flower for albion




北の出身という点では同じだ。世間に話すんだったら、俺と白猟屋は同じ地方の出身ってことになる。でも北も細かく分ければ色々あるのは当然で、そうなると、俺たちの故郷は相当の距離がある。
俺は白猟屋に自分から故郷の話をしたことはない。訊かれたこともない。でも、何となくお互いが北の出身ってことは知ってるわけで、もしかしたら酔っぱらった時にでも言ったのかもしれない。
出身地が離れていれば、生活の中の習慣や物の見方も違うもんだ。たまにそれでぶつかったり(主にメシのことかな)することもあるんだが、大体はお互いにふうん、そんなもんか、面白いな、って言って終わる。
些細なことの違いを見つけて話をするのは楽しい。どうしても埋められない溝を見つけた時は苦笑いだ。
その日も、そんな溝を見つけたのかもしれない。でも俺としちゃ、まあそんなもん、いつも通りに苦笑いで終わるだろうさ、って思ってた。
きっと白猟屋もそうだったんだと思う。
でも、何だか、今日ばっかりはそれができないんじゃないかって、その時の白猟屋を見て、思った。
他愛ないことだった。散歩をしていて、道端にクローバーの群生を見つけた。ふうん、って白猟屋が足を止めたから、俺はちょっとばっかりからかおうとして、何だよ、と言った。
「何だよ、女子供じゃあるまいし、四つ葉のクローバーでも探すのか。手伝ってやろうか」
すると白猟屋は俺を見て、そう、いつもより少しばっかりゆっくり、そしてまじまじと俺を見て、それからまたクローバーの群生を見た。
「手伝ってくれるのか」
「? まあ、どうしても欲しいってんなら」
「そうか」
スモーカーが喉の奥で笑った。そんな笑い方は見たことがなくて、はっきり言って俺はかなり驚いたし、俺は何かまずいことを言ったのかと思った。まずいことって思ったのは、つまり、その笑い方がまるで何かを嘲笑するようなものだったからだ。白猟屋は誰かを嘲って笑うことはない。少なくとも俺は知らない。俺に向けられた笑い方ではなかったけど、それでも俺は焦った。見たくないものを見た気がした。
焦りを解消したくて、ああ、だからさあ、と何とか言葉を捻り出す。
「だからさあ」
「うん?」
「だから、幸せの象徴って言うし、そんなもん欲しがるのなんて、女子供しかいねえだろ」
「幸せの……?」
「そうだろ」
「え?」
白猟屋はまた俺をまじまじと見たが、今度はさっきのようなものじゃなくて、それで俺は、俺たちの間に何かのすれ違いがあったんだってことがやっと分かった。
情けないけど安心した。
俺を見た白猟屋が笑ったからだ。
いつもの、俺を可愛がる笑い方で。
「そうか」
「何だよ」
「いや、俺の勘違いだ。悪かった」
「何がだよ」
悪かった、悪かったと繰り返しながら白猟屋は笑っている。何だよ、と俺が我ながら憮然とした声で言うと、やっと説明してくれた。
「俺の地方じゃ、不幸を相手に押しつけるまじないなんだよ」
探して、嫌いな奴にくれてやるんだ。
そう言った白猟屋は本当に楽しそうで、そしてどこか嬉しそうで、俺は拍子抜けっていうか、でもどこかで、拭いきれない焦燥感があることを否定できなかった。
手伝ってくれるのか、って言った時の白猟屋を思い出すと、どうしてもその感覚が拭えない。
知った今、同じことを言われたとしても、まさか、ふざけんなよ、っていつもの俺の調子で言えないかもしれないって思ったから、だから焦る。
何だろう。そうじゃねえ、って思った。いや、白猟屋が言ってることがおかしいとかそんなんじゃねえけど、でも、そうじゃねえ、って思ったんだ。考える。俺は何を言いたいんだろう。また焦る。焦って、それでも気づいた。白猟屋が俺の言葉を待っていてくれている。安心する。こいつはいつも俺が言葉を探し出すまで、じっと待ってくれていることを思い出せた。
「やっぱ、手伝わねえ」
「そうか」
白猟屋が微笑む。俺が好きな、あからさまに年下の恋人を甘やかすだけの笑い方だった。いつもの俺なら、嬉しくて、でも照れて、真っ赤になってただろう。
「そうだな、そんな物騒なまじない、一人でやるのが一番だ」
「そうじゃなくって、二人でいい」
今はそうじゃなかった。この笑い方に満足して、話を終わりにしたくなかった。
伝えたいことができたし、それから、自惚れかもしれねえけど、伝えたら喜ぶんじゃねえかな、って思ったからだ。
「俺が探す時にお前が手伝えよ。どうせ二人なら」

どうせ二人なら、
物騒なまじないの道具を探すより、
幸せを探した方がましだろう。

白猟屋が俺をじっと見た。
俺も白猟屋を、いつの間にか俺の中で誰よりもいとしい存在になっていた男を見た。
それから、俺は盛大に真っ赤に、多分頭のてっぺんまで真っ赤になった。
今日は赤くならねえって思ったのに、うまくできたと思ったのに、何てこった。
仕方ねえだろう、これは仕方ねえんだ。
「そうか」
仕方ねえだろう。
これは、こんな。
「嬉しいよ」
こいつが俺にくれる言葉で二番目に好きな言葉を、本当に、心の底からお前を愛しているよ、なんて教えてくれる笑い方で言われりゃ、それはもう、仕方ないって言うしかねえだろう。
だからたまには俺も言うことにした。言うのにはかなり精神力が必要な言葉だが、俺の中にある真実を伝えるには一番適していて、そして、白猟屋が俺にくれる言葉の中で、俺が一番好きな言葉だ。
馬鹿みたいに難しい顔でそれを言ったら、白猟屋はまた笑って、同じ言葉をくれた。
「俺もだよ。愛してる」
それから帽子の上からキスをされて、俺はまんまともっと嬉しくなって、いとしくなって、でもまた同じ言葉を言うのは俺にとってかなり大変なことなので、いささか楽な方を選んだ。
「白猟屋」
「うん」
「やらせろ」
白猟屋が笑って、帰ったらな、と言った。
俺はそれがひどく嬉しくて、一緒に笑った。
これからクローバーを見るたびに、きっとそれが皆が探したがる幸運の、あるいはなにかのまじないのものではなくても、俺はどうしようもなく好きな奴のことを思い出すんだろうと思うと、ひどく嬉しかった。