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あら、ハートの坊や、ごきげんよう。
残念ね、スモーカーくんに会えなかったでしょ? 今日は夕方まで視察に出てるんですって。だから代わりに私がいるわけ。そうでもなきゃ、七武海が集まる日の警備担当なんて面倒なこと、私がするはずないでしょうに。ヒナ面倒。
何かしら、その嫌そうな顔。私に何か文句でもあって? ないの? そう、それなら結構よ。言いたいことは何でも言えってスモーカーくんに言われてるでしょうし。
ええそうよ、彼は恋人にいつもそう言うの。何で私が知ってるかって? 同期だからよ。
同期だからっておかしいって? あらそう? 別にそうは思わないけど。私とスモーカーくんの関係よ、放っておいて頂戴。
……分かったわ、言い過ぎたわ。今のは私が悪かったわ。ヒナ反省。だからそんな泣きそうな顔をしないで頂戴。誰が泣きそうって、キミよ。他に誰がいるのよ、豆大福ちゃん。あのね、怒る振りして誤魔化すのはおよしないさいね。
はいはい、私が悪かったわ、とっても反省しているわ。ヒナ反省、本当よ。
だからね、20年も付き合いがあればお互いの恋愛遍歴なんてみーんな知ってるのよ。それなりに好みも分かるのよ。キミはスモーカーくんの好みのど真ん中よ。ヒナ保証。
好み? 知りたいの? あら、知りたくないの? ……知りたいなら最初からそうおっしゃいなさいな、面倒な坊やね。はいはい、いちいち怒る振りはおやめなさい。
スモーカーくんの好みは一貫してるわよ。結構美形で鼻っ柱が強いくせに、恋人に嫌われたくなくって、恋人にだけは本音を中々言えない年下が大好きなの。付き合う相手はほとんどそんなタイプ。
ふうん、って、ねえ、分かってるの? キミのことよ。違う? そう? あら、そうなの? 意外だわ、ヒナ意外。
ああ、分かったわ、分かったわよ、もう言わないわ。そんなに真っ赤になるなんて思わなかったんだもの。ごめんあそばせ。
……何よ。私とスモーカーくんの関係性が気に入らないの? 知りすぎてるって? 仕方ないでしょう、これが私とスモーカーくんなんですもの。
キミは嫉妬が過ぎる、……とは言わないわ。多分、私とスモーカーくんはおかしい距離だってうのは本当は分かってる。ヒナ理解。
でもね、恋をしたわけじゃないわ。愛してるわけでもないわ。
でも、そうね、キミの前で言うのは憚られるけど、って一応断っておいてあげるわ。全然そんなこと思ってないけど、ヒナ優しい。
命についてどう思う? 私たちはわざと考えないようにする時があるけど、本当は考えなきゃいけないことよ。
私たち、考えたことがあるの。それこそ最前線で、私もスモーカーくんもまだずっと子供で、指揮権なんてまったくなくて、……とにかく、いつ死んでもおかしくない時だったのよ。
私も、もういっそ死ぬのを覚悟で特攻しようかと思った。馬鹿みたいでしょう? でもその時は本気だったのよ。極限すぎて冷静な判断ができなかったんだわ。
でも、そんな時にね、スモーカーくん、彼、いきなり言ったの。そうね、今と変わらないわね、ほら、晩飯は何を食いたい? って訊かれたことはない? もうあのままの言い方よ。彼はずっと冷静だったのね。
それでね、彼、言ったのよ。命は大切だし、捨てるもんでもねえけど、俺のもんじゃねえから捨てるなとは言えねえよ、って。
そうね。それで、言ったの。
言えねえけど、でも、俺はお前が大切だよ、って。彼、言ったのよ。
それだけで、私、無駄な死に方はしないって思ったし、スモーカーくんにも無駄な死に方はして欲しくなくて、だから言ったの。私もスモーカーくんが大切よ、って。
彼に恋をしたわけでも、愛しているわけでもないけれど、でも、大切っていうことは今でも変わらないし、そんなこと口に出して言わなくたって、彼も私も分かり合えてると思ってるわ。
分かり合えてるって言うより、分かち合ってるって言えばいいのかしら。
私と彼は人生を分かち合っているの。
……あら、つまらない。嫌がるかと思ったのに。キミが嫉妬する顔、すごく好きなのに普通の顔しちゃって、残念。ヒナ残念。
ふうん。
キミ、やっぱりスモーカーくんの彼氏なのね。ヒナ納得。
分かった振りくらいはできるのね。そうね、そうでなくっちゃ、今までの相手になかったくらい、スモーカーくんがのめり込んでる理由がないわ。
あら、嫌ね、こんなことでも赤くなるの? 
もう、キミ、子供過ぎるわ。
これじゃあスモーカーくんも、可愛くて可愛くて仕方ないんでしょうね。
ああもう、また赤くなって!
キミ、もっと恋愛経験を積むべきよ! ヒナうんざり!