Back for good 01

 いつもの商店街でホタルイカを買った。魚屋はBJをそっちのけでピノコにホタルイカの下処理の仕方を教え、運転手兼荷物持ちのキリコは「あれは昔の女が得意だったな、俺も教わった覚えがある」と何とは無しに思い出しながら、当然顔に出すような愚は犯さない。いかにも何も知りませんと言う顔で、退屈そうなBJに「次はどこへ?」と話を振ってやる。
 少しばかり考えたBJは首を傾げ、ううん、と唸った。
「食べ物の買い出しはピノコに任せてるから、私じゃ分からない」
「なるほど。じゃあお嬢ちゃんがホタルイカの下処理を覚えたら訊こう」
「キリコが行きたいところは? あれば行くけど」
「別に──ああ、ちょっと電話をして来る。車で待っててくれ」
 いつもの癖でBJにキスをし、日本でやるな馬鹿と一発喰らってから、自宅兼医院の留守番電話を聞くために公衆電話へ向かう。途中で商店街の人々に声をかけられ、目的の電話ボックスへ辿り着くまでに多少時間がかかってしまった。
 最近出回り始めたテレホンカードがまだ使えない旧い電話だった。仕方なく硬貨を入れ、自宅の電話番号を呼び出す。留守番電話のメッセージは2件、どこかのセールスレディと闇仕事のマネージメントの担当者が、言葉は違えどまた後日かけると吹き込んでいた。セールスはともかくマネージメントの方は気になったが、急ぎの仕事なら何度もかかってくるか、居場所を突き止めて直接会いに来るだろう。そういう連中だ。彼らの方針に任せておくことにした。
 電話ボックスの外に一人の女がいた。BJより少し年上だろうか。痩せていたがみすぼらしくはない。どちらかと言えば美人の部類に入る、とキリコはBJに知られれば火種にしかならないことを思った。そして左の薬指に指輪を認め、速やかに彼女への興味をなくすよう努める。
 だがボックスのガラス越しにふと目が合い、女はキリコに会釈してみせた。順番を待っているのだろうと察したキリコはボックスを出た。
「失礼、お待たせしました」
「いいえ、そんなこと」
 BJとピノコとの待ち合わせ場所に向かうために歩き出したキリコは、数秒も経たないうちに、女が電話ボックスではなく、自分に用事があったのだと知った。背後から声をかけられたのだ。
「あのう」
「はい」
 礼儀として振り向いておく。すると女は安堵したように息を吐き、僅かに微笑んだ。
「不躾でごめんなさい」
「何かお困りごとでも?」
 女は頷き、それから小さな声で言った。
「私を買って下さいませんか?」
「他を当たりなさい」
 女の語尾に被せるように断ったキリコは、彼女に再び背を向けて歩き出した。追って来ることはないと分かっていた。白昼堂々と、しかも人が多い商店街、小さな声で売春を持ち掛ける女がしつこく縋るはずがない。案の定、女が追って来る気配はなかった。海外で散々似たような袖引きを経験している身としては、こんな場所でこんな誘い方をする人妻の売春婦がまともではないとよく分かっていた。
「ドクター」
 それほど歩かないうちに声をかけて来たのは肉屋の店主だった。難しい顔でキリコを見ている。見られていたな、とキリコは表情を変えずに思った。
「どうも」
「あの──何か言われたのかな?」
 ショーケース越しに話し掛ける声はどこか遠慮がちだ。あまり大声で話すわけにもいかない、だがキリコに話しておきたいといった風情だった。溜息を押し殺し、キリコはショーケースに近付いてやる。
「何か?」
「何だ、その、先生には聞かれない方がいいこととでも言えばいいか──」
「──何て言ったかな、日本語で──そう、あれだ。辻君」
「ツジギミ?」
「娼婦ってことよ。あんまりいい言葉じゃないけど、ドクター、よく知ってるわねえ」
 店主の横にいた妻が夫への呆れ半分、外国人の知識への感心半分の声で補足した。キリコは適当に頷いておいた。
「何でおめえは知ってんだよ」
「あたしは文学部出身だよ、馬鹿。ドクター、コロッケでも持ってってよ。揚げるから待ってて」
 夫のぼやきを学歴で黙らせ、妻は厨房へ入って行く。店主は肩を竦め、妻が作ってくれた事情説明の時間を活用することにした。コロッケはどうせ帰りの車の中で女二人が食べ尽くすだろう、と思いながらキリコは話を待った。
「彼女は、その──つい最近なんだ。一ヶ月くらい前かな。ああいうね、声を掛け始めたのは」
「知り合い?」
「この先のアパートに住んでる。ただ、今までこの商店街で見かけなかったんだ。他の商店街か、駅前のショッピングモールに行ってたんじゃないかと思うんだが」
「ふうん?」
 俺が無視すればいいだけの話なのだからそこまで詳しいことは──そう言おうとした時、店主が声を潜めて言った。
「かなり安く売るんだそうだ」
「──言っちゃ何だが、街中の娼婦にしては美人なのに?」
「そう。──それにしちゃ身綺麗だし、買い物も普通にしてる。金に困ってるわけじゃなさそうだから、みんな戸惑ってるんだよな。売春婦がうろつく地域でもないし」
 ふうん、とキリコは曖昧に頷く。
「まあ、間違えてもドクターが……ってことはないだろうけど、まあ、ほら、先生に誤解されると大変だろう? ピノコちゃんがちぃーっと教えてくれてね」
 キリコはつい苦笑した。BJの病的な嫉妬深さは商店街でもそこそこ理解されているらしい。自分が一緒にいる時、どの店でも若い女性店員がほとんど声を掛けて来ないことには気付いていた。それがピノコの手回しだったとは。やはり頭がいい女だ、と心の中でピノコを絶賛する。
「結婚指輪をしていた。ご主人は彼女の行為を知っているのか?」
「いや、それがね」
店主は溜息をつき、複雑な顔をして話を続けた。キリコの感情を揺さぶるほどではなかったが、やや考え込みそうになったことは確かだ。
「ドクターはこういうことは――その、何だ、先生に話をしたりなんかは?」
「あいつと?」
「そう。だって――」
その時、妻が後ろから「ドクター、コロッケが揚がったよ!」と敢えて大声を出して話の強制終了を宣言した。キリコはBJとピノコが歩いて来る姿を認め、軽く手を振り、店主に小声で言った。
「必要だと思ったらまた訊くかもしれない」
「そうしてくれ、すまないな。──先生、ピノコちゃん、ちょうどコロッケが揚がったんだ。持って行きな!」
「いいの? ありがとう!」
「ありがとうなのよさ!」
 嬉しそうに受け取る母子の横で、キリコはふと視線に気付く。目の端をあの女が通り過ぎ、軽く会釈をして来る姿が映った。無論キリコは反応せず、BJが持っていた魚屋での買い物を引き取った。肉屋の主人が表情をやや消し損ね、肝が冷えたとキリコと妻に教えた。
 自分の価値に見合わない安さで身体を売る女のことを覚えておく必要はない。どうせ面倒事しか待ち構えていないものだ。キリコはそう結論付け、夕飯のホタルイカの処理を手伝うよとピノコに言って喜ばせ、どうしてそんなこと知ってるのかな、昔の女が上手だったのかな、とBJが心の中で呟いたことに気付き、あの女のせいだ、真昼間に売春婦に声をかけられるなんて日本じゃ珍しいから動揺した、失敗した、と少々ならず明後日の方向へ八つ当たりをしたのだった。
「ホタルイカ、誰に教わった?」
 帰りの車の中、助手席のBJが不意にフランス語を口にした。キリコは思わずミラー越しに後部座席のピノコを見る。視線が合った。ピノコがキリコにだけ分かるように肩を竦めてみせてから、BJが好きそうな可愛い娘の声で言った。
「ちぇんちぇい、フランス語? ピノコ、分からないわのよ。おうちじゃ駄目なのよさ?」
「ちょっと大人の話だから、おまえさんは聞かなくていい」
「コロッケ食べれいい?」
「私の分も食べちゃっていいよ」
「やったー!」
 まだ温かいコロッケの包みを手に、もう一度ピノコはミラー越しにキリコと視線を合わせる。駄目だったわ、お気の毒様、頑張ってね、と恋敵に見放され、キリコは溜息を押し殺してフランス語に切り替えた。
「昔の女じゃない、知り合いだ。店をやってた」
 確認できない過去のことなどいくらでも嘘をつく。ロンドンで二度と嘘をつかないと約束したが、キリコの解釈では「BJを傷付けないため、またはトラブルを回避するための嘘なら嘘ではない」という言い訳が成立する。誰かにご都合主義だと言われようとも、二人がふたりでいるためには許されるべき手段だと信じていた。
「どこの店?」
 そこまで気にするのかよ、と若干の戦慄を覚えながら、これは真実を言う。
「人形町の小料理屋だよ。もう潰れた。故郷に帰るって言ってそれっきりだ」
「それっきりって、女と別れた時に使う言葉みたい」
「フランス語はそこまで得意じゃないんだ。とにかくおまえが心配するようなことは何もないし、心配ならユリに訊いてみろよ」
 最終兵器と言えば最終兵器だ。「昔の女関係はあいつに何を訊かれても誤魔化せ」とユリに言い含めてあった。嘘を好む妹ではないが、BJの嫉妬深さをよく知っていること、兄とBJに別れて欲しくないという希望から上手くあしらってくれるはずだ。
「それより、しっかり下処理されたホタルイカが食えることを喜ぶべきだと思わないか。お嬢ちゃんだって魚屋に習ったから必ずできるし、俺だって思い出せばまあまあできる。料亭でもないのに歯触りのいいホタルイカが刺身で食べられる、最高じゃないか?」
「……そうだけど」
 春の味覚に嫉妬心が揺らぐ声音を聞かせたBJに、よしもう一息だ、とキリコはゆっくりとハンドルを崖の家の方向へ切りながら次の手に出る。
「菜の花も買ってただろう。あれは一度湯がくんだ。サラダでもお浸しでも何でもいいんだが、とにかく最初にね」
「……それで?」
「菜の花はいい出汁が出る。塩で整えて──」
 それからしばらく、キリコは自分が知る限りの和食の知識を口にし続けた。慣れないジャンルの料理の単語をフランス語にすることにはやや労力が必要だったが、嫉妬が過ぎたBJに泣き出されるよりはずっと楽な作業だった。
後部座席のピノコがコロッケをひとつ食べ終え、ふたつ目には手を出さず、包みを買い物籠に入れる。ミラー越しにその姿を見たキリコは、本当にいい女だよなあ、としみじみ思ったのだった。
 話しているうちにBJの機嫌が浮上の気配を見せる。食欲とは偉大なものだ。とどめにキリコは言った。
「アサリがあるといいんだがな。菜の花とよく合うから。今日の菜の花を少し残して、明日の昼はアサリとパスタにできたのに」
「貝なら」
「うん?」
「浜に降りればいくらでも採れるけど?」
 よし、大体機嫌が直った──キリコは心の中で安堵の息を吐いた。私有地から続く浜辺へ降りよう、とBJが自ら誘ったのだ。そこで少し甘やかしてやればいい。
「いいね。帰ったら一緒に降りるか。──その間に、お嬢ちゃんに他のものを作っておいてもらうのはどうだ?」
「ピノコがいいって言ったらね」
 絶対に言うよ、おまえの可愛いあの子はね。その言葉を口にすることはやめ、キリコは後部座席のピノコに「いかにも協力を求める男」の声で日本語を発し、事情を説明する。ピノコはしたり顔で頷いてみせた。
「戻って来るまで菜の花とホタルイカの下処理は取っておくわのよ」
 それまでの会話が分からなくても、ピノコはそれで全てを悟って厳かに宣言し、キリコにいかに自分がいい女かを知らしめたのだった。


 動きやすい服に着替えて砂浜に降り、手を繋いで歩く頃にはBJの機嫌は直っていた。水平線に身を隠し始めた陽光は眩しすぎて、青い瞳のキリコにはやや辛い。BJの家の自分の部屋にサングラスを置くかと真剣に考えた。
「眩しい?」
「まあな。光彩の問題だ、どうしようもない。サングラスでも買うよ」
「アイパッチでいいじゃない」
「両目を潰せって? 悪魔かよ」
 二人で笑ってからキスをして、しばらく身を寄せて歩く。それだけでBJは嬉しそうだった。キリコは嬉しそうなBJを見て嬉しかった。この女は何て簡単に俺を幸せにするのだろう、と思った。
 普段よりも大きく開いた襟元からネックレスが見え隠れする。キリコも同じものをつけていた。ネックレスの先には指輪が通されている。仕事柄、人前で指にすることはないが、身に着ける前よりも強い結び付きを感じるようになった。
「貝、取らないと。アサリいるかな」
「どんな貝でもいいんだが、まあ、アサリが一番美味いよ」
「いつもこっちで採るんだ」
「ふうん?」
 BJが手を引いて先に歩き出す。可愛いな、と昔から幾度思ったか知れないことをまた思った。
 昔から思っていることでも、ふたりになって時が経つにつれ、その感情の種類は大きく変化している。以前の自分たちでは考えられないような種類の感情であることも分かっている。もはや考えられなかったことすら嘘のように、いつの間にか、互いの存在が互いを構成するパーツになっていた。
「あ、ハマグリ。ピノコが好きなんだ」
「じゃあ、少し多めに採っておくか」
 恋敵が好きな貝を多めに採った後、キリコは何も言わずに別の貝を採り始める。ながらみと呼ばれる小さな巻貝を集めるキリコを見て、BJは嬉しくて微笑んだ。ながらみはBJが好きな貝だ。好きな男が何も言わず、当然のように自分が好きなものを集めてくれることが嬉しかった。
 それから当初の目的のアサリを採り、崖の上に向かって歩き出す。陽光は傾き、暗くなる前に早く帰れと二人を急かす。それなのに急ぐ気になれず、揃って歩みが遅かった。
「ながらみの砂抜きは時間がかかるって、ピノコが嫌がるんだよね」
「1日がかりだったかな」
「そう。アサリやハマグリなんかは6時間くらいでいいのにって」
 愛娘の話をする時のBJは穏やかな表情になる。何かへの無償の愛情を持つ者の顔だとキリコは思う。そして美しいと思う。これもまた愛しい女を構成するひとつのパーツで、それは突き詰めればキリコ自身を構成するひとつのパーツになる。それに気付いたのはいつだったのか、もう思い出せる気がしなかった。
 ただ愛おしい。この女が共にいなかった時、どうやって生きていたのかを忘れてしまいそうなほどに愛おしいと思う瞬間が増えた。熱に浮かされて愛し合っていた頃はそう昔ではないはずなのに、今の愛し合い方は変化して、深く、細胞のひとつひとつの奥底にまで染み渡る愛おしさを感じる。
 失うことなど考えたくもなかった。抗えない生命の終焉以外で離れることなど有り得ないとまで思う。互いに最後の女で、最後の男だ。
 階段を上る時、胸元のネックレスと指輪がしゃらりと鳴った。その音で、昼に会ったあの女を思い出した。結婚指輪をして安い売春を持ち掛ける女。
「ホタルイカ」
「うん?」
 不意に言われ、物思いに耽りかけた意識を目の前の女に戻す。
「頑張ってね。食べるのが楽しみ」
「下処理で取った脚を刺身にすると美味いんだ。竜宮そうめんって言うらしい」
「それも食べたい!」
 弾けるように笑うBJにキスをし、あの女のことを考えるのはやめようと決めた。売春婦にたまたま声をかけられた。それだけの話でいいと思った。
 その日の夕飯は調理前から賑やかだった。ピノコとキリコがホタルイカの下処理を見事にこなして行く横で、見えない尻尾を派手に振るBJがたまに手を出してぱくりと口に入れてしまう。行儀が悪いとピノコが怒り、BJがしゅんとして、普段と逆だなとキリコが笑った。
 仕方ないわのよねぇと大人びた口を利いたピノコが箸と醤油皿を人数分用意し、なぜか下処理をするそばからホタルイカを口に運ぶことになり、そのうちBJが自分とキリコにはビールを、ピノコには炭酸水を出す。他の料理がろくに出来ていないのに宴会だ。酒飲みにはままあることだ、とキリコは思いつつ、母子が楽しそうだったのでそれで良かった。
 俺の世界だ。そう思った。俺の世界だ。ここは俺の世界で、俺はこの女の世界の一部だ。幸せだった。患者の生命の行方について手を取り合うことはできなくても、それすらも互いの世界の一部だと分かっていた。
 料理をしながら酒を飲み、出来る端から食べていく。この家では珍しいだらしない夕食にピノコはいたく喜んだ。日常の中でちょっとした特別感が味わえた満足からの可愛さを存分に見せつけ、酔ったBJを喜ばせる。
「明日の昼はキリコが残りの菜の花とアサリでパスタを作ってくれるんだって。楽しみだね」
「スパゲティ!」
「そうとも言う」
「ロクターのご飯は勉強になるわのよ。ピノコ、作るとこ見せてもらうんらから。パスタ──」
 不意にピノコがはっとした顔になり、キッチンへ走って行った。何だろうと首を傾げるBJにキリコは素早くキスをし、何だろうなと言った。やがてうなだれたピノコが戻って来る。
「スパゲティがなくなってるのよさ」
「あ、先週の日曜日、昼に茹でて食べちゃったっけ」
「さっき商店街で買って来ればよかったのよさー!」
 本気で嘆くピノコに焦り、BJが分かった、分かったよ、明日の午前中に買って来るから、と甘い顔を見せる。可愛い光景にキリコは笑った。
「俺が行くよ。他に買うものがあれば書き出しておいてくれ」
 後片付けをして風呂を済ませ、ピノコが眠ってからテラスで少しふたりの時間を過ごす。やがてアルコールと風呂で眠気が回ったBJが欠伸をし、ベッドへの移動を宣言した。
 ユリが来る日はユリがBJのいつものベッドで眠り、BJはキリコのベッドで眠る。だが今日はユリがいない。BJとピノコの寝室の前で普段より丁寧なお休みのキスをして、キリコは一人寝のための自分の部屋へ向かった。元は客間だったが、今はすっかりキリコの部屋になっていた。自宅で使う日用品と同じ物や着替えが置いてある。
 あまり眠くはなかったが、この家の朝は早い。寝ておくにこしたことはない。ベッドに横たわって目を閉じる。波の音を聴きながら、軍にいた頃に身に着けた数分で眠れる方法を実践し始めた。早ければ2分もかからずに眠れる。BJの前で初めてこの眠り方をした時は気味悪がられたほど、一直線に睡眠の世界へ移動する方法だった。
 ああ、もう眠るな、と感じた時、あの娼婦のことを思い出した。嫌な話だと呟く間もなく、そのまま眠りの谷へと落ちていった。


 翌日はキリコが一番遅く起きた。この家ではいつもの順番だ。キリコの家に泊まる時だけBJは寝坊をするが、自宅ではいつも決まった時間に起きる。母子の賑やかな朝のやり取りに口を出すことなく、キリコはいつの間にか出来上がっていたこの家での自分のルーチンをこなす。
 朝食の後のコーヒーを飲みながら、乾麺を買いに行く必要があることを思い出した。
「他にいるものは?」
「特にないかな。キリコがいるものだけ?」
 言いながらピノコを見たBJは、ピノコが頷いたので「それで」と断言する。キリコは分かったよと返事をして家を出ながら、あの商店街独特の野暮ったい、だが確実に日本人の誰もが好きなケーキを買って来てやることにした。
「私も行く」
「どうした?」
「ピノコに追い出された」
「いい女だな」
 BJの前で褒めても唯一嫉妬されない女を心から褒め、車に乗り込んでキーを回す。買う予定のケーキを少し豪華にしようと決め、BJにキスをしてからクラッチを繋いだ。
「私もちょうど用事があったし。車屋に取り立てに行きたいんだ。昨日は行けなかったからね」
「ああ、そうか」
 いつもBJの車のメンテナンスを頼んでいる車屋の社長はかつての患者だ。依頼料の取り立ての名目で様子を見に行っている。実際に督促もするにはするが、誠実に払い続ける相手にそこまでうるさく言うことはなく、純粋に様子を見ることがほとんどだった。
「先に送るよ。終わる頃に迎えに行く」
「時間が読めない。パーキングで待ってて」
 そこまで遠くもない道中、取り留めのない話をしながら時間を過ごす。昨日の夕飯で食べたホタルイカの竜宮そうめんがとても美味しかったとBJが言い、旬が短いから食べられるうちに食べておこうか、とキリコが答えた。これで今日の買い物がパスタとケーキ、そしてホタルイカになった。
 BJを車屋へ送り、キリコは目的の買い物を済ませる。ケーキとホタルイカはBJと合流した帰りに買おうかと考えながらコインパーキングへ向かう途中、思わず溜息をついてしまった。
見計らったかのように――見計らったのだろうとキリコは思った――本屋の中から昨日の女が出て来て微笑みかけたのだから。
「こんにちは」
 身体を売っているとは到底思えない、ごく普通の生活をしているように見える女は愛想がいい。だがキリコは返事をせずに通り過ぎた。途端に商店街の人々の目が集中したことが分かる。自分が目立つ自覚はある上に、ここでは人気のあるBJの恋人として覚えられている。その上で最近話題になっている女に声をかけられているのだ。注目されないはずがなかった。
「昨日はすみませんでした」
 女はキリコの一歩後ろを歩きながら言った。キリコはやはり返事をしなかった。コインパーキングに停めてある車に向かうか迷い、行かないと決めた。
「奥様がご一緒でも、買う人は多いから」
 虫唾が走る――キリコは思った。これが治安の悪い海外の都市、あるいは法で売春が認められている場所であれば何も思わない。だが片田舎と言ってもよいほど静かで穏やかな日本のこの商店街にはあまりにも不釣り合いな存在だ。人々の――恋人の生活エリアの中にある場所を乱す存在を好きになれそうにもないと思った。
「改めて訊くんですけど、私を――」
「日本の売春は違法のはずですよ。買う方もね。警察を呼ばれないうちにやめておいた方がいい」
「呼ばれたことなんてないから、きっと大丈夫」
「ここで? 以前から?」
「こんなこと、この町でしかしてないから、ここだけですね」
 キリコは返事をしない。深く考えないように努力した。だがどうしても習性と言うべきか、様々な可能性が脳裏をよぎりそうになり、くそ、と口の中で汚く呟いてから言った。
「私に声をかけるのはやめなさい。ここには必ずパートナーかその娘と来ているから、あなたから何かを買うことはできない」
「でも――」
「警察を呼ばれたことがないのはこの町の人々が優しいからですよ」
「優しい?」
 女が足を止めた。キリコは溜息を堪え、今だけだ、と自分に言い聞かせ、そして自分を許した。正確には恋人を忘れ、医者の顔をする自分を許しながら振り向いた。
 そして、ああ、やっぱりな、と思った。予想通りと言えば予想通り、女は先ほどまでの愛想が嘘のように、失敗作の能面のごとき無表情を張り付けていた。
「特にここの商店街の人々はね。あなたも分かっているから、この辺りで声をかけているはずです」
 女は答えない。無表情のまま、そしていつの間にか凍り付いていた瞳でキリコを眺めていた。キリコは続けた。
「帰りなさい」
 普段は賑やかなはずの商店街が静まり返る。誰もがキリコと女を見ていた。
 やがて女がふうと息を吐く。キリコが再度帰るように促す前に、並の人間であれば絶句するであろうほど明るい笑顔を作り上げ、弾けるような笑い声を上げた。
「嫌だわ、そんな怖い顔されるなんて! ごめんなさい、もうあなたに声をかけないようにしますね」
「そうして下さい」
 キリコの返事に女は一瞬だけ表情を消し、そしてまたすぐに笑顔になった。期待外れだったんだろう、とキリコは思う。――俺に期待していたんだろう。優しい言葉をくれるんじゃないかって。そんなことはないよ、怖がらせてすまなかったねと言われたかったんだろう。
 だが俺にそんなことを言う筋合いはないし、そして俺がそれを言うべきじゃないんだ。
「また会ったら挨拶くらいしてもいいですか?」
「お断りです」
 短く答え、キリコはそのまま歩き出した。明らかに心配して見ていた店の人々に「問題ない」と伝えるため、昨日の肉屋の前で足を止めた。
「乾物屋にいる。クロオを見かけたら言っておいてくれないか」
「あ、うん――大丈夫かい? あの女のこと」
「俺は大丈夫だが、あの女がどうだろうな」
「え?」
「あの女、しばらくこの商店街にしつこく通うと思う。俺のせいだな。それは謝っておくよ」
「どういうことか、訊いていいのかな」
 キリコは数秒考え、まだあの女が道端に佇んで自分を見ていることに気づき、軽く息を吐いてから言った。
「俺に会いに来るはずだ。――すまないな、明日以降、仕事が入ってる。次に来られるのは早くても来週末か再来週になると思うんだ」
「ってことは」
 いつの間にか店の奥から出て来ていた店主の妻が口を挟む。
「来週末か再来週、ドクターが彼女を診てやるってことでいいの?」
「察しのいい主婦がいる家は盤石だろうね、素晴らしい」
 店主の妻の言にキリコは心から感服する。その通りだった。あの女は既に患者となっていた。
「ドクター、乾物屋に行くならマカロニサラダを持って行ってくれない? あの爺さん、うちのが好きなのよ。一昨日あそこで海苔買った時におまけしてもらっちゃったしさ」
 地元の顔役に話を通しに行くなら手土産が必要だ――言外にそう告げる彼女にまたもや感服し、キリコは頷いたのだった。
「おや、旦那さん、いらっしゃい」
「私は独身ですよ」
「揃いの指輪を持ってるのになあ」
「誰がそんなことを」
「さて、誰だったっけな?」
 店先から奥へキリコを通してくれた乾物屋の主人は大体の話を把握していた。今しがたキリコが彼女に声をかけられたことも既に耳にしており、聞いているよと言ってキリコを苦笑させた。どこの国でも密接なコミュニティは存在するものだ、とキリコは思う。普段はネックレスにしている指輪の件もいつの間にか情報として共有されていることを知り、ある意味で諦めた。
「お聞き及びなら話が早い」
「ドクター、本当に日本語が上手いよなあ」
 密接というものは時として監視同然で煩わしいが、時として助けをくれるコミュニティであることは間違いない。キリコは商店街の部外者だという自覚があるが、BJが生活の基盤を置く場所に関係する以上、それなりの態度でいるべきだと分かっていた。逆の立場であればBJも同じことをする。パートナーという立場はそういうものだ。
「早くても次にここに来られるのが来週末です。その間にどうするかは皆さんにお任せしますが、一応お話だけでもしておこうかと思いまして」
「どうするもこうするも――商店街の中で客引きをしても、取り敢えず誰も買っちゃあいないしなあ。よそじゃ買ってる連中もいたらしいが。ただ、奥さん連中がピリピリしてるってのは確かだな。うちのもうるさくっていけねえよ」
 主人は笑い、茶を出しに来た妻が溜息をついて夫を小突いた。キリコは礼儀として少し笑っておいた。
「ドクターが来るまでに警察がしょっ引くとも限らないが、ドクターがそう言うってことは、何だい、何かしてくれるってことか」
「警察が関われば別ですが、私が手掛けるべきだと言える患者です」
「俺はドクターが何の医者か知らないんだが」
 老爺は穏やかな表情で茶を啜り、明日の天気の話でもするかのように静かに言った。
「先生の旦那だ。俺たちが理解できるような分野じゃあないだろうと思ってるよ」
 話さなくていい、知りたくない。それは商店街の総意なのだろう。キリコは答えなかったが、賢明なコミュニティだ、と思った。密接な関係の中で共有されるべき情報の中でも、手に入れてはいけない、知ってはいけない種類のものがあると彼らはよく理解している。それが賢明と言わず何と言おう。
「ただ、不思議なんだ。先生は言っちゃあ何だが、金がなけりゃ絶対診ないだろう」
「おおむねそうですね」
 例外はあるが、それをキリコが言ったところで仕方ない。
「ドクターは誰でも診るのかい。見ず知らずで、しかもドクターに迷惑をかけるような通りすがりの女でも?」
 店先でBJがごめん下さいという声が聞こえた。妻が返事をしながら出て行く。すぐに始まった女同士のかしましい会話を耳にしながら、キリコはいつも通りの声で答えた。
「報酬があるからですよ」
「あの女から金を?」
「いいえ」
 奥にキリコがいるの? 入っていい? と言うBJと、もちろんどうぞと通そうとする妻の声が聞こえる。
「家族で機嫌よく、買い物ができる時間は貴重だと思いませんか」
「――そりゃあ違いない」
 老爺は笑い、同時にBJがひょいと顔を出す。キリコが微笑みかけるとはにかんだ笑顔を見せた。どれほど時間と感情を共有しても、外で微笑みかければいまだにいつもこんな笑いを返す。
 ああ、可愛いな、とキリコは思った。そしてあの女の結婚指輪を思い出した。


 ホタルイカを買いに魚屋へ寄る。気に入ったから今日も食べるとBJが言うと、魚屋は喜んであれもこれもとおまけをつけてくれた。それからピノコの土産に少し豪華なケーキを買い、崖の上の家に戻る。
「ぶっちゃけていい?」
「うん?」
 助手席のBJが突然言った言葉にやや嫌な予感を抱きつつ、キリコは耳を傾けざるを得ず、無意識に言葉を選ぶ態勢に入った。
「自分でも病的なのは分かってるんだけど」
「ふうん?」
 これだけで予想はついた。そして予想通りの話が始まった。
「わたし、嫉妬深いじゃない?」
 拗ねて可愛い女の声だ。何て可愛いんだろう、キスしてやりたいね、むしろキスして誤魔化したいね、どうして俺は運転中なんだろうな、とキリコは思う。
「俺の中じゃスタンダードだ、問題ない。どうかした?」
「他の男じゃ大問題ってのはよく分かってる。――あの女、何なの」
 キリコはやや沈黙する。いつ見たんだ、いや、どう考えてもさっきだよな、じゃあどうしてすぐに声をかけなかったんだ――数秒の沈黙の間、別の自分が「これだけ沈黙しててもヒステリーを起こさないってことはある程度理解してるぞ」と話しかけてくる。まあそうだろうな、と結論付け、説明してしまうことにした。
「先に確認しておきたいんだが」
「何を」
「知らない?」
「何を?」
「彼女が売春相手を探しているってこと」
 BJは大きく息を吐き、どさりと音を立ててシートに深くもたれた。知っている、と態度で示したも同然だった。
「知ってる。少し前からいるって話は聞いてたし、何回か見かけた。ピノコの情操教育によくないから近寄らないようにしてた」
「彼女もおまえには近づかないだろうよ。おまえだけじゃなくて女性全般」
「だろうね。念のためってこと」
「ふうん」
「キリコも声をかけられたってこと?」
「言わなくて悪かったよ。昨日と今日、2回。――先に計算しろ。女を買う時間があったと思うか? あると思ったら俺を殴っていい」
 病的な嫉妬心を持つ女のヒステリーを避けるために先手を打つ。だがBJは煙草を咥え、鼻で笑って火を点けた。
「早漏なら充分な時間じゃあないか」
「違うって分かってんだろ?」
「他の場合じゃヒスったけど、彼女なら分かってる」
 BJは窓を僅かに開け、煙をふっと吐き出す。キリコはヒステリーを回避できたことに胸を撫で下ろしつつ、彼女なら、と理解を示したBJに、ああ、こいつは大体分かってるんだな、ちなみに分かってるって内容には俺が早漏じゃないってことも含まれてるんだろうか、と思った。
「彼女がどういう人かも知ってる?」
「性格なんかはともかく、まあ、大体はな。肉屋で聞いた」
「性格なんてドクター・キリコが見ればすぐ分かるくせに」
「心療内科は万能じゃないぞ」
 俺の専門でもないし、と言いかけ、それは飲み込んだ。安楽死について議論が始まりそうな可能性は全て排除しておきたかった。
 崖を上がる手前の最後の赤信号に捕まり、車を停めてからキリコは言った。
「近づかなかったのは」
「え?」
「おまえが彼女に近づかなかったのは、診たくなかったからか?」
 BJはすぐに答えなかった。キリコも答えを促そうとは思わなかった。
 やがてBJは静かに言った。
「彼女、金がなさそうだし」
「まあ、裕福じゃないだろうな」
 信号が青になる。キリコがギアを1速に入れる音を聴いてから、BJはぼそりと付け加えた。
「ああいうの、苦手」
 何が苦手なのか、BJはそれ以上言わなかった。キリコも問わず、丁寧にアクセルを踏んだ。視界の隅にBJがブラウスの下の指輪を撫でた仕草が入り、車を降りる前にキスをしようと決めた。


 キリコが作ったパスタは充分すぎるほど美味しかった。調理中から熱心に観察していたピノコは口福にうっとりと顔を綻ばせ、BJも似たようなものだ。可愛い母子だと満足しつつ、キリコは炭酸水を自分のグラスに注ぐ。それを見たBJが首を傾げた。
「ワインがあるのに」
 BJのグラスには白ワインが満たされている。午後も恋人と娘とだらしなく、だが楽しい休日を過ごすつもりだった。キリコは自分が明日以降の予定について説明していなかったことに気づいた。
「明日から来週末か再来週まで仕事だ。今日は帰る。運転するから酒は飲めないよ」
 たちまちBJの眉が跳ね上がる。おいでなすったと内心で身構えたことはキリコとピノコだけが知る。
「聞いてないけど?」
「言ってなかった。ごめん」
「え、何の仕事? 人殺しじゃないだろうな!?」
「俺は人殺しなんぞ仕事にした覚えはないぞ」
「人殺しじゃないか! どこの仕事? 誰? 私に紹介するべきだ!」
「してやってもいいが、おまえが嫌になって断る未来が見えるね」
「何それ!」
 キリコは溜息をつき、そういえばホタルイカの処理くらいはして行くか、と思う。BJの機嫌が直るようなら――要はこの話の誤解が解けて追い出されなければ――夕飯を食べて行った方がいいかもしれない。ピノコが提供する晩餐で酒が飲めないことは辛いが、ぎりぎりまで女の機嫌を取るべき状況になりかけていた。
「ワシントン。フォート・デトリックだよ。いつもの」
「紹介しないで」
「だろ?」
「本当に?」
「何が?」
「本当にフォート・デトリック? いつものスパンより短くない?」
 フォート・デトリックでの仕事は定期的に繰り返されているが、その期間は大体決まっている。確かに今回は通常よりも前回からの間隔が短かった。どう説明するかを考えながら口を開く。この場合、車中の時とは異なり、沈黙は女のヒステリーを誘発するだけだと分かっていた。
「契約内容の見直しと警備のパターン変更についての確認があるんだ。隠し事はないよ」
 BJはしばらく黙った後、「本当に?」とまた同じ言葉を口にした。
「嘘をついてどうする。よりによってフォート・デトリックのことでおまえに嘘をついたって意味がない。グラディスに訊けばすぐ分かる」
 旧知の特殊部隊隊長、そしてキリコがフォート・デトリックに入る際には警備責任者になる男の名前を出すと、BJはぎろりとキリコを睨んだ。
「赤毛に電話して確認するよ?」
「しろよ。死ぬほど嫌な顔で俺が正しいって言って、最後に死ねって言ってくれる」
「顔なんか見えないし、あいつの死ねは挨拶だ。電話してくる」
「本当にするのかよ。構わないが時差を考えろ」
「緊急だ! 起こす!」
 言うなり速足で電話へ向かう姿に頭痛さえ感じながら、キリコは深く溜息をついた。
「ロクター、苦労するのわよねえ」
 黙って聞いていたピノコが初めて口を開き、キリコはつい苦笑する。やがて電話の方からBJの不機嫌な声が聞こえる。あっちは真夜中だぞ、赤毛が心底機嫌を悪くするだろうな、とうんざりした。ワシントンでグラディスと顔を合わせた瞬間に言われるに違いない嫌味にどう返すか、今から少し考えておく必要がありそうだった。
 キリコの予定が嘘ではないという言質は取れたものの、BJの機嫌は回復しなかった。寝ているところを夫婦喧嘩の延長で起こされたと知ったグラディスが、憂さ晴らしに「ドクターが浮気したらすぐ連絡してあげるよ」と言って電話を切ったのだ。病的な嫉妬深さを誇るBJが冷静でいられるはずがない。ピノコの手前もありヒステリーを起こすことは辛うじて我慢したが、とにかく帰れ、キリコなんか帰れ、浮気者、最低、と理屈の通らない――だからこそ病的なのだ――思い込みと我儘をキリコにぶつける事態になる。
 慣れているキリコは溜息を押し殺し、ピノコにこっそりと「ごめん、いい土産を買ってくる」と言い置いて崖の上の家を後にすることになったのだった。どうせ夜中に泣きながら謝罪の電話をかけてくることは分かっている。明日のフライト時刻は早いが、少し夜更かしをする必要がありそうだ。ただ、泣き声の電話は恐ろしく可愛いだろうなと思ったことも確かだった。
 運転しながら首元のネックレスを探る。衣服の下に隠れた指輪が指先に触れた。またあの女の結婚指輪を思い出していた。
 俺が帰るまで商店街には行かない方がいい、と言い忘れたことに気付いたのは、泣き声で謝る女を言葉で散々甘やかし、受話器を置いた後だった。