神よ、とキリコは声に出さずに呟いた。時間稼ぎなど無意味だったのだと思う余裕もなく、涙目で震えるいやらしい女の姿に目を奪われる。惹きつけられるように手を延ばした。
「あぁっ!」
充血して膨らんだ秘芯をくるりと指を回して撫でた途端、ばしゃりと爪先で湯を弾くほどBJの身体が跳ね上がる。我ながらみっともないと自嘲しながら熱い息を止められず、キリコは呻くように何度も「可愛い」と言いながら秘芯の上で指を回した。そのたびに跳ね上がり、悲鳴を上げる女が可愛くて可愛くてたまらない。堪り兼ねて開いた脚を抑え付け、そこに唇を寄せて吸い上げた。
「きゃぁ……!」
強く吸われた瞬間に甲高い悲鳴を上げ、慌てて唇を噛んで堪えた。ここは屋外だ。山肌の樹々の中に声が響いてしまいそうな気がした。
「ぁ、ふ、……んん……!」
普段からひどく感じる場所であっても、充血しきった今はそれ以上に敏感になっていた。吸い上げられるたびに悲鳴を堪え、がくがくと腰が揺れる。耐えられず逃げようとして身を捩っても、太腿を強く抑え付けられて動けず、肘を床につけてのけぞって悶えた。苦しいほどの快楽に悶えながら、ああ、このひと、と思った。──このひと、わたしにすごい欲情してる。いつもならこんなに強い力で絶対抑えないもの。こんなの、このひとがわたしを食べ尽くしたいくらい欲しがる時だけで──
「……あ……!」
そう思っただけで腰が重く甘く疼いた。キリコ、と呼んだ。キリコが顔を上げてのしかかるようにキスをして来た。荒くて熱い息が嬉しくてまた熱が上がる。唇と舌に翻弄された秘芯の疼きも止まらなかった。このひとわたしが欲しいんだ。嬉しくてたまらない。そして思う。──わたしだってこのひとが欲しいんだ。
手を延ばして触れた。熱く堅い男の熱に触れるだけで腹の奥がきゅうと切なくうねった。口腔を蹂躙していたキリコの舌が震え、唇が離れる。指を動かすと少し眉をひそめて息を吐く。その顔が好きだった。男が快楽を堪える顔が好きだ。喜んでくれるのも。
胸を押し、キリコをどかしながら身体を起こした。どうした、とキリコが問う前に湯船に入り、振り返ってキリコの身体をまた押しながら無言で縁を示す。キリコが腰掛けると同時に脚の間に入り込み、恥ずかしいと思う間もなく躊躇わず唇を寄せた。頭上でキリコが「嬉しいよ」と吐息混じりに呻く声が聞こえた。
自分でも相変わらず下手だと思う。それでも肩を撫でてくれる手が嬉しい。稚拙でも懸命に教えられたことをすれば褒めてくれる。最高だよ、可愛い、気持ちいいよ、と言ってもらえるだけでまた身体の奥から熱くなって、疼く。口の中に滲む苦い味も気にならなかった。むしろ好きな男が感じているのだと思うだけで、もっと、もっとしたいと欲が膨れ上がる。
「もういいよ。上手だった。最高だ」
もっと、と目でねだったが、見上げた青い瞳にもう隠すつもりもない欲を見た瞬間、ざばりと勢いよく立ち上がって抱き付いていた。もう何度目か考えるのも馬鹿馬鹿しいほどに繰り返した深いキスをまたしながら、キリコが優しく、だが強い力でBJの上半身を縁から床へうつ伏せにする。
「──ぁ……!」
腰を高く抱え上げられたと思った途端、後ろから堅い熱が愛液と湯を掻き分けるようにゆっくりと入り込んで来る。とうに降りて来ていた腹の奥がうねり、柔肉と共に歓喜して男に絡み付いた。ふ、とキリコが何かを堪える息を吐く。
「あ、ぁっ!」
体位のせいでいつもよりも早く奥に辿り着いた熱に強く貫かれて高く喘ぐ。後ろからすることはあまりなく、今が珍しいのだが、顔を見て抱かれるより奥まで届きやすいことは知っていた。
「あぁぁっ」
もう声を抑えることができなかった。無意識に腰を揺らしながら声を上げ、喘いで、その喘ぎが男の熱を煽る。可愛い、とキリコが熱い息で満足そうに笑いながら言った。言いながら感じる場所を的確に突かれ、BJはただ喘ぐしかなかった。
キリコが動くたびにばしゃりと湯が跳ねて縁から飛び出し、奥を強く突かれる快楽と床に乳房と乳首を潰される感触に喘ぐBJを濡らして行く。
「あぁっ、ぁ、あぁんっ、──きもちい、きもちいい……っ」
「俺もだよ。凄く気持ちいい。最高だよ」
最高だよ、可愛い、愛してる。セックスの時にも惜しみなく与えられる言葉が嬉しい。言われるたびに奥が熱くなってまた感じて、入り込んだキリコの熱がもっと欲しくなる。
「キリコ」
「うん?」
「うしろ、きもちいいけど、やだ。前がいい」
首だけで振り返ってねだるとろけた目元は真っ赤に潤み、自分の言葉で感じたのか、ぎゅうと音が聞こえそうなほどに強く締まる。どちらもキリコの息を詰めるには充分すぎるほど魅惑的で、抗えない男は息を吐きながら笑い、分かったよ、と言って一度身体を離した。出て行く感触に身を震わせ、あぁ、とBJが小さく喘ぐ声すら魅惑的で、あやうくそのまま入り直したいと思ったほどだった。
「背中が痛かったら言って」
上半身を仰向けに横たえて脚を開かせ、濡れて溢れながらひくつく秘所を見ながら入り込む。仔猫のような高い呻きを上げながらBJがのけぞる姿はキリコにとってたまらないものだった。中を捏ねるように腰を動かせば甘い喘ぎが響く。
ぐちゅぐちゅと音をたてて出入りする男を離すものかと喰らい付くそこを眺めると、見ないで、と気付いたBJが泣きそうになりながら恥ずかしがった。あれだけしておいてまだ恥ずかしいのかと笑いたくなる一方、それでもまだ恥ずかしがる姿が可愛くてたまらない。
「ごめんね。見るのが好きなんだ。繋がってるのが嬉しいから」
「や、ゃ、でもやだ……」
「──可愛い。本当に可愛いよ」
「ぁ──!」
言うなり一気に奥を突かれたBJは、腹の奥が爆発するのではないかと錯覚するような強い熱と快感に叩き付けられた。もう声を抑えることもできず、ただ喘ぎ、キリコが腰を打ち付ける肉の音と跳ねる水音がいやに生々しく聴覚を犯していく。
「きりこ、きり、──ぁ、きもちい、きもちいい……っ!」
「俺もだよ」
「あぁぁっ!」
不意に秘芯を摘まみ上げられて絶叫に近い声を上げてしまった。誰かに聞かれたら、と思う余裕はなかった。
「あ、だめ、それだめ、だめ……っ!」
「触ってって言ったのは?」
「だめぇ……!」
優しい男の指は無慈悲だった。充血したままの秘芯の薄皮を剥き、外気に晒されて息を呑んだBJの目を見ながら指の腹で擦る。神経が剥き出しになったのかと錯覚するほどの強い性感に、またBJは悲鳴を上げるしかなかった。
「ぁ、あぁ、だめ、だめぇ……!」
「大丈夫、気持ちいいよ」
「らめなのぉ……!」
「可愛い」
言うなり秘芯を摘まみ、また深い場所まで一息に突く。
「ひぃ……!」
何度も繰り返され、暴れそうになる脚を抑えられながらただ喘いだ。降り切った奥はBJを裏切って過ぎた快感に喜び、お願いだから離れないでと男の熱に絡み付いては咥え込む。そのたびにキリコは息を詰め、口にすることは決してないものの、こんなに気持ちいい女を他に知らないとつい思ってしまう。
やがて強すぎる刺激を快感だと思い出したBJの声が崩れ、浅い息を繰り返しながらも甘い喘ぎをまた聞かせてくれた。ああ、可愛い、とキリコは笑う。
「可愛い。俺の」
言った瞬間にBJが快感にとろけた目でも嬉しそうに笑う。抱かれている時に聞けばこの上なく幸福感に包まれる言葉だ。
「キリコ」
「うん?」
「きもちいい。……きもちいいよぉ」
「どこが?」
「ぜんぶ。キリコが触ってるとこぜんぶ」
「ここも?」
「あぁんっ!」
また秘芯を摘まみ上げられて強く突かれて悲鳴を上げる。気持ちよかった。もっと、もっとと腹の奥がうねるに任せて腰を振り、男の熱を中へ入れたくてたまらない。何度も痙攣して小さく達していることに気付けないほど、連続した快感に襲われ続けていた。
「こっちと中、どっちでいきたい?」
「やぁっ、らめ、つまむのもうらめぇっ!」
「ふうん?」
「それもらめぇぇ」
爪先でかりかりと引っかかれ、また小さく達してもう気が狂いそうだ。まだいっているのに奥を抉られるように突かれ続けるのもたまらなかった。これが強い達し方だったらどうなっていることかと、快感でおかしくなりそうな意識の中でぼんやりと思った。それを期待した奥がぎゅうとうねり、キリコが一瞬息を止めたほど強く締めつけていた。
「こっちは辛いか。──じゃあ中にしよう。」
俺も限界だから、と本音を漏らして苦笑し、秘芯から指を離したキリコは不意にぐっと女の下腹を押しながら抉るように突き上げた。
「──……っ!」
声も出なかった。一気に頂点に叩き上げられ、目の前がスパークするほどの大きすぎる快感に死んでしまうと本気で思いながら強く達していた。流石に予想外だったキリコが「まじかよ」と低く呻き、強すぎる締め付けで持って行かれそうになった性感を何とか堪える。
「っ、すっげえ、可愛いよ。本当に」
びくびくと痙攣して焦点が合わない目で見上げるBJの頬を撫で、半開きになった唇を親指でなぞる。白い歯列の奥からちろりと舌が見え、唇に触れたキリコの親指を無意識でぺろぺろと舐めた。とんでもなく可愛い、とキリコは本気で思いながらゆるく突く。途端に甘く崩れた声が零れた。
僅かに落ち着いたBJが甘え声で「もっと」とねだり、それなのに達した後の腹の奥はより複雑な動きで男を全て絡め取ろうと躍起になるのだからキリコにとってたちが悪い。もう開き直って自分の快楽を追求することにした。
「ぁ、あ、きもちい、きりこ、きもちい……っ」
それでもBJは甘い声で喜ぶ。自分の快楽を追求すると決めたのに、どうしても悦ばせてやりたくなってしまう。だが自分も限界だ。動きを強めると奥がぎゅうぎゅうと絡み付く。まだだめ、と言われているようで苦笑いしたくなる。
自分の下で甘い声を上げて夢中で快楽を享受する可愛い女を見降ろしながら、ごめんね、と罪悪感などないのに謝罪の言葉を口にする。どうしたのかとBJがキリコを見た瞬間、両方の乳首を強く潰すように捻り上げた。
「……あ──!」
不意に与えられた強い刺激を堪え切れず、BJはまた達する。同時にその締め付けをやり過ごせなかったキリコも呻きながら腰を引き、熱のすべてをBJの腹の上に放っていた。
力が入らずに起き上がれないまま浅く荒い息を吐くBJを抱き起こし、可愛かった、おまえは最高だよ、と額を合わせながら囁いて軽くキスをする。BJは嬉しそうに笑い、それでもどこか恥ずかしそうに、きもちよかった、と言ってキリコを最後まで喜ばせたのだった。
翌朝は気怠かったものの、疲れは感じなかった。自然と温泉、美味い飯と卓球、それから好きな女と楽しいセックス、これぞ最高の回復方法だ、と思いながらキリコはベッドを出て伸びをする。ほぼ同時にBJも目を覚まし、寝惚け眼でキリコを指で呼んで朝一番のキスをねだる。もちろんキリコが断るはずもない。
二人で朝風呂を楽しみ、軽く手を出そうとしたキリコを叩いてBJが先に上がる。キリコはしばらく景観と渓流の音を堪能してからゆっくりと上がった。
朝食はレストランでブッフェスタイルだ。あの子供を見付けたキリコはにやりと笑ってみせる。子供はまた興奮してゾル大佐だと叫び、父親がその頭を引っ叩いてキリコに頭を下げるはめになった。ちょっかい出したら親が可哀想じゃない、とBJに叱られた。
季節の食材がふんだんに使われた朝食で胃を満たした後、チェックアウト前にピノコとユリへの土産を見繕う。
「帰りに工芸館に寄るんだし、ここは適当にしておけよ」
「うん。料亭で聞いた苺のパイと、それからとちもち」
「やっぱり買うのか」
「美味しいもん。キリコは食べなくていいよ」
「そうするよ。って、おまえ、いくつ買う気だ」
「ピノコのとユリさんのと、家で私が食べる分と、帰りの車で食べる分と」
「栃餅の転売屋に転職でもするのかと思ったよ」
呆れながらも金を払い、フロントが混む前にチェックアウトをすることにした。口にはしなかったものの、精算した金額を見て「安いな」とキリコは思ったが、そもそもBJとの海外旅行の費用が高すぎるのだと自分を戒めた。とはいえ生活を圧迫するわけでもなく、BJが喜ぶのならそれでいい。人生を豊かに生きるための必要経費は確実に存在し、BJと過ごす時間に使う金はまさにそれだった。
和装のドアマンに礼を言って車に乗り込み、工芸館に向かってアクセルを踏む。助手席のBJは早速栃餅を口に放り込んでいた。
「楽しかったね。もう少し長く泊まれればよかったな」
「そうだな。まあ、また機会があればいつでも。草津もいいがこっちも悪くない」
「次の温泉は草津だよ」
「分かったよ」
2つめの栃餅を齧り、ふとBJが呟く。
「ユリさんに電話するの忘れてた」
「高速に乗る前でいいんじゃないか」
「聞きたいことがあったんだもん」
信号が赤になる。ほんの僅かでも車をがくりと揺らさない完璧な停め方に感心しながら、BJは栃餅を飲み込み、3つめの包装を剥がしにかかった。
「ユリに? どうした」
「うん、あのね」
栃餅を齧り、BJは静かに言った。
「草津、いつ行ったのって」
「──何だって?」
一気に汗が噴き出したのはなぜだろう。キリコは動揺を隠そうと煙草の箱に手を延ばす。BJがいやに冷たく言った。
「いや、殴るかもしれないから煙草はやめといて。火が点いたら危ない」
「殴るって、おまえ、何だよ。何の話だよ。ユリがどうしたって? 馬鹿なことを言うもんじゃない」
「大浴場がない旅館だったのかな、とか」
「……いや、何なんだ、おまえ」
やましいことなど何ひとつないのだ。それは誓って言える。昔の女、ただそれだけの話だ。しかも顔も名前ももう覚えていない程度の期間しか付き合っていなかった。
だが哀しいかな、助手席の可愛い恋人は病的な嫉妬深さを持っている。しかも自覚している。過去の女だろうが何だろうが、家族以外の女性が恋人に近付くことをとにかく嫌がる。そしてキリコに怒る。はっきり言えば無茶苦茶な女だ。
その女が昨日の会話だけで何を嗅ぎ付けたのか──キリコはもはや理解していた。神に祈る気にもなれなかった。
「キリコ」
「……何だよ」
「言っていいよ」
「何をだよ」
「神よ、って」
にこりと笑いかけてくる恋人の可愛いこと、可愛いこと。そう、キリコから見たBJはいつも可愛い。どんな時でも可愛らしい。
だが今は、その可愛らしさが怖い。
「キリコ」
「……うん」
「草津、ユリさんと行ったんだよね?」
観念した。もはやそうするしかなかった。ごめんなさい、嘘つきました、と素直に言った。可愛い顔が般若に成り代わった瞬間、信号が青になる。だがそんなことにお構いなくBJが激怒し、それを宥めようと必死になっていたら、後続の車に思い切りクラクションを鳴らされたのだった。
自然と温泉、美味い飯と卓球、それから好きな女と楽しいセックス。充分に満喫して癒されたはずなのに、帰り道ではこのていたらくか、と散々暴れた後に助手席で泣き出したBJを路肩に停めた車内で宥めつつ、キリコはいっそ自分が泣きたくなる。
それでも仕方ない、とすぐに思った。
仕方ない、可愛い。全部可愛い。
何もかも可愛いから仕方ない。
過去の女に嫉妬して本気で泣く恋人を全力で宥めながら、可愛くて仕方ないのだから俺もつくづく末期なんだろう、と思った。
そして、俺は幸せだ、と思った。