01:すきです
「何だと」
旦那が驚いて俺を振り返る。
本っ当に驚いた、って顔で、俺の方がびびっちまうくらいだ。
俺としちゃ、ちょっと酒を飲み過ぎて、歯止めが利かなくなった自分に驚いている。
やべえな、でもいいのかな、どうしよう。
「佐助」
旦那が言う。俺は阿呆のように、旦那の言葉を待つしかできない。
「俺は隙だらけだったか! それは恥ずかしい!」
「だ、旦那?」
「いくら酒を飲んだとはいえ、武人たるもの常に隙無く生きねばならぬ。──佐助、付き合え、道場へ行くぞ!」
「ちょっと、旦那!」
こういうとこが好き、こういうとこも好きなんだけど、たまに見せた俺の隙にも気づかない、それが俺のすきなひとです。
02:あなたといると月が綺麗ですね
信長公は振り返りもしない。それでいいのです、と私は心から微笑みたくなってしまう。
ああ、こんなに綺麗な月はあなたとしか見られないのです。
信長公。
月夜の中に燻る焔、場を支配するのは血のにおい。
信長公、月が綺麗です。
血に塗れ、戦乱の道を歩むあなたが美しいからこそ、月も美しいのです。
私はこれほど美しい月を、あなたなしでは見られない。
03:だいすきです
「佐助!」
「だ、旦那……!」
もう俺は予想した。いいんだ。これでいいんだ。
俺の隙なんか気づかれない方がいいに決まってる。
「それほど大きな隙があったか! 恥ずかしい!」
「分かったよ! 道場行こう! 俺付き合うよ!」
他のことで付き合って欲しいけど、ね!
04:僕は君と幸せになりたいんだ
きつからの手紙を読み返し、我ながら丁寧に折り畳んで仕舞う。
俺が死んだらこの手紙、全部始末してもらわねえとな。
結構な数だ、無粋な誰かに恋仲と勘違いされてもおかしくねえし。
俺は別に、きつに惚れてるってわけじゃねえ。
「晴久様、毛利の動きが」
「ああ、またかよ。誰かあいつ殺せよ」
惚れたり腫れたり忍ぶ恋より、俺はやらなきゃいけねえことがある。
『二人で幸せになる』。
そんなのは夢だ。
砂と風の無何有に、とっくに埋めた。
05:愛しています
「あいし? て?」
真田の野郎、意味が分かってねえな。
これだから武田ってのは駄目なんだ。
「I love youって意味だ。分かんねえのか?」
「政宗殿のように南蛮語を操れれば、分かるやもしれぬ」
「ま、俺ほど分かる奴もそんなにいねえか。この訳もあまり使う言葉じゃねえしな」
「全くもって。──ああ、お館様ならご存知だろうか」
「え」
「お訊きして参る! ──お館様、それがし、只今政宗殿に──」
「wait! 待て! オッサンにだけは言うなって!」
俺の必死の告白だったってのに、ほんとこいつは容赦がねえ!
06:あなたのためなら死んでもいいわ
小十郎の背は動かなかった。
吉も動きはしない。
「きつ」
「はい」
「俺は、お前のためには死ねねえ」
そこは許せよ、と夫が言う。
はい、と妻は返事をする。
妻は夫には見えぬ背後で、深い笑みを浮かべた。
07:隣にいてもいいですか
「あれ、おかし」
吉がくすくすと笑う。先の問答の後、夫が自分の機嫌を覗っていることが分かったからだ。
「死ぬまでおって下さらねば、わらわが困るわ」
「いや、まあ、なあ」
女はただ、嬉しくて笑う。
「お座りあそばし。茶を淹れよ」
自分の隣をぺしぺしと指で叩く。
こういうことに無骨な夫は精一杯難しい顔を作り、それでも言われた通りに隣に座る。
08:君と一緒にいたい
すきもだいすきも本当は分かっている。
でもそれを認めてしまうと、俺と佐助の関係が変わってしまう。
変わった先にあるかもしれない、色恋には疎い俺でも分かる哀しい結末。
それなら分からないままで。
道が分かたれるくらいなら、俺は分からないままで。
09:あなたが私のすべてです
殺した。
たくさん。
殺した。
相当。
殺した。
いちいち覚えてない。
全部ぜんぶ、旦那のため。
武田じゃない。
真田じゃない。
旦那のため。
10:僕のものにしたいよ、きみの過去も未来も心も
「……情熱的でいらっしゃいますな、政宗様」
「小十郎」
「はい」
「そーゆー相手、見つけてもさ」
そうもいかねえってのが辛いねえ。
俺がそう言うと小十郎は少し黙り、やがて小さな声で言った。
ガキだった俺を宥めた時と同じ声で。
「政宗様にそう思う者も、いつか現れましょう」
そういうの、いらねえ。
俺はあいつだけが欲しい。
でも小十郎が全て分かっていて、俺が諦める日を待ってるってこともよく分かってるから、俺はこれ以上、我儘が言えなかった。