安心の中 03



祝言など大したことではない、誰しもがすることだ。長くそう思っていたが、そうではないのだと思い知った。
父も母も姉も、使用人たちでさえ、何かと小十郎に声をかけてはあれはどうするか、あれはどうなのだ、と確認をする。そのたびに小十郎は溜息を堪え、考えなければならなかった。休暇中であることがせめてもの救いだ。
「たかが祝言のために休暇を命じられるなんざ、思ってなかった」
つい、姉にぼやく。姉は軽快に笑った。
「たかが、なんて言うもんじゃないわよ」
「しかし」
「そうねえ、平和だからこその休暇ね」
「平和な」
「そうよ。平和な時代でよかったじゃない」
そうですね、と小十郎は微笑む。そうよ、と姉も微笑む。
雨はやむ気配がない。極端に強い土砂降りは既にないが、しとしとと霧雨が降り続いていた。
「祝言の日には晴れるといいわね」
「──そうですね。……ああ、それがいい」
祝言の日には吉が織田家からやって来る。籠に乗って片倉の家で白無垢の支度をするとはいえ、着て来る着物は最も上等なものだろう。濡れてしまっては可哀想だ。細かいことをあまり気にしない、もしくは不可抗力である事象に対しては嘆きを見せない吉だが、一生に一度の日なのだから、できるだけ心地良く過ごさせてやりたかった。
小十郎も忙しいものの、祝言の細かいことについては母が仕切っている。出入りの業者や先祝いに訪れる親戚の相手は母に任せていた。普段は静かなはずの家がいやに賑やかだ。
昼前、再び政宗がやって来て剣の稽古をせがむ。いつものことだ、と小十郎は思う。
──いつもの、ことだ。
雨が降らなければ庭で稽古をするが、こうも降り続いていては町の道場を使うしかなかった。雨が小降りの日は騎馬隊の青年たちも多くやって来ている。政宗だけに稽古をつけるはずが、いつの間にか全員の相手をすることも多かった。
昼過ぎになれば吉が政宗と小十郎の弁当を持って顔を出す。青年たちは冷やかしつつも嬉しそうにそれを見守り、自分も早く嫁が欲しい、と苦笑いしながら囁き合っていた。
吉はあまり喋らず、小十郎たちの会話を聞いていることが多い。政宗が剣の話に夢中になり、小十郎もまたそれに付き合い、吉は横で黙って微笑んでいる。気付いた小十郎は彼女に微笑みかけ、吉は微笑み返し、気付いた政宗はやや赤くなることが多かった。政宗のみならず、この時代、堂々と微笑み合う男女は珍しい。
「姫ねえさん、剣の話なんかつまんねえよな。Sorry」
「なんも」
吉は政宗にも優しく微笑む。
「……弟も、剣が好きで」
「弟──信行さん? だっけ?」
「そ」
「へえ、あの人もそうなのか。雅な人だって噂だからさ、てっきり剣なんて興味ないと思ってたよ」
「折り正しゅうて、よう出来た子で、確と雅やかではあれど、剣も相応に」
弟を手放しで褒める吉を見ながら、小十郎は何かを思い出そうとする自分に気付く。だがすぐに自らそれを打ち払い、信行の話を聞きたがる政宗に意識を傾けた。新しい誰かの話を聞く政宗は楽しそうだ。政宗が楽しいのであれば自分も楽しい、と改めて思った。吉はそれを分かっているのか、それとも無意識なのか小十郎には測りかねたが、政宗の好奇心を満たすような話をしていた。
「政宗様、も、ようよう、信行とご懇意に」
「俺でいいの。相手にしてもらえなさそうだけど?」
「信行が織田を継ぐゆえ、ナ。政宗様とご懇ろなればわらわも嬉し」
「ああ、そうか。そうなの、信行さんなの」
得心する政宗の横で、小十郎は吉を見る。吉は小十郎の視線に気付かないのか、見返すことはなかった。それでも穏やかな表情で弟の話をする吉は幸せそうだ。
「俺にも弟いるけど」
「小次郎様」
「そう。あいつは俺より出来がいいんだよなあ」
「小次郎様の人と成りは存ぜぬけれど」
「ああ、うん、俺と同じくらいイケメンで、俺よりちょーっと頭いいかも? でも、俺のことを随分立ててくれる」
「それは」
吉が静かに言う。
「政宗様が、優れておられると。小次郎様がようよう、御存知なのであられましょ」
「──だったらいいんだけどなあ」
「政宗様にしか達せぬことがあると分かれば」
吉の声はどこまでも静かだ。
「分かった者は、誰しもが」
小十郎はただ、吉の声を聞く。
「政宗様を、主としとうなり申しましょ、ナ」
そうかな、と政宗は難しい顔をする。照れ隠しであることは明白だ。
「確かに」
小十郎は言った。
「きつ殿の、言う通りですね」
見たわけではない。だが分かっていた。
窓の外に、あの少女がいるのだということが。
午後の稽古が始まる頃、道場がざわついた。輝宗が現れたのだ。恐縮する青年たちに気さくに声をかけ、人の良い笑顔を我が子とその近侍、そして近々妻となる女に向ける。
「やっているか。時間が出来たからな、見に参ってやったぞ」
「いらねえよ、親父。お袋にどやされるぞ」
憎まれ口を叩きながらも政宗は嬉しそうだ。
「そう言うな。母がよく見て参れと申したのだからな」
「お袋が?」
「相変わらず、お前のこととなると口うるさい女よ」
「俺が可愛いんだろ」
「ま、そうだろうな」
小十郎は黙って食べ終えた弁当を片付けようとし、吉が無言でそれを引き取る。二人で目を合わせ、何とはなしに微笑み合った。
「おお、織田のご長女。雨の日に遥々」
「輝宗様には御機嫌ようならっしゃいまして」
「優雅な御挨拶を。織田の女性は本当に、ひとつひとつが雅やかで」
吉に興味を示した輝宗が吉に何くれとなく話しかけ始める。政宗は呆れつつ、天性とも言える会話術で二人を取り持ち、小十郎に心配させることなく父と吉の間の空気を整える。とはいえ、小十郎が心配することは何もなかった。吉がそつなく、だが無駄に余所余所しくない会話の技量を持っていることはよく知っていた。
「小十郎も、良い嫁御をもらえるようで安心したよ。これは昔から堅物でな。女が放っておかぬ傑物なのに、見向きもしないで政宗によく仕えてくれて。城の女たちが嘆いているのをよく聞いたものだ」
「アレ、ま」
「輝宗様、お褒め頂けるのは光栄なのですが、その」
ちらりと自分を見て来た吉の目に焦り、つい小十郎は早口で言ってしまう。余計なこと言うなよ、と政宗が父を咎め、輝宗は笑っていた。
「良い、良い。少々の悋気も夫婦円満には必要なものだ」
「ああ、そうだよなあ、お袋も親父の女関係にはうるせえし?」
「な、母以外に興味はないぞ!」
今度は輝宗が焦る。さあどうだろうなあ、と政宗が人の悪い笑みを浮かべ、小十郎は苦笑し、吉はくすくすと笑い出した。
「いや、落ち着いた方だ」
吉の余裕ある笑い方に感服し、輝宗はしみじみと言った。
「これなら小十郎を任せられる。安心した」
「御言葉に御緩怠に」
夫となる男の主家に賛辞をもらい、吉は素直に頭を下げる。ちらちらと見ていた騎馬隊の青年たちには、気位の高い女が多いはずの織田家の態度とは思えず、つい意外そうに視線を交し合った。
午後の稽古には輝宗も混ざり、政宗を容赦なく打ちのめしては笑い、政宗は「親父にかなうわけねえだろ!」と怒りながらも何度も打ち込んで行く。平和な父子の光景に微笑み、小十郎は隣の吉を見る。
吉はやはり輝宗と政宗を見ていたが、同時にどこか遠くを見ているようでもあった。
それでも、その唇には微笑が浮かんでいる。
「きつ殿」
「はい」
小十郎を見、吉は穏やかに返事をする。
「弟御は、どんな方なんだ」
「信行」
「ああ」
吉の微笑が深くなる。
「良い子。先も申したけれど、折り正しゅうて、賢くて。剣も」
「そうか」
「穏やかなこの世なれば、織田も家臣も安堵して生きてゆける」
「そうか」
弟の話ができて嬉しいのか、吉はしばらく信行について色々と語っていた。いかに出来た青年であるのか、いかに人心を惹く武者であるのか。小十郎は静かに聴き、たまに相槌を打ち、弟を語る吉の横顔を見ていた。
「小十郎様」
「ん」
「北の方様はどのようなお方であらせられるの」
「……北の方様?」
「輝宗様がああまで──ふふ」
妻以外には興味がないのだ、と言った輝宗を思い出し、吉は笑う。小十郎も笑った。
「そうだな、勝気な方だが」
何より、と小十郎は呟く。
心から呟いた。
「何より、政宗様を大切にしておられる方だ」
そう、と吉は言う。
そうだ、と小十郎は言う。
それ以上何を言うでもなく、二人はただ、木刀を打ち合う父子を見ていた。
父子や青年たちの気合いの声の向こうで、しとしとと、雨の音が響いていた。


「蒼の着物が好きなのか」
雨の中、共に歩きながら小十郎は問う。吉がいつも蒼い着物を着ていることは気付いていたが、口にしたのは初めてだった。
「市が似合うと申すゆえ」
「妹御が?」
「ん」
「確かに似合う」
「そ」
「あなたは赤が似合うと思っていたが、蒼も似合うな」
「……そ」
帰りはいつも、途中の道で別れる。
そこに必ず吉の迎えが来ているからだ。毎日顔を合わせるようになった美しい青年は言葉少なに光秀と名乗り、祝言への祝いを述べた。
小十郎は特に彼と話すこともなく、吉に別れの挨拶をし、光秀が吉を促して歩き出す背中を見送る。それが毎日のことになっていた。
──もうすぐ。
雨の中、小十郎は思う。
──こんな日々も、終わる。
祝言はもう、目と鼻の先に迫っていた。


祝言の支度は女の方が忙しいものだ。しかし吉はそれほど騒ぐこともなく、むしろ周囲が首を傾げるほどに静かだった。その様子に母が苦笑する。
「お前はなぜ、斯様にも落ち着いているものやら」
「支度なれば他が行うわえ」
「ま、そうだけれど。いやあねえ、殿方のように落ち着いて。──それよりね」
急に声をひそめた母に首を傾げる。母は懐から、いかにも高貴な布に包まれた懐剣を取り出した。
「母が嫁いだ時に、土田の実家から持って参った刀です。お持ちなさい」
丁寧に差し出された懐剣を、吉はじっと見つめる。受け取らない娘に不審を感じた母は小さな声で「どうしたの」と問うた。まるで幼い娘に話しかけるかのような声で。
ようやく、吉は口を開く。
「……市に」
「市?」
「市に、お渡しあそばすものではないの」
「市? まあ、どうして」
母の声は心底驚いたものだった。
「これは上の娘に渡すもの。お前が受け取って当たり前でしょう」
「……あたりまえ」
「そう。──どうしたの。お前、そんなに具合の悪そうな顔をして」
「え」
「具合でも悪いの」
なんも、と答えようとした時、懐剣を畳の上に置いた母の手が額に当てられた。
あたたかいその感触に、吉は動くことができなくなる。袂に隠した指をぎゅうと握り締めたことを知る者は誰もいなかった。
「冷えている。雨ばかりだし、出かけてばかりだから仕方ないとはいえ」
娘の額を、首筋を撫でながら母は溜息をつく。吉はされるがままだ。
「小十郎殿に会いたいのは分かるけれど、少しは考えなければいけませんよ」
「……かかさま」
「ああら、熱が上がった!」
紅くなった娘をからかい、母は笑って胸に娘を抱きこむ。吉は自分でも分かるほどに瞬時、身を強張らせた。だがすぐに──力を抜き、母の胸に甘える。滅多にない上の娘の甘え方に母は微笑んだ。
「いつでも、戻って来て良いのですからね。お前は織田の娘」
「……織田の」
「嫁いでも、織田の、母の娘であることは変わりませんよ」
そう、と吉は消え入るような声で呟く。母は聞こえなかったのか、強く娘を抱き締める。
「母上、姉上。市が茶を点てたいと──やあ、どうなさいました」
家族ならではの不躾さで障子を開け、部屋に入って来たのは信行だった。後ろには市もいる。母と抱き合う姉を見た二人は驚いたが、市はともかく、信行はすぐに事情を察する。
「これはお邪魔を。嫁入り前の姉上に、母上から色々とお教えすることもございましたな」
「信行、あちらへ行っておいで。きつはもう、母とあまり話せなくなるのですから」
「それは、俺も市も一緒ですがねえ」
言外に自分も姉と話したいと言う信行と、同意だと頷く市を知り、吉はゆっくりと母から身を離す。
「信行」
「はい、姉上」
利発な弟は姉に微笑む。
あなたは大切な姉上です、と、その笑い方が周囲に教える。
だから吉は言う。
「市が茶を点ててくれるなら、皆で」
そうねえ、と母が言い、信行と市は嬉しそうに「はい」と返事をした。
吉も遅れて微笑んだ。
障子の向こうに、あの誰かがいることを感じながら。




ああ、と誰かが残念そうに呟く。
「せっかくの祝言なのに、雨なんて」
「残念な」
「残念だね」
口々に言う彼らに笑いながら言ったのは、あの少女だった。
「ふたりがいれば、雨でも大丈夫」
そうねえ、そうだねえ、と彼らは笑った。




小十郎は目を覚ます。
雨の音に混ざり、家の中が騒がしい。
──ああ、そうか。
起き上がり、息を吐いた。
今日は祝言だ。
穏やかな雨が降っている。いつまで降り続くのだろう。
「……長い」
きっと今日もやまないだろう。そんな中、彼女はこの家にやって来る。
濡れなければいいのだが。そう思った。
「長い夢を、見ていたものだ」


吉は目を開け、すぐに起き上がって思い切り伸びをする。
だいぶ深く眠った、と身体の心地良い疲労感が教えていた。
どんな時でも眠れる自分を褒めたくなる。
「ねえさま、起きた?」
市がそっと障子を開けて顔を出し、起きていた姉に微笑まれ、嬉しそうに微笑み返した。
「今日は祝言ね。よく眠れた?」
「ん」
「すごいわ。緊張して眠れないんじゃないかって、かあさまがおっしゃってたのに」
「そ」
寝具から出てもう一度伸びをする。
「……ほんに、長い」
雨の音がする。一番上等の蒼の着物を着て行くのに、濡れなければいい、と思った。
「長ァい夢を、見ておったものよ」




父も母も堪えきれないとばかりに、涙ながらに吉を抱く。信行は何度も、何かあったら俺がすぐに迎えに行きます、と姉に約束した。市は言葉が出ないのか、涙ぐんで吉の袖を引き、母に叱られた。
「幸せに」
父が言う。
「幸せに」
母が言う。
「お幸せに」
弟と妹が言う。
吉は微笑み、身を翻して籠へ向かう。本来ならば深々と両親に頭を下げる慣習を無視したということに気付いた者は──そこには誰も、いなかった。


朝から片倉家は大騒ぎだった。両親も姉も使用人もどたばたと走り回り、「嫁」を迎えるための準備に怠りはないかと入念に確認している。
家の外には嫁入りを見物したがる領民が集まっている。
小十郎はまるで他人事のように穏やかに、雨にけぶる庭を眺めていた。全く緊張の影が無い息子を見、父が多少ならず困ったような顔をしたが、小十郎は殊更に相手にしない。
そのうち、道が騒がしくなる。輝宗と政宗が現れたのだ。腹心の部下が正室を娶るこの日、どうしても同席させて欲しいと前々から言っていたのだった。片倉家には断る理由がなく、むしろ光栄なことだと父は歓喜していた。
「政宗、今日はおとなしくしていろ。小十郎の大事な日なのだからな」
「分かってるよ。いちいちガキ扱いすんな!」
「その物言いが子供なのだ!」
父子の言い合いに苦笑し、まあまあ、と小十郎は割って入る。
「小十郎が結婚するなんて、何だか俺、姉貴ができる気分」
政宗が言うと、確かにそうだ、と一同はどっと笑った。小十郎は微笑むばかりだった。
「政宗様」
「ん?」
「小十郎、──生涯を政宗様に」
政宗からすれば突然だった。深々と頭を下げた小十郎に、政宗はつい慌てる。
「何、何だよ、いきなり」
「ああ、いえ」
頭を上げた小十郎の顔は涼しいものだ。
「申し上げておこうかな、と思いまして」
「タイミングがおかしいだろ、今日はそういう日じゃなくねえ?」
「そうですか。ではまた後日、申しましょう」
変な奴、と政宗はぼやく。小十郎は僅かに声を出して笑う。
「何でいつもの格好なんだ。戦にでも行くのかよ」
政宗の指摘に姉が眉をひそめる。確かに小十郎はいつも通り、むしろ役目で戦場へ赴く時のあの格好だ。
「きちんと羽織袴になさいと言ったのですけれど、ね。どうしてもそれがいいって。刀を下げて妻を迎えるなんて聞いたことないわ」
不意に家の外から歓声が上がった。途端に小十郎以外の者は背を伸ばす。父が咳払いをし、相変わらず緊張の面持ちひとつ見せない息子に重々しく告げた。
「きつ殿が参られたようだ。小十郎、準備は」
「結構です」
「では、お前が迎えに」
「父上」
不意に小十郎が父の言葉を遮った。こういった席での慣習を全く無視するものだ。
「父上、母上、姉上──輝宗様、政宗様」
全員が返事をし、首を傾げながら小十郎を見る。
穏やかに微笑んでいる小十郎を見る。
小十郎は立ち上がり、静かに告げた。
「長い夢にお付き合い賜り、小十郎、妻が吉と共に、心より感謝申し上げます」
誰も返事を返さぬうち、小十郎はゆっくりとした歩みで部屋を出る。
庭にあの少女がいた。今まで見たことのない、強張った顔だった。
心から、小十郎は彼女に微笑んだ。
「そんな顔をするな。俺の嫁が来たんだ。ちょっと待ってろ」
答えぬ少女に再び微笑み──感謝を込めて微笑み、小十郎は歩く。
雨に濡れるのも構わず玄関を出、砂利道を踏みしめて門へ向かう。
領民が遠巻きに眺める中、織田家の紋を施した籠に近付いて行く。
慣習であれば籠の前に立ち、小十郎が声をかけるものだ。
だが小十郎が声をかける前に、内側からゆっくりと御簾が上げられた。
蒼い着物を着た吉が小十郎を見上げ、微笑む。
小十郎も微笑む。
そして言った。
「楽しかったよ」
楽しかった。心からそう思っていた。
「本当に、『お前』もよく付き合ってくれた」
「何をおっしゃるの」
吉が笑う。見る者全てを虜にする、あの、大輪の華の如き笑顔だった。
「わらわもほんに、楽しゅうあったわえ。まさかこんな──『おまえさま』と」
二人で笑い合う。いつの間にか周囲が静まり返っていることには気付いている。
だが分かっていた。
最初から分かっていたことだ。
「もう、いいか」
「ん」
「そうか」
「そ」
「未練はないか」
「未練も何も」
籠から降り、吉は立ち上がろうとする。小十郎は黙って手を貸した。小さな手だ、と、いつも思う手だった。
立ち上がった吉は言った。
「夢に未練を持つほど、愚に出来ておらぬわえ」
吉は小十郎の後ろを見る。
そこに、あの少女が立っていた。
少女が何かを言おうとする。
その瞬間、振り返りざま、小十郎は刀を抜き、彼女を一刀のもとに斬り捨てていた。




全てが暗闇に覆われる。襲い来る目眩を全力で堪え、倒れることだけはならぬと小十郎はただ地を踏み締め、片手で強く吉の身体を引き寄せていた。着物の感触ではなかった。あの感触──細い鎖のあの感触だ。
「きつ」
「大事なし」
「離すぞ」
「是」
吉の声はもう、従順な妻の声ではなかった。だからこそ小十郎は本当に夢が終わったのだと知る。
闇に目が慣れて行く。ぼんやりと浮かび上がり始めた光景はやはり雨、片倉の家の前だった。だが全ての輪郭がぼやけ、まるで水面の中で揺れる陽炎のようだ。
その中で小十郎と吉は見た。あの少女が、確かに斬り捨てたはずのあの少女が憤怒の顔で立ち尽くしている。それは既に人間の表情ではなかった。
「なァ、ぜ」
ごぼごぼと、水に空気が混ざるような音をさせながら、喉から声が発される。少女の声ではなかった。酷く太く、醜い、耳障りな声だ。
「な、ぜ。なぜ。しあわせ、だった、だろう、に」
「──ああ、幸せだった」
小十郎は心から言った。吉は何も言わなかった。
「これ以上なく、な。だから分かったんだ」

夢だってことが。

「すぐに分かった。驚いたがな。──俺があんな夢を、ずっと願っていたなんざ」

心の奥底に秘めた夢があった。気付かぬ振りをしていた。手に入れられぬと知っていたからだ。
かなわぬ夢を夢と認めるほど、愚かには出来ていなかった。
ただそれだけの話だ。
吉は何も言わない。
だが小十郎にはなぜか分かる。
互いに幸せな夢を見ていた。
幸せだった。
あんなことが幸せだと思っていた。

平和な世で、
家族と穏やかに暮らしながら、
周囲に祝福されて祝言の日を待ちながら、
敬愛する主君と無心に剣を打ち合い、
そこに妻となる女がいて。

平和な世で、
家族と穏やかに暮らしながら、
周囲に祝福されて祝言の日を待ちながら、
夫となる男が敬愛する主君を心から褒めて、信頼して、
笑い合って。

幸せだった。
あんなことが。
あんなことを望んでいたなんて。

主君の父が存命で、
母と弟ともごく普通に家族として結ばれていて、
将来は弟と共に奥州を守って、

母と弟、妹がいつも傍にいて、
それぞれがそれぞれを思い合って、
将来はよく出来たあの弟が織田を守って、

できはしなかった。
かなうはずがない。
諦めるまでもなく、望んでもいないはずだった。
思い知っていたし、全てを呑んで歩んでいたのだから。


戦国の世に生きているのだと。
妻に、
夫に、
役目があるのだと。


本当は望んでいた。
あの戦火の日々の中、これからも続くであろう長い長い、苛烈な世の中に。
他ならぬ、その世の只中で生きる自分たちが望んでいた。
望み、胸の奥底に抱き、密かに夢を見続けていた。

「……長い」
吉が呟く。
「長い夢を、余も、夫も、見ておった。戦乱の世、何とも心にゆとりがあったものよ」
それは嘲笑ではなかった。咎める声でもなかった。
只々、事実だけを淡々と口にしている声だった。
小十郎は心を殺す。この声は好きじゃねえ──そう思ったからだ。
だから言った。全てを打ち消さねばならぬと思ったからこそ、言った。
全てを終わりにする言葉を。
「てめえは何者だ。なぜ、俺たちの前に現れて──こんな真似をしやがった」
ごぼごぼと、またあの音と共に少女が言葉を発する。否、既にその姿は崩れかけ、あの可愛らしい顔も姿も、腐りかけた死人のそれと化している。思い出の中の少女の姿を思い出さぬよう、小十郎は自分を制していた。
「しあわ、せ」
魔物だ。小十郎は断じた。その声は人間のものではなく、聞く者に恐怖を与えようとする魔物の声だった。
「しあ、わせ、だった、のに」
音もなく吉の手が動く。小十郎の腰の大脇差に手を伸ばしていた。小十郎は刀を手にしたまま動かず、妻の好きにさせておく。
魔物が絶叫した。
「──喰ろう、て、やろと、喰ろう、てェェ!」
風景が歪み、瞬く間に崩壊して行く。腐りかけた魔物は咆哮を繰り返し、咆哮のたびに崩壊は進む。風景の中の人々は崩れ、血を吐き、腐り落ち、絶叫を上げ、小十郎と吉に怨嗟を呻きを吐いて倒れては息絶えて行く。
その風景の中に小十郎は見た。
見てしまった。
夢の名残だと分かっていても、見てしまった。
父が。母が。姉が。
輝宗が。
政宗が。
腐り、崩れて──
それは瞬時だった。
怒りではなかった。嘆きでもなかった。
それでも思ったのだ。

──殺して、やる。

自分よりも早く吉が動いていた。
小十郎が初めて見る吉の剣筋は見事なものだった。
夫の腰から抜いた大脇差を逆手に握り、ただ一刀で魔物の急所を斬り付ける。
同時に小十郎は動き、それこそ妻が初めて見る真剣の剣筋で、絶叫する魔物を上段からの袈裟斬りで葬っていた。
手に伝わった感触は確かに人間の肉だった。だが、どこか偽物ではないかと思えるような軽さだ。返り血を浴びることもない。魔物は斬られても血を噴き出していなかった。
魔物の断末魔が崩壊の景色に響き渡る。その向こうにはもう誰もいない。やがて景色も薄れ行く。
「あやかしよ」
何もかもが消え行く中、吉がこの上なく静かに告げた。
「よき眠りには、礼を申すわえ。あたたかかった」
魔物は塵となって霧散する。途端にまた強い目眩に襲われ、小十郎は舌打ちをしながらも吉に手を伸ばす。吉も同様の目眩に襲われたのか、足元をふらつかせながら手を伸ばした。




雨の音がする。酷い降りだ。
いやに寒い。身体が随分と冷えている。横たわっている場所が剥き出しの土の上だと気付き、小十郎は起き上がる。同時に全身に痛みが走り、思わず呻いた。
「おまえさま」
「ああ」
横にいた吉の声に返事をする。何があったんだ、と問うつもりはなかった。
──覚えている。全部。きっときつも覚えているんだろう。
「お怪我は」
「大丈夫だ」
全身が痛む理由も理解できている。
夢の中から戻り、夢を見る前の状態になっただけの話だ。相変わらず雨は土砂降りで打撲は痛み、吉の身体は冷えている。
「寒いだろう」
「申しても詮なし」
それきり、何とは無しに二人は黙る。
雨の音が酷い。
「……あれは」
吉がぽつりと言った。
「あれは、何だったのであろ」
「さあな。喰ってやろうと、なんて言ってやがったが」
「喰らうなら、はじめから喰ろうこともできように」
「さあな。──魔物の気持ちなんざ分からねえが」
大きな手で吉の髪を撫でる。濡れそぼった黒髪の感触で、本当の時間はまだそれほど流れていないのだと知った。
「大したもんだ。よくやった」
「……何が」
「俺より先によく斬った。情けねえ話だが、俺は──感情に流されかけたんでな」
怒りでも嘆きでもなかった。それは断言できる。だが確かに一瞬、殺意だけに流されかけた。全てを忘れてただ、目の前の存在を殺そうと思った。
それは恐れるべきことだ。
殺意だけで生きる者が、人で有り続けることなどできようはずがない。
「そうおっしゃるのなら、わらわとて。もう、腹が立って、立って」
「──何だって?」
「この我を随分と愚弄してくれたものよと。手打ちにしただけぞ」
思わず、妻をまじまじと見る。吉は本当に腹を立てた顔で眉をひそめ、忌々しい、と呟いた。
「……お前」
「何え」
「……いや、何でもねえ」
自分よりも冷静に立っていたかのように見えていた。その実、心の奥底に秘めていた夢を踏み躙られて腹を立てて──あまつさえ、魔物を手打ちとは。
堪え切れなかった。大した女だ。そう思うと堪えられなかった。
「いや、本当に。大した女だよ。──大した──はは……!」
笑い出した小十郎に驚き、次になぜか恥ずかしくなった吉は、なにゆえお笑いになるのと怒り、真っ赤な顔で夫を叩く。打撲に響いた小十郎は、痛えよ、と言いながら、笑いを収めることができなかった。
「──ああ」
思う存分笑った後、小十郎は息を吐く。不思議と穏やかな気持ちだった。
「面白かった」
それは偽りの無い言葉だった。面白かった。楽しかった。幸せだった。最初から夢なのだと分かっていた。それでもしばらくは夢の中にまどろんでいたかったのも確かだったのだ。同じように分かっている吉が現れた時、共に暫くまどろもうと決めた。
二度とない時間だ。
実現されるはずもない時間だ。
現実に戻った今、虚しくはない。自らに課した役目を生きる日々を望んで生きているのだから。
そうだ。
虚しくはない。
虚しいなどと思ってはならない。
それでも考えてしまう。
このまま雨がやんで──利家たちが探しに来る前に。
口に出すことはない。出したところで妻は喜びはしない。
それでも考えるのだ。情けないものだと自分でも思う。互いに役目を生きる日々に誇りを抱いているはずなのに。
このまま雨がやんで、利家たちが探しに来る前に、妻を奥州へ連れて帰ってしまいたい。
吉を見る。
妻は降りしきる雨を眺めていた。その心は既に迎えを待っているようだ、と小十郎は思う。背負う役目を考えれば当然のことだ。
だが、不意に吉が言った。
「奥州に」
誰かに聞かれることを怯えるかのように、細く、小さな声だった。
「藤の、花は。あるの」
「……あるさ」
いつか迎えに行くと約束した時の、あの花だ。
「安土より、咲く時期は少し遅いがな。見てえなら、俺の家にも藤棚を作ろうか」
約束をしながらも、本当はかなわぬと知っている約束の花だ。
今見た夢のように、潰えると分かっている約束の証。
雨が酷い。
寒気も酷い。
小十郎は言った。
「見てえか」
奥州の藤が、見たいのか。
吉は小十郎を見る。だが問いに答えはしなかった。だから小十郎は言う。
「奥州の藤が見たければ、雨がやんだら」

雨がやんだら、
俺と──

「俺と、帰るか」

奥州へ。俺と帰るか。
何もかも捨てて、帰るのなら。

吉の表情が揺れる。泣きそうと言ってもよかった。小十郎は後悔した。泣きそうにさせたことを悔やむのではない。
決して出来ぬことを言った自分を愚かに思い、悔やんだ。
「ああ──もう、もう!」
突然、吉が大声を上げた。いかにもわざとらしい、呆れた振りの声だった。
「おまえさまはもう、そう、無理をおっしゃって! これでは仔竜を制し切れぬと思われるわえ!」
「──お前、何てことを言いやがる!」
小十郎も呆れた振りの声を返す。妻が自らの中に生まれたひとつの感情を隠そうとする瞬間を見てしまったからだ。隠させてやらなければならない。そう思った。そして自らの愚かさに吐き気がしそうだった。
「これより先、先よ。伊達が織田によう仕え、織田が日の本の道を真の意で均せば、なーんも! 障りなぞないではないの!」
「今は政治の立場抜きで言うが、伊達を侮りすぎだ! うちが今どれだけ勢い付いてんのか分かってねえわけじゃねえだろう!」
「勢いと暴走は異なるわえ! 均した道が引っ繰り返されるわ!」
「お前なあ……!」
言い合いながらも遂に小十郎は笑い出す。妻が笑わせてくれたのだと分かっていた。甘えることにした。吉もそのうちに笑い出す。
ひとしきり笑った後、吉が勢いよく小十郎に抱き着いた。ふざけたわけではないということは、しがみつく強さで分かる。小十郎は無言で強く抱き締め返すしかできない。
このまま。雨がやんだら。
そう考えることは、もう許されはしない。
いつか、このまま──伊達と織田がぶつからないと言い切ることはできない。政宗が天下を目指す以上、その最大の障壁となるのは他ならぬ織田だ。
──俺はその時、平気な顔をするだろう。平気な顔で織田に、妻に対峙するだろう。
それができる。そう思っていた。
伊達のために。
政宗のために。
それができる。それが役目だ。そう信じたかった。
信じたい自分がいた。
そして妻は当然のように伊達を潰しにかかるだろう。
そこに夫がいようとも。それが分かっていた。
織田のために。
日の本のために。

互いの役目のために、今日、互いが気付かなかった夢を、捨てた。

吉が僅かに身動く。
「どうした」
「……声」
「え?」
聞こえるのは雨の音ばかりだ。だが吉が言うからには何かあったはず、と小十郎は耳を澄ませる。
しばらくしてからその声を拾い、感嘆の息を吐いた。
「この雨の中、崖を降りて来たってことか」
「そうとしか思えぬけれど」
「お前は嫌がるかもしれねえが」
「ん」
「お前の犬は、伊達男に相応しいな」
「ま、それでもよいわえ」
素っ気なく答える吉は、だが嬉しそうだ。そうだな、と小十郎は思う。
そうだな。──こんな奴を抱えるお前が、今、奥州へ来るなんて。
できるはずがねえ。
「ひい様──ひい様、返事して下さい! 犬がここにおります!」
思ったより近い場所で聞こえる。雨に掻き消えぬほどに吉を呼ぶ声は必死で、聞くだけで利家の忠義を知らしめるには充分だった。
そして小十郎は驚く。聞こえたのは利家の声だけではなかった。
「小十郎様! どこですか! 小十郎様!」
騎馬隊の青年たちだ。馬鹿、と思わず呟く。足を滑らせれば転がり落ちる崖を、利家と同じように危険を冒して降りて探しに来たのだ。
「奥州」
吉が息を吐いた。
「侮れぬわ」
「言ってろ」
同時に笑う。
どちらからともなく唇を合わせ、互いに強く抱き締め合った。
先に立ち上がったのは吉だった。雨が降り込む穴倉の入口に歩き、濡れることを気にせずに外を見る。
それから息を吸い、声を上げた。
「此処よ、此処。──右目も共ぞ、早う参りや!」
さようなら。またいつか。小十郎にはそう聞こえた。


吉の健康を案じた利家は雨がやむ時を待つよりも先を急ぎ、暖かい場所で休ませた方がいいと判断し、素早く隊列を整えて出立した。無論小十郎への手厚い礼の言葉は忘れず、安土に戻り次第、奥州に礼書をしたためると言い残した。
彼の余りの手際のよさに、小十郎は吉と最後に儀礼上の言葉を交わすこともできなかった。しかし利家の悪意ではなく、吉を案ずるあまりだということはよく分かった。
「いやあ、本当に良かったっすよ」
近場に宿営地を作り、雨を避けて暖を取りながら騎馬隊の青年がぼやく。小十郎は今更打撲が酷く痛み、青年が用意してくれた薬湯を飲みながら「何だ」と言った。
「探す前に、この辺りの地形に詳しい村の人を呼んだんすけど。それが、変な話をしたもんだから」
「どんな話だ」
「この土地のあやかしの類っす。何でもね、人を喰らうんですけど」
「……人を」
あの魔物は叫んでいた。
喰ろうてやろうと。
「その人を幸せな気持ちにさせて、幸せなまま喰らうそうで。その時が一番美味いから、って」
そりゃあ嫌だな、とんでもねえな、と青年たちは口々に言い合った。小十郎は黙っている。
「記憶の中で一番大事な人たちに化けて、優しく、楽しくさせるんですって。もしかしたら喰われたことにも気が付かないで死ぬかもしれないっすよねえ」
「一番大事な?」
「まあ──親とか、初恋の女とか? そんなんですかねえ」
初恋か、と小十郎は呟き、それから苦笑した。
初恋だ。間違いない。
あの少女に恋をした、幼い自分を思い出す。
「ところで小十郎様」
「何だ」
「その、──魔王さんと、何もなかったっすよね?」
好奇心を抑え切れない青年の問いだ。目くじらを立てるものではない。
だから小十郎は微笑み、青年の頭に思い切り拳骨を落としてやった。
初恋か──では、と思った。
──もしかするとあいつの前には、あの娘じゃねえ誰かが立っていたのかもしれねえな。


土地のあやかしの話を聞いた吉は「ふうん」と答えた。普段なら嫌がるはずの吉の何気ない様子に、利家はつい首を傾げる。
「まあ、そんな話を聞いたものですから。犬も騎馬隊も焦ってしまって、だから急いだんですよ」
「崖から転がり落ちて皆が死なずで、まァ、よかったわえ」
「ひい様に何かあったら困るからですよ!」
「犬に何ぞあったら、犬が嫁御にわらわが成敗されるところであった。ああ、恐ろし」
「まつはそんなことしません」
「ふうん。そのあやかし、その者のもっともいとしき者の姿になると言うではないの」
明らかにからかう口調で吉は言う。
「では犬があやかしにかかったら、嫁御が出るのであろう、ナ。他は許されぬであろ?」
「それはもちろんです、けど、でも」
もし出なかったらどうしよう──利家は不意にそんな不安に襲われる。謂われない動揺に苛まれる利家を見、吉は笑った。
「でも、ひい様。初恋の人かもしれないじゃないですか」
「初恋」
「嫁とはまた、違うところにいるものです」
「──ふうん?」
扇子を弄びながら、吉は肩を竦める。
まだ幼い頃、天下などと言うものを知らなかった時分、出会った少年を思い出す。
初恋と言うのなら、あれがそうだったのだろう。
奥州から来たという、少年と青年の狭間にいる剣士。
初恋。
では、と思った。
──旦那様の前には、あの、奥州の剣士ではない誰ぞが立っていたやも知れぬ。
最初から最後まで、現れたのはあの奥州の彼だった。小十郎は知ることがないが、吉の前にあの少女は一度も現れなかったのだ。
「あやかし、ナ。逢わぬが吉よ。──あァ、いや、いや」
いつの間にか雨の音が弱くなっている。
明日には晴れるだろう。晴れればいい。
全てを記憶の中に封じ込め、ただそれだけを願うことにした。