No Way

 午後3時、起きたら雪が降っていた。キリコのベッドでうたた寝をしていたわたしは、窓の外がすっかり雪景色になっていることに驚く。そこまで積もる雪ではなさそうだったけど、関東ではあまり見ない天気だ。
 ──キリコ、帰って来られるかな。
 早速雪化粧に覆われた庭を見降ろしながら溜息をついた。
 今日はキリコがワシントンから帰って来る日だ。明日の夜まで二人で過ごす予定だけど、どうなるだろう。そろそろ飛行機が成田に着く頃だけど、雪で空港からの交通機関が乱れる可能性もある。少し遅くなることは覚悟しておこう。
 もう一度キリコのベッドに潜り込む。誰にも言えないけど、好きなことのひとつ。キリコのにおいがするこの場所は、寂しい時に、でもピノコには見せられない寂しさの時に潜り込むと安心できる。特にこの季節は毛布の感触があたたかくて、まるでキリコに抱かれている気分になれた。
 眠る気はなかったんだけど、溜まってた日常の疲労が眠気を呼んで来た。昼過ぎにこの家に着いてからずっとここで寝てる。
 ベストとリボンタイ、ボトムは最初にベッドへ潜り込む時に脱ぎ捨てていた。ブラウスも脱いでも良かったんだけど、肌寒かったのでやめた。どうせ夜に洗濯をして明日アイロンをする予定だから、皺だらけになっても構わない。
 夕飯はどうしようかな、雪だし今のうちにデリバリーを頼んでおこうかな──考えながらも睡魔に勝てない。自分でも分かるほど呆気なく睡魔に負けて、再び本格的に眠り始めてしまった。
 わたしはダメな女だなあ、と夢の中で、これは夢だと分かりながら思う。もうすぐ現実でキリコに会えるのに、夢にまで出てくるとは。しかもあの死神の姿ではなくて、身内にしか見せないラフな服装で、気取らずに抱き寄せてキスをしてくれる恋人の姿で。
 キスをしてくれるキリコの指はいつの間にかわたしのリボンタイを外していて、次の瞬間にはベストとブラウスのボタンもすっかり役目を解任されている。現実なら恥ずかしくて口だけでも抵抗するところだけど、夢の中ならある意味で図々しくなれる。されるがままになっていると、器用に全部脱がされていた。
 夢だって分かってるのに肌をなぞる指も唇も熱くて、ううん、きっとわたしの肌の方が熱くて、夢の中でも、夢の中だからこそ遠慮なく声が出る。可愛いってたくさん言ってくれるキリコの声も夢のものなのに、現実と同じ嬉しさをくれる。それくらいキリコのことを覚えてるんだ。
 乳首をきゅっと摘まみ上げられると少し痛いけど、それはきもちいい刺激で、キリコはこういうのが上手い。痛みときもちよさのぎりぎりを指先でコントロールしてくれる。されればされるほど身体が熱くなって、声が止まらない。可愛い、俺の、って、何よりも嬉しい言葉をくれて、すごく濡れてるところに触って欲しいと思うと、いつもそのタイミングで触ってくれる。わたしのことなら何でも知ってる。
 もっとして、もっと──キリコに入って欲しくてねだるなんて、普段はよっぽど高まらないとあんまり言えないのに、夢の中のわたしはいとも簡単に口にしていた。
 そこで目が覚めた。
 電気を点けたままの寝室の中、ちょっと茫然と天井を見上げる。うん、夢なのは知ってたけど、これってあんまりだ。一気に恥ずかしくなって毛布に潜り込む。あんまりだ、恥ずかしい。誰もいないけど凄く、すごく恥ずかしい。
 動いた途端にまた恥ずかしくなった。すごく濡れてた。夢を見ただけでこんなになる? ああもう、恥ずかしくって、もう。
 ……恥ずかしい、けど、でも、まだ。
 まだ、はっきり言っちゃうと、すごくうずうずしてて。
 誰もいないし、キリコだってまだ帰って来てないし。ちょっとだけ、って。指を延ばした。
 下着越しに触っただけだったのにすごく濡れててびっくりした。びっくりして身動きした途端に下着が擦れて、夢の中でもとっくに充血してた芽に飛び上がるくらいの刺激があって、自分でも信じられないくらいに身体がびくっと震えた。どうしよう、──どうしよう、きもちいい。
 でも直接触る勇気がなくて、下着の上からくいっと押す。それだけでまだびくっとする。
 繰り返すたびに身体が震えて、それから、そのうち、触ってもないのに乳首までじんじんし始めて、ああ、いつもキリコはどっちも触りながらしてくれるから、身体が覚えてるんだって恥ずかしくなる。恥ずかしいのに空いた手でブラウスと下着の上から乳首に触ると、またびくっと飛び上がった。声が漏れそうで唇を噛んだ。夢の中ではあんなに喘いでたのに。
 ブラウスのボタンを外してみる。自分の服なのにキリコみたいに上手にできない。何とか前をはだけて、でも下着の金具に手を回す余裕がなくって、前の隙間から手を入れてじかに乳首を触った。
「──あ……っ!」
 その途端に声が抑えられなくなって、誰もいない寝室に響いたことが分かってまた恥ずかしい。でも手を止められない。だってきもちいい。
 キリコがしてくれるみたいに触ったり、つまんだりして、濡れた芽がもっと疼くからそっちも触ってみるけど、きもちいいのは確かなんだけど、そっちは怖くてしっかり触れない。でも芽も乳首も痛いくらい疼いて、おなかの中もきゅうきゅううねり始めて、どうしたらいいか分からなくなる。
「あ、──ぅ、ん……っ」
 どうしたらいいか分からなくてもどかしくて、それから全身が熱くなっちゃって、毛布が邪魔で跳ねのけた。途端にひんやりした部屋の空気に肌を撫でられたけど、それもきもちいいくらい。冷えた空気まで刺激になって、乳首がまた疼いた。何なのこれ。わたし、こんなにいやらしかったんだろうか。
 毛布から出たら急に何がどうでもよくなっちゃって、夢中で、もう夢中で胸をいじって、下着の中に指をもぐらせて、ぴちゃぴちゃいやらしい音がするくらい触る。でもキリコが触ってくれるみたいにはまだ怖くて触れなくて、芽は相変わらず、ううん、もっとじんじん疼いていくだけ。
「ぁ、──あ、……んん……っ!」
 思い切ってぐっと指で押してみたら、それだけで腰が砕けちゃいそうで、おなかがずんって重くなって、耐えられなくて身体を丸めた。でも足りなくてまたおんなじことをして、変な泣き声になって恥ずかしい。
「ん、ぅ、──あぁ……っ、ん……」
 半端な刺激ばっかりで、でもどんどん濡れて、乳首はもう痛いくらいかたくなってる。
「──あぁぁっ!」
 そこもすごくじんじんするから濡れた指できゅうって摘まんだら、自分じゃコントロールできない熱が上がって来て、今までの中でいちばん大きく身体が跳ねた。
「ぁ、……う……ん」
 いったけど、いってない。そんな感じ。キリコがわたしにいたずらしたい時によくやらされるいきかたで、いったのにまだ足りない、そんな感じの。これ、何回もされた時は疲れて疲れて、最後は声も出なくなっちゃう時があるくらいなのに、でももっと大きく、おなかの底からいきたいって、全身が痺れるようなあのいきかたがしたくなる、すごく厄介なやつ。
 もうだめ、って、何がだめなのかよく分かんないけど、両手を濡れた下着の中に入れた。もう脱いじゃえばいいくらいびしょびしょだったけど、そこが部屋の空気に触るのが何となく嫌で脱げなかった。
「うぅ、ん、──ん、ぁ!」
 濡れた指で芽をなぞると腰が跳ねる。身体はもっと丸まっちゃって、手の動きを制限しちゃっててちょっと皮肉だけど、でも快楽が強すぎて身体をまっすぐにしていられない。薄皮の上からなぞっただけでこれなのに、キリコがいっつもしてくる剥き出しの芽に触るなんて絶対真似できない。頭がおかしくなっちゃうし、キリコにされる時は死んじゃいそうになる。
 着けたままの下着が乳首を掠ってそれに声を上げて、またびしょ濡れのそこをなぞって悲鳴を上げて、もう、わたし、ひとりで何してるんだろう。キリコが帰って来ないからって。キリコのベッドで。
 おなかの中のうねりがたまらなくなりすぎて、もう我慢できなくって指を入れようとした。こんなの──ひとりでなんて今までしたことがなかったからうまくできないし、濡れた布地が邪魔で邪魔で、自分でも情けないくらい湿った息を荒く吐きながら脱いでしまった。
「ん──……っ」
 自分の指を飲み込んで、自分の指なのにおなかの中が嬉しそうにきゅんきゅんした。なのにそこまで指が届かなくって、すごくせつない疼きがおなかの中から全身に広がっていく。信じられない力で指を締め付けて、キリコがいっつも「きついよ」って笑うのが分かるような気がした。でも止められないし、ゆるくできない。もっともっとって、指を奥に入れたがってる。
「んく……っ……ふ……っ!」
 奥に奥にって入れようとしたら、びっくりするくらいにきもちいい場所があって、ああ、あそこだ、って思う前に腰に電流が走ったみたいにびくびく跳ねた。
「あ、ぁ、──あ──……っ!」
 夢中でそこで指を動かして、声がもう止まらなくって、とにかくきもちよくって、きもちよさがどんどん大きくなって行って、ああ、だめ、だめ、って自分でも訳が分からないくらいに喘ぎ始めちゃって、もう本当にどうしようってくらいそこはびしょ濡れで、──ああ、でも、って、急に思い出して、必死で指を止めた。その途端、いく寸前だった身体が解放しきれなかった熱をまたこもらせて内側から爆発させようとして、わたしは動物みたいに呻いてベッドの上で身を捩る。どうしようもなくて身体を抱いて丸まって、どうにか熱をやり過ごさなくちゃって必死で息を整えようとした。
 あのまましてたらいけたけど、でもあれはダメないきかただから。……あの、だからあれ、たぶん潮噴いちゃうやつだから……流石にキリコのベッドでそれはちょっと。
 でも身体が辛くてつらくて、息を零しながらベッドを転がる。ちょっと声も出るけどもう仕方ない。どうしよう。転がるたびに脚の間がぐちぐち鳴って、それからやっぱりおなかの中はすごく疼いてて。早く早く、って思うしかなかった。早く帰って来て欲しかった。
 自分でできそうだけどできないのってどうすればいいんだろう。こんなの誰にも聞けないし、……医学書には自分ですることの重要性は書いてあるけど、でも、細かいやり方まで書いてないし。
 訊くしかないのかな。でも恥ずかしいし。いや、絶対無理だし。
 キリコなら知ってるんだろうな、って。
 思った瞬間、またおなかの中も芽も乳首もぜんぶ、ぎゅうってうねった。やだ、もう、信じられない。キリコのこと考えただけなのにこんなになる?
 やだって思ったって現実は現実で、わたしはまた指を、手を身体に這わせる。自分でもいやらしいって感じるような声すら刺激になってしまって、もう声を抑える気にもなれない。
 上半身のブラウスと下着はすっかり着乱れて、それでもその布の感触もきもちよくって、指でこね回し続ける芽への刺激といっしょになって、入り込んだ指の間からあふれるいやらしい水音が止まらない。
「あ、ぁ、──やだ、──もう、きり、こ」
 こんなのただの妄想で、でも纏わりつくブラウスと下着がまるでキリコにちょっと抑えられてる時みたいな感覚に錯覚できそうで、でもいきそうでいけない、ベッドを汚しちゃうからいっちゃいけないっていう変な理性がまだあって、本当にもうどうしたらいいか分かんない。分かんなくってつらくって、でもきもちよくって涙が出て来た。
「きり、こ、もう、──もう、いきたい……」
「いいよ」
 一気に理性が光速で戻って来て、ひんやりした外気をまとったキリコがコート姿のままわたしを抑え付けて、なに、なに、って自分でも訳がわかんないくらい動揺してたら、入れてた指を外されて、冷たい指が入り込んで来て、わたしが自分じゃ届かなかったところまで一気に進んできて、そこでぐっと曲がった。
「──あぁぁ……っ!」
 そこだめ、って叫んだかもしれない。わたしはそのつもりだったけど、悲鳴になっちゃってたかもしれない。可愛い、ってキリコが冷たい空気をまとったままなのに熱のこもった声で言ってくれて、それからぐちゅぐちゅってすごい恥ずかしい音をさせながら指を動かして、わたしが好きなとこを掻き回してえぐって、もう、だめ、おなかの中がぎゅうぎゅう喜んで、喘ぐっていうより悲鳴みたいな声をほとばしらせて、わたしはひどい痙攣を起こしていた。
「あ、──ぁああ……っ!」
 あれだけ汚さないようにって我慢してたのに、粗相したみたいに潮を噴いて、それもショックなんだけど、キリコが目の前にいることが信じられなくて、何だかぶわっと感情が込み上げてきて、情けないけどわんわん泣き出してしまった。
 どうした、ってキリコが慌てて起こしてキスして、それから抱き締めてくれる。コートが冷たくて、つめたい、って言って身を捩ったら、一回離れてすぐ脱いで、ベッドの横にコートを投げ捨てて、もう一回抱き締め直してくれた。泣いてるわたしを宥めるように何度も髪にキスしてくれる。
 それでここにいるキリコが現実なんだって理解して、今度は物凄く恥ずかしくなる。見られたんだって。見られちゃったんだって。こんなの恥ずかしくって死にそう。だってキリコのベッドでひとりでこんなことしてて。どうしよう。呆れられたらどうしよう。
「クロオ」
 キリコがぎゅって強く抱き締めた後、びっくりするくらい熱くなった声でわたしに言う。
「帰って来たばっかりで悪いんだけど、抱かせて」
「……え」
「あんなの見せられたら無理、ごめん」
 あんなのって、あんなのって──また恥ずかしくなって顔から火を噴きそうになったわたしの世界がぐるっと反転する。天井が見えるはずのそこにキリコの顔があって、その顔が、その、びっくりするくらい、食べられちゃうんじゃないかって思うくらい、──余裕のない、おとこ、の、顔で。
 見た瞬間にじゅんって音がするんじゃないかってくらいあふれて、おなかの中が今までにないくらい疼いた。もう我慢できなかったのはわたしの方かもしれなかった。手を延ばして抱き付いてキスをする。噛み付くみたいなキス。いつもの優しいキスじゃなくって歯がぶつかっちゃうような乱暴な、でもこのひとわたしが欲しいんだ、って分からせてくれる、わたしもこのひとが欲しいんだって思えるキスは、またどんどん身体を熱くしていく。
 服も脱がないままキリコが脚の間に割り込んで来て、バックルを外すような音がしたと思った次の瞬間に、奥まで一気に入り込まれたわたしは悲鳴を上げていた。苦しい悲鳴なはずがなくって、きもちよくって、嬉しくって、もっと欲しくって悲鳴を上げた。
「ぁ、あ、ぁぁっ!」
「──可愛い。俺の」
 俺の、って何回も何回も。繰り返される言葉が嬉しくってきもちよくって、身体の奥の奥まで入り込んでは突き上げて来る熱も死んじゃうんじゃないかってくらいきもちいい。ひっきりなしに声を上げて、キリコが動くたびに響くいやらしい濡れた音も、わたしとキリコの身体がぶつかる音も、全部ぜんぶきもちよくってたまらない。すげえ締まる、たまらねえよ、っていつものキリコが言わないような言葉も信じられないくらいきもちいい。
 わたしの奥が降りてキリコを食べて、それがきもちよくてきもちよくて、キリコもきもちいいみたいだから幸せで、わたしは馬鹿みたいに喘ぎながら、それでも何度もキリコを呼んだ。キリコはそのたんびに返事をしてくれて、可愛い、愛してる、最高だよって、信じられないくらいに幸せな言葉を繰り返してくれた。
「あ、──ぁ、──あぁ!」
 大きすぎる波が来て、たまらずに、もう本当にたまらなくって、奥にぐっと押し付けられた瞬間に全部ぜんぶ弾けた。もしかしたらまた潮を噴いちゃったかもしれないけど、なんにも分からない。でもきっとそんなことになってても、ベッドがひどいことになっちゃっても、きっとキリコは怒らないっていうのは分かってる。
 きもちよすぎて出ちゃった涙をキリコが拭ってくれた。でもまだその目が、あのおとこのもので、わたしのおなかの中がまだぎゅうってうねる。その感覚のせいか、キリコが眉をひそめてからわたしに笑った。おとこの顔で笑った。
「可愛い。──ごめんね、俺、もうちょっとかかりそう」
 言いながら指をアスコットタイのノットにかけて、くいって緩めて、熱い息で、凶暴な獣のような目でわたしを見降ろして、ああ、なんてすてき、なんてセクシーなおとこなの。もうそれだけでわたしはまた濡れて、ぎゅって締め付けちゃって、きついよ、ってキリコは苦笑しながら呻く。それすらもすてきでセクシーでたまらない。
 こんなにすてきでセクシーなおとこがわたしの男だなんて信じられないくらい幸せで、手を延ばして、早くして、いっぱいして、って言った。


 するだけしてお互いに満足して、普段しないこととか、……まあ、珍しくわたしが口でしたりとか。したことがない体位とか。そういうのも躊躇いなくできちゃって、でも終わったらまた一気に恥ずかしくなる。枕に顔を押し付けて恥ずかしさに悶えていたら、キリコが笑いながらわたしを枕から奪って腕の中に入れた。
「帰って来たらあれだ。びっくりしたよ」
「言わないでよ……!」
「ごめん、でも可愛かったから。あんなの我慢できるかよ」
 帰国早々これでもかってくらいセックスした男は満足そうだし嬉しそう。それならいいかなって思えたし、あと、わたしも今までの中でトップクラスにきもちよかったからいいかなって。
 でもやっぱり恥ずかしい。だってああいうのって普通は見られちゃいけないやつでしょ。しかもそれを本人のベッドでしてるとか……ああ……心が……心が死にそう……
「無理、もうやだ、恥ずかしくて死にそう」
「え、何で。また見たい」
 しれっと爆弾発言をする男に唖然として、腕の中からぽかんと見上げてしまう。キリコは笑ってわたしにキスをした。
「おまえ以外がひとりでしてるところなんて興味ないけど、おまえのだったら何回でも見たい。自分でいけないなんて可愛くて心臓止まるかと思ったよ」
「すぐ心臓マッサージするけど──じゃなくて、もう、ほんと、恥ずかしいからやめて……」
 思い出すだけでまたしたくなっちゃうようなセックスだったけど、だからってもう言われたくない。とにかく恥ずかしくて恥ずかしくて、キリコの胸に顔を押し付けて、うう、って呻く。キリコがぎゅっと抱きしめて、可愛い、って言って髪にキスしてくれる。
「そう言えば」
「ん?」
「さっき何であんなに泣いたんだ。俺に見られたから?」
「……それもあるけど」
 それもあるけど。そう言ったらキリコは「そっか」って呟いて少し気まずい顔になった。やっとわたしが本当に恥ずかしいって理解できたか、このやろう。
 でもそんな気分はあっという間に吹っ飛んで、わたしは今だから言えることを言ってしまうことにした。もう少し時間が経ったら日常に戻って言いにくくなっちゃう話題だから、まだいつもよりきもちいいセックスをした後の余韻に浸れるうちに。
「キリコが」
「うん?」
「帰って来て、嬉しかったから」
「……ふうん?」
「夢でね」
「うん」
「……夢で、キリコとしてて、それで──その、したくなっちゃって……してたから」
「──神よ」
 出た、オーマイゴット。でもこれを言う時のキリコは本音の本音で「参りました、たまんねえ」って意思表示してるってことも知ってる。だから最近はこれを聞くと勝った気分になるし、嬉しい。何だか得意になって、うふふって笑って、キリコの胸に頭をぎゅうぎゅう押し付けた。キリコはぎゅうぎゅう抱き締め返してくれた。
「おなかすいた」
「俺も。何もないんだよな。パスタと粉チーズくらいしか」
「充分。明日はちょっと贅沢したいけど」
「そうだな。雪が降るなんて予想外だ、まったく」
 結局いつも通りの会話が始まる。いつも通りに話をして、いつも通りに一緒にだらしなく食事をして、いつも通りに何回もキスをする、いつも通りの夜だ。
 でも、……でももしかして、ううん、絶対もしかしなくても、キリコの中では今日みたいな、つまり、わたしにひとりえっちさせるのを日常に組み込むことが決定してるんじゃないかって、そんなことを考えちゃう程度には、キリコの機嫌がよくって。
 機嫌のいいキリコのことは好き。かっこいいし優しいし。大好き。
 でも、……でも、これは。
 これはなあ。流石に嫌だな。
 よし、はっきり言っておかなきゃ。もうしないし、あの、もし、もしまたひとりでしてても絶対見ないで、って。
「マフィン、やっぱりさ」
 話しかけようとした時に、キリコがわたしを呼んだ。
 そしてわたしが大好きな、優しい微笑をくれた。
「また見せてね」
 何を言えばいいのか。惚れた弱みとか、そういう。
 でもだからって、ハイいいですよって答えるのも何だか悔しくって、我ながら真っ赤になって返事した。
「見たら、してくれないと嫌。いっぱいして」
 キリコがまじまじとわたしを見てから、天井の向こうの空を見上げて、オーマイゴットって呟いて、わたしをぎゅうっと抱き締めて、今日何回目かもう分からないキスをくれた。