ハッピーデイズ、ハッピーホーム

 酷い喧嘩をした。本当に酷い喧嘩。そこまでの喧嘩の原因はやっぱり仕事のことで、どうしてかいつもよりお互いエキサイトしちゃって、それで口論から大喧嘩になった。
 わたしは泣いて怒鳴って物を投げて、キリコは呆れた目でわたしを眺めて、わたしはその目でますますヒステリーを起こして、もう顔も見たくない、出てけ、別れる、って絶叫して、ネックレスごと指輪を外して投げ付けて、そのままわんわん泣いて、気が付いたらキリコがいなくなってた。ネックレスは床にあったけど、指輪はなくなってた。
 今までここまでのことになった経験がなくて、それが哀しくてまた泣いた。別れるって言っちゃったことも思い出して、やっぱりまた泣いた。でも譲れないことだってあるんだからって思うわたしも確実にいて、どうしたらいいか分からなかった。
 それでも仕事はきちんとこなすのがモグリの天才外科医ってもんです。わたし、ううん、私は高いよ、その分いつまでも恋愛事で落ち込んだ顔を患者に見せるわけにはいかない。
 正直、仕事が入っていてよかった。場所がワシントンの病院だったのが気に入らないけど(キリコが副業でよく滞在する場所だから)、あんな死神が来るような病院じゃない。依頼の内容は難易度が高い手術だけど難病末期ってわけじゃなくて、つまりダブルブッキングする心配もない。
 結局あれから連絡もないし、本当に別れちゃったんだな、って、それからは思い出さないようにするのが結構大変だった。仕事中は思い出しもしないけど、ホテルに戻って一息ついた時とか、朝起きた時とか、夜に誰かと電話で話したくなった時とか、そんな時に思い出すのが嫌だった。
 それもあって、患者を利用したみたいでちょっと申し訳ないんだけど、いつもの仕事より熱を入れたと思う。だって仕事中は本当に思い出さないから。でも患者は凄く喜んでくれて、凄く信頼してくれて、私はますますこの依頼にのめり込んだ。
 手術は成功した。当たり前、私は天才ですぜ。病院のスタッフたちはお偉いさんに私の手伝いを止められていたから今まで遠巻きに見るだけだったけど、成功したらそんなことはもう関係ないみたいで、手術室に入る前には挨拶を交わすことすらなかったのに、終わった途端に興奮した顔で私の手を取ったり自己紹介したり、今回の術式について聞きたがったり。割といつものことなのでどうでもいい。
 その中から一番有能そうな医者──縁の糸を持っていれば困った時に役に立ってくれそうな男の外科医──を選んで多少の営業をしておいた。慣れた頃にちょっと女言葉を遣うとあっという間に言うことを聞いてくれる。そういえばこのやり方を教えてくれたのはベトナムの時──やめた。もう思い出したくないから。
 それにしても酷いじゃない。手術が終わった途端に思い出すなんて。
 あれっきりだなんて。最後に一言くらい言っていくものじゃないの。
「……なんですよ。ご予定は?」
「──え、あ、ごめんなさい、ぼうっとしちゃって」
 外科医と話していたはずなのに、別れた男のことを思い出すなんて。何を話していたかすっかり忘れてしまった。外科医は笑った。
「お疲れでしょうしね。いえ、明日の夜のご予定はどうかと思って。──の製薬会社の社長がパーティを開くんですよ」
「ああ、あそこの?」
 製薬会社の重役の中にはわたしを嫌う奴も多いけど、この会社はそうでもない。治験でまずいことになりかけた時、ちょっと手伝ってやったことがあるから。今の社長はその時の専務で、わたしが手伝わなければ首が吹っ飛ぶところだったはず。
「ええ。私も呼ばれているんですが、連日ばたついていたものですからパートナーを探す暇がなくて。よろしければ──」
「わたしも呼ばれているの。会場で会えたらいいわね」
 この男が手術を見た興奮で私にのめり込みかけていることを察して、わたしは営業スマイルで思い切り線を引いた。外科医はみっともない縋り方をせず、そうですか、と笑顔で言った。うん、引き際をわきまえてるこいつは出世する。知り合いになって正解。
 でもちょっと気を付けないとまずいかな、って思ったのは、そのすぐ後だった。
「お疲れでしょう、送りますよ。どこのホテルですか?」
 こういう申し出を断るのが一番面倒くさい。営業するわたしが悪いと言われればそれまでだけど。そういえばキリコにも呆れられて──いいえ、思い出しません。
 患者の様子を見たいし、寄る場所があるから。そう言ったらやっぱりみっともなく縋る真似はされなかった。でも知ってる、これもテクニックってこと。ちょっと気の利いた男ならしつこくしない。
 明日のパーティに招かれているのは本当だし、パートナーもいないけど、そこは日本人。おまけにどんな場所でも好き勝手をやっちゃうのも売りのブラック・ジャックですので全然平気。むしろイメージ通りをお楽しみあそばせ。
 これが終われば当分ワシントンに来る予定はない。この外科医に距離を詰められることもないだろう。モグリの無免許医を珍しがってるだけで、少し時間を置けばすぐ距離を詰めようなんて思わなくなることはよく分かってる。何て言ったってこの見た目。女として見る奴なんて単なる物好き。
 この見た目のわたしに散々可愛いだの愛してるだの言ってた男を思い出しそうになった。ので、さっさと患者の様子を見に行くことにした。依頼料、少し割り引かせてもらおう。利用してるみたいで申し訳ないから。


「先生、来てくれたんだね、ありがとう!」
 社長はわたしを見るなり急いでやって来て、今日のパーティに来てくれてどれだけ嬉しいか、今もどれだけ感謝しているかって大袈裟なくらいに喜んでくれた。どうせ演技だろうけど、これでお互いの利害が一致し続けるんだから構わない。社長は過去のミスが表に出る心配が少し薄れるし、わたしは流通しにくい薬を頼むことができる。
「お招きをありがとう。美味しい夕飯にありつきに来たの。いいかしら?」
「もちろんだよ! 三ツ星のレストランから出張してもらってるんだ、好きなだけ食べて」
 パーティは大きな製薬会社に相応しい規模で、わたしでも知ってるような俳優やセレブリティ、スポーツ選手も招待されていた。そんな彼らはわたしの顔に気付くと少し眺めた後に自然に目を逸らす。下手に慈善のオキモチを向けられるよりずっと心地良いので問題なし。
「後でまた話をしよう。すぐ帰るなんて言わないでくれよ」
「お腹がいっぱいになるまではね」
「少し急がないと。そんなに食べるように見えないからね」
 わたしの食欲を誤解している社長が他の客に挨拶に行ってから、とりあえず目一杯食べて帰ろうと思ってワゴンへ視線を向ける。ビュッフェスタイルって大好き。嫌いなものを食べなくていいから。
「先生、アボカドとクリームチーズのアボカド巻きが美味しいわ。オードブルだから早めに食べないとなくなっちゃうわよ」
「え、そうなの、じゃあそれ食べよう」
 教えてくれたユリさんにお礼を言おうとして、それから気が付いた。
「え、何でここにユリさんがいるの!?」
「それ食べよう、より早く言うべきはそっちだと思うわ」
 確かに。でも慣れ過ぎてて全く違和感がなかったものだから。慣れ過ぎてたのはそれだけキリコと長い時間を過ごしていたってことで──ええい、やめよう、そんなことは思い出すべきじゃない。
 上から下まで完璧にドレスアップしたユリさんは、会場内にいる女優やセレブリティ女性の誰よりも綺麗だった。実際に周囲の人の目が集まっていて、いつもの服装にこの傷のわたしと比較する視線も感じる。正直言ってそんなものには慣れてるし、ユリさん相手なら劣等感も顔を出さないからどうってことないんだけど。
「聞いたら?」
「何を?」
「『キリコと来てるの?』って」
「──新しい彼氏と来てるの?」
 わたしの台詞を強がりだと見抜いたユリさんは、もう、と眉を跳ね上げた。うう、ユリさんのこれは苦手。とにかく正当な自己主張が強い人だから、仕事以外の場所じゃ人見知りで卑屈なわたしはまず太刀打ちできない。
「アメリカ人はこういうパーティにパートナーなしじゃ来られないの。だからわたしが引っ張って来られたってわけ」
「お小遣いつきでね」
「当たり前。バイト代だわ。──にいさん、フォート・デトリックから連絡が来たみたいで、今は電話で外してる。そのうち戻って来るわよ、食べながら待ってましょうよ」
「待つ必要なんてないから。食べるものは食べるけど」
「連絡くらいしてあげてよ。にいさんがフォート・デトリックで真面目に仕事ばっかりしてて、真面目すぎて気持ち悪いってグラディスくんが言ってたわよ」
「あの赤毛は人の悪口を言うしか能がないから信じないで。真面目にやって気持ち悪がられる意味が分からない」
 元々キリコは仕事にすごく真面目だし。
 でもユリさんがパートナーってことは、かなり仕事に打ち込んでいることと、別れてから今日まであまり日がなかったから、流石のキリコも新しい恋人を見つけている暇がなかったってことが分かった。流石のっていうのはあれだ、あいつ、実はすごいモテる。恋愛に発展させるかはともかく、こういう場所に連れて来るパートナーなんて掃いて捨てるほど見つけられるだろう。
 ところでわたしが実際にパートナーを見繕うとしたら、いいとこ辰巳くらいしか当てがない。間久部じゃ絶対まずいし。いっそロン、この国の大統領にでも頼もうかな。
「ブラック・ジャック先生!」
 あの外科医がわたしを見付けて、可愛らしい女性と一緒にやって来た。パートナーがいるならわたしに変な執着は見せないだろう、って安心したわたしが馬鹿だった。
「妹なんです。やっぱりパートナーが見付からなかったものですから」
 妹さんですか。そうですか。ちなみにわたしの隣にいるもんのすごい美女も兄にパートナー役で連れて来られています。アメリカじゃ珍しくないのかしら、そうかしら。
 ところでこの妹さん、実は勘が鋭いんです。こと、男女の仲に関しては。
「先生、この方はどなた? 『にいさんの』お知り合いかしら?」
 ほら、多分一瞬で全部察したに違いない、ちょっと嫌味っぽい声が飛んで来る。知り合ったばかりの頃には絶対想像もできないような声。
「仕事先の外科医。ユリさんのお兄さんは──さあ、知らないんじゃない?」
「もう、何よ、そんな言い方して」
「あの、こちらの方は?」
 外科医の妹がユリさんに興味を示した。会場で一番目立つ美女に憧れ半分、嫉妬半分の目を向けている。わたしが紹介する前にユリさんが言った。
「ブラック・ジャック先生の義妹です」
「──何言ってるの」
 ちょっと本気で苛立ってしまって、険しい目をしちゃったかもしれない。ユリさんはふんと鼻で笑った。それがキリコにそっくりで、流石は妹、でもむかつく、って本気で思った。
「ユリさん、ちょっと」
「何よ」
「あの、ユリさん、一緒にビュッフェワゴンに行ってくれません?」
 外科医の妹がわたしをちらりと見た後にユリさんに言った。
「スイーツのワゴンに行きたいんです。女の人と行った方がたくさん取っても恥ずかしくないんだもの」
 いかにも媚びるような言い方は、明らかにユリさんをわたしから引き離す任務に就いているに違いないと思わせる。ここも小遣いが絡んでいるに違いない。
 ユリさんはしばらく彼女を見詰めた後、息を吐いて「いいわよ」と言った。外科医の妹は可愛らしく喜んで、早く早く、とユリさんを引っ張った。ユリさんはわたしをちらりと見て、日本語で「気をつけてね」と言ってから、スイーツワゴン目指して人の波に消えて行った。
 じゃあわたしも、と言いかけて失敗した。外科医が笑顔で「行っちゃいましたね」と言って、近くにいたアテンダントから素早くグラスを取ってわたしの手に押し付けたからだ。軽く口をつけて少しの雑談が必要なシチュエーションの出来上がり。いくら好き勝手をするのがモグリの無免許医の売りとはいえ、無礼をしたわけでもない相手に恥をかかせるのはご法度だ。
「今の女性、義妹って──」
「──ああ、その──彼女のお兄さんと、先日までね。そういうこと」
「そうだったんですか。それは失礼を」
「気にしないで」
 この外科医は裏社会には関わりがないらしい。裏じゃわたしとキリコが付き合ってる、じゃない、付き合ってたのはよく知られていたし、どっちかって言えば知らない人間を探す方が大変だったと思う。知らないってことは関わりがない、あるいは薄いってこと。こんな状況で確認できたのも微妙な気分だけど。
「昨日のオペ、本当に素晴らしかった。上の連中が言っていたことなんて嘘だったんだ」
「そう、それはありがとう。ところでわたし、少し何か食べたいから──」
 失礼するわね、と言う前に、外科医はにっこり笑った。
「私もですよ。妹たちがスイーツなら、わたしたちは食事にしませんか」
「──それぞれ好きなものを頂くといいわね。じゃあまた」
 言っても多分無駄だろうと思っていたけど、本当に無駄だった。
「先生と私が好きなものが被ると楽しいですね。ひとつしかなかったら大変なことになりますが。何がお好き? サーモン? チキン?」
 この男は女を口説くことに慣れている。昨日からの距離の取り方の巧さは今日も健在で、それでいて昨日から少し、わたしまでの距離を縮めることに成功しそうだった。
 何だかもう面倒になって、話すままにさせておいた。わたしは料理を取って食べて、外科医も同様で、でもわたしと違うのは、わたしに何くれとなく話しかけることだ。わたしはあまり返事をしなかった。
 外科医の口説き方は巧い方に入ると思う。キリコと付き合う前の、男性を過度に警戒していたわたしなら、きっといい気になってたかもしれない。優しい声で話しかけて、わたしを褒めそやして、わたしの返事を否定することなんてなくて、まるでわたしが男の宝物になれるんじゃないかって錯覚を起こそうとする。
 これがこの男の口説き方なんだ、と思って聞いていたことは否定しない。それを誰かと比べたことも。
 キリコに口説かれた記憶がない。口説かれるも何も、気が付けば愛し合っていて、今思い出そうとすると嘘みたいなことばっかりの中で色んなことがあって、それから──
「どうしました? 苦いものでも?」
 外科医の心配そうな声で、わたしは自分が唇をひん曲げていたことにようやく気付いた。慌てて唇を戻して、首を横に振る。そろそろこの男と距離を取りたい。別れた男を思い出すうちは、新しい男を作るべきじゃないような気がするし、そもそもこの男はそういう対象になりそうもない。
「少し疲れたみたい。食べ過ぎでね」
「たくさん食べる女性は素敵です。私も食べるくちですから、一緒に食事を楽しめますね」
 わたしが完全に拒否しないせいか、随分ストレートな口説き文句を口にするようになった外科医はアテンダントに自分とわたしの皿を渡す。
「中庭に出ませんか。座って休める場所もありますし、──誤解しないで、二人きりになれる場所じゃないですから」
 他の人たちも休憩する場所ですから、と外科医は笑う。流石にお断り、と思ったら視線を感じた。っていうか、気付いてなかったのが不思議なくらい、わたしと外科医に視線が集中していた。ああ、やっちまった。結婚していると誤解されるくらい一緒だったキリコと別れたばかりのわたしと、モグリの醜い外科医を口説く外科医が面白がられてるんだ。
 どうしよう、と意味もなく周囲を見回したら、ユリさんと目が合った。外科医の妹はそばにいなかった。妹の代わりにいたのは人気のある俳優で、ユリさんは彼に熱心に話しかけられている上に、俳優のパートナーに睨まれていた。もちろんパートナーのことなんか完全に無視してるユリさんがいっそ清々しい。
 そのユリさんがわたしを見て、それから肩を竦めた。助けてあげないわよ。そういう意味だ。それが分かる程度には、わたしはユリさんと付き合いが深かったらしい。
 でも、そのユリさんのメッセージで急に腹が立った。助けるって何? 別に助けてなんて言ってないし、もう助けてもらう筋合いもない関係になってるじゃない。何なの、あのおん……これは無理、ユリさんのことを「あの女」って罵倒するのはたぶん永遠に無理。
「後で社長と話す予定だから、少しだけなら。教えてくれてありがとう、じゃあ」
「この状況であなたを一人で行かせたら、私はいい笑い者です。助けてくれませんか?」
 それは確かだろう。わたしが彼を袖にしたと知れば、見ている連中はひそひそと、でも聞こえるように馬鹿にして笑う。上流を気取る勘違い連中のパーティなんてそんなもの。わたしはよく知ってるし、この見た目でそんな経験も少なくない。あれは結構気分が悪い。
「ご勝手に」
 外科医が笑われたってわたしの責任じゃないけど、でも明日の寝覚めが良くない気がする。結局強く突っぱねられなくて、わたしの後を付いて来る男を遠ざけることができなかった。
「寒くないですか」
「大丈夫」
 中庭は風通しが良かった。いつものコートだし、寒いなんてことはない。むしろドレス姿で中庭に出ている女性たちの方が寒いんじゃないだろうか。休憩に出ている人たちは結構多くて、アテンダントも配置されている。そんな中、ここでも視線が集中したことが分かって、社長と話す前に帰りたくなってきた。見られるのは慣れてるけど、見世物になるのが好きなわけじゃないんだし。そろそろ外科医にはっきり通告した方がいいかもしれない。将来的に利用できなくなるかもしれないけど、それならそれで構わない。
「言っておかなきゃいけないんだけど」
「ええ」
「あなた個人に興味を持てそうもないから、お互いに忘れた方がいいと思う」
 外科医は一瞬表情を揺らした後、無理に笑顔を作ってみせた。
「まだ少ししか話していませんし、結論を出すのは早いと思いませんか?」
「じゃあ別の理由を。見世物になるのが好きじゃない」
「──あの、ええ、その──」
 過去の女にわたしみたいな反応を返されたことがないんだろう。外科医は急にしどろもどろになって、視線をさ迷わせ始めた。
「でも、私はあなた個人にとても興味があるんです」
 ここまで拒否されて喰らい付くのはちょっとすごいかも。わたしなら心が折れる。すごいなって感心してたら隙になったのか、立て続けに外科医が喋り始めた。──医者としての噂を聞いた時から気になっていた、手術を見て感動しない医者なんかいるはずがない、そんな人を一人の個人として気にするのは必然で──うん、さっきも思ったけど、昔のわたしなら信じてしまいそうな、熱くて綺麗な言葉ばっかりを聞かせようとしていた。
 でも全然、本当にまったく興味を持てない。だってわたしは知ってる。みんなそうだってこと。わたしを闇医者として最後まで嫌悪する根性がある同業者って、実は少ない。大抵はわたしのオペを見て心を動かされて、それから言うことはみんな一緒。することも一緒。
 こういうことは珍しくないし、言われることも慣れている。
「わたしのことは構わない方がいい」
 こっちがその気になりかけたって、わたし個人への物珍しさが薄れれば、あっという間に医療以外は取り柄のない醜い女だって思い出して、自分から遠ざかって行く。遠ざからないのはわたしを女として意識しない、とことんまで医者だって理解する、とことんまで医者でしかいられない人間だけで、残念なことに案外少ない。
「医者じゃないわたし個人なんて、別に興味を持たれるような人間じゃないんだから」
 ああそうか。急に思った。ああそうか、そう言えばそうだった。
 キリコは最初っから、わたしを医者としてなんて扱ってなかった。密林の中では医学生、それからは先生って呼ぶようになったって、いつもわたしの方針を否定して、他の医者連中みたいに手放しで称賛することなんて一度もなかった。
 手放しで称賛──なあんだ。そうだ。そうだった。称賛すること、褒めそやすことなんて、キリコはいつもやってた。
 わたしが医者じゃない時間。わたしがわたしっていう個人でいる時間。そんな時にふたりでいると、大袈裟で恥ずかしいくらいに何でも褒めてくれて、可愛がってくれて、わたしをどれだけ愛しているか教えてくれていた。喧嘩も数え切れないくらいしたけど、キリコが折れる振りをしてわたしが謝りやすくしてくれたり、そんなことばっかりで。
 別れた時の喧嘩は、あれは喧嘩じゃなかったんだ。
 あの時、わたしは医者だった。キリコも医者だった。それなのにわたしは勝手に混同して、別れるなんて言って、指輪を投げ付けるなんて酷い真似をしたんだ。
 甘やかされ過ぎて、愛されていることにあぐらをかいて、わたしたちがふたりでいるための大切な区別を忘れてしまっていた。
「先生、そんな言葉は聞きたくない。私はあなたに心底──」
「──連れの相手をありがとう」
 腰を抱かれて予想以上に強く引き寄せられて、琥珀の香水の香りがして、ああ、って思う暇もなかった。外科医の方が驚いていた。あなたは、って、ドラマみたいなお決まりの台詞が口から飛び出していた。
「ドクター・キリコ?」
「妹が賭けの話を耳にした。私が言いたいことは分かるな?」
「──確かにそれはありましたが、でも私は本気で──」
「それ以上を口にすれば撤退の機を失う。今なら間に合うが、どうする」
 外科医は急に顔を真っ赤にして黙り込んだ。それから唇を引き結んで、わたしを見て、小さな声で「忘れて下さい」と言って足早にパーティホールに戻って行った。
「何をしていたんだ、おまえ」
 その声が呆れ果てたもので、わたしは安堵していた自分を誤魔化して──そう、わたしは腰を抱かれた瞬間に安堵したんだ──手を振り払って身体を離した。途端にキリコが溜息をついて、それでわたしは腹が立つ。
「別れた男に言う義務なんてないね」
「あの流れで別れる男女なんざ、いいとこ20代前半だ。俺もおまえもとっくにカテゴリー外だよ」
「別れてないとでも言うつもり?」
「お望みとあらば」
「指輪を持って帰ったくせに?」
「傷が増えたから磨きに出しておいてやる、って、あの日の朝に言ったよな?」
 言ったっけ。──……言った、かも。……言った……
「……言ってた」
「顔も見たくないだの帰れだの、いつものことだろう。流れで別れるってヒスろうが、俺が今更本気にすると思うか?」
 いつものことですか。そうですか。いやまさか、わたしそこまで酷くな……ごめんなさい、いつものことですね……
「……連絡しなかったくせに?」
「はあ?」
「全然連絡してこなかったくせに!」
 これだって事実! あれっきりキリコは全然連絡してこなかった。わたしが完全に別れたって思っても仕方ないじゃない!
 でもキリコはあっさり、それがわたしの勘違いだって証明した。
「お互いにあの次の日から仕事で海外、俺はいつも通りフォート・デトリック、おまえはお嬢ちゃんを家に残してワシントン。さっきの野郎の病院か?」
「それが何」
「俺はおまえの仕事先までは知らなかったから、お嬢ちゃんに電話した。今回は立て込む、仕事を集中的に片付けてから連絡するって伝えてくれるように頼んだんだ」
 ユリさんの言葉が蘇る。『にいさんがフォート・デトリックで真面目に仕事ばっかりしてて──』。
「ピノコはそんなこと」
 そんなこと言ってなかった、って言おうとして、我ながら血の気が引く音が聞こえそうなほど青ざめた。まずい。やらかした。
 入国してから一度もピノコに連絡してなかった。しかもピノコは相当なことがない限りわたしの仕事先に連絡を入れることがないから──つまり──
「……ピノコと」
「うん?」
「ピノコと連絡取れてなかった……」
「──神よ」
 うう、出やがった、心底呆れたオーマイゴッド。これをやられると自分で穴を掘って入って、ついでに土を被りたくなる。でもキリコはそれを見抜いたみたいで、気にするな、って言ってくれた。
「おまえの仕事先の話を耳にしたのもついさっきだ。ここにいると思ってなかったし、俺がどれだけ驚いたと思う?」
「ユリさんに初めて彼氏ができた時ほどじゃないでしょ」
「待て、思い出させるな、憎悪が蘇る」
 キリコは本気で苦しい顔をした。わたしはそれで少し胸がすいて、我ながら性格が悪いと思うけど、さっきよりは冷静になれた。
「お話し中、失礼致します。お飲み物はいかがですか」
 アテンダントが笑顔でトレイの飲み物を示した。キリコは頷き、まだ泡が立っているシャンパンをわたしにくれる。それから、自分の分を取りながらアテンダントに言った。
「オーダーしていいかな」
「何なりと」
 次に続いた言葉は、わたしには意味が分からない会話だった。
「賭けに乗った連中に伝わるように整えてくれ」
「何のことでしょう」
 アテンダントは知らない振りをしようとして、あっさり失敗していた。声が震えてるんだから失敗だとしか言いようがない。でも何の話なんだろう。
「今回は見逃すが、次に同じことをしたら地の果てまで一人残らず追いかけて、死んだ方がましな目に遭わせる」
 キリコの低い声は特に小さいと言うほどではなくて、アテンダント以外、周囲でわたしたちの会話に聞き耳を立てていた人たちの何人かにも聞こえていたようで、息を呑んだ気配が伝わって来た。漫画みたいな台詞は他の誰かが言えば笑われたかもしれないけど、死神が本気だってことは、きっとこれを聞いた誰もが分かったと思う。わたしでさえちょっと怖かったくらいだから。
 わたしは何となく、ああ、わたしが馬鹿にされるような賭けが開催されていたんだろう、あの外科医がわたしを落とすかどうかってことかもしれないな、って分かった。キリコがここまで怒るってそういうことだから。
 自惚れって言われてもいい。キリコはわたしが馬鹿にされると物凄く怒るってこと、わたしは知ってる。だから今、面白くはなかったけど、馬鹿にされて哀しいと思わなくて済んだ。
「──かしこまりました」
 夜目にもはっきり分かるくらいにどっと噴き出た脂汗を拭うこともできないアテンダントは、震える声で丁寧に返事をした。周囲の数人がそそくさといなくなる姿が滑稽だった。あの外科医のアプローチで落ちるかどうかと観察されていたわたしも彼らにとっては滑稽だったかもしれないけど、今の彼らに比べればきっともっとましだった、って思えた。
「マフィン」
 随分長く、このペットネームを呼ばれていなかったような気がする。そこまで長いわけじゃなくて、仕事一回分の期間にすぎないって分かっててもそう感じた。だから嬉しかったんだと思う。
「先にユリと帰れ」
 どこに、なんて訊かないし、キリコも言わない。いつもの場所だ。キリコがフォート・デトリックの仕事の時に滞在するアパートメント。ピノコが来る時は四人でそこに滞在する。急に、ピノコを日本から呼びたくなった。
「キリコは?」
 いつの間にか普段の会話をするふたりに戻っていて、これも嬉しかった。でもそれを言ったらキリコがわたしに気を遣いそうだから言わなかった。
「社長と話がある。立て込むかもしれないから」
「あ、わたしも社長と話をする予定で──」
「俺から言っておくよ」
「でも」
 キリコがふっと笑って──久し振りに見た、わたしがいまだに恥ずかしくなるくらに格好いい笑い方だった──わたしにキスをする。唇の感触も嬉しくて、わたしからもした。キリコが唇を合わせたまま笑って、やっと機嫌を直してくれたの、嬉しいよ、って囁いたから、わたしはもっと嬉しくなる。
 でもその後に囁かれた言葉で、わたしは耳まで真っ赤になった。
「今日は少し夜更かしするんだから、風呂に入って待ってて」
 真っ赤になったわたしにひとつキスをして、いつの間にか少し離れた場所にいたユリさんに声をかけてから、キリコはパーティホールへ歩いて行った。


 主催者側が手配した帰りの車はリムジンだった。精々ハイヤーだと思ってからびっくりした。もしかしたら賭けの件に関係あるのかもしれない。
 優雅にシートに座るユリさんは何枚、ううん、何十枚もある名刺を一枚ずつ検分してはミニバッグに入れ、もしくは破いて備え付けのダストボックスに入れて行く。高級ナイトクラブのトップキャストだって、きっとユリさんほど名刺を渡されないだろうな。
「名刺交換したの?」
「しないわ。勝手に押し付けて来た男の人の」
「いい男、いた?」
「顔だけならね。医療ボランティア活動をしてる人の名刺だけあればいいわ、後はいらない」
 ユリさんのこういうところ、すごく好き。ユリさんは無職の期間が長くてキリコがよく心配してるけど、あちこちのボランティアに協力していることも分かっているから強く言えないみたい。
「大体、パートナーを連れて来てるくせに他の女に声をかける男なんてろくな奴じゃないもの。残した名刺の人たちはパートナーと一緒に、にいさんといるわたしに声をかけて、ボランティアの話を振ってくれた人」
「なるほど、そういう判別方法があるのか」
「誰彼構わず愛想を振りまいてたら切りがないしね」
 絶世の美女だからこその苦労が垣間見えて、わたしは「そうなんだー」と相槌を打つしかできることがない。
 名刺の整理を終えたユリさんが、車内のシャンパンクーラーからロゼを引っ張り出す。栓は乗った時にドライバーが抜いておいてくれた。シャンパングラスに注いで先にわたしにくれる。
「にいさんの苦労に乾杯」
「やめてよ……」
 入る穴がなければ掘りたい。リムジンの中じゃ掘れない。本気で落ち込むわたしに笑い、ユリさんはグラスを綺麗な唇につけた。半透明のピンクの液体が吸い込まれていくさまはひどく綺麗で、こういう時、わたしはユリさんに見惚れることは少なくない。
「先生には言わなくていいってにいさんに言われてたんだけど、大体予想してるんでしょ?」
「賭けって言ってたけど、まあ、わたしがあの外科医に落とされるかどうかってやつがそれかな?」
「それ。外科医の妹から聞いたの。腹が立ったからレストルームに連れて行って、付け睫毛を引っぺがしてやったわ」
「ぶっ」
 堪え切れず、わたしはシャンパンを噴いてしまった。ユリさんが手早くナプキンをくれる。それにしても、この人は見かけによらず過激なことを平気でする。
「それ、どうなったの。パーティで付け睫毛が引っぺがされるって、かなりショックじゃない?」
「泣いてたけどいい気味よ。後はどうなったか知らないし、知ったことでもないわ。わたしの義姉を馬鹿にした罰よ」
 キリコと結婚したわけじゃないから義姉じゃないんだけど、でもそう思ってくれるのは嬉しい。
「賭けについてはにいさんが電話から戻ったら言うつもりだったし、それに先生、満更でもなかったじゃない。取り敢えず中庭で品定めするのかもしれないと思って放っておいたのよ」
「ま、満更でもないって、そんなことあるわけないし!」
「いつもの先生ならお仕事モードで跳ね返すわよ。別れたと思い込んで弱ってたのね」
「ユリさん、今日、わたしに意地悪じゃない?」
「真面目な話、にいさんも嫌な思いをしたんだから。パートナーをあんなふざけた賭けの対象にされるなんて屈辱よ。だから妹として、これくらいは許されるべきだと思う」
 そう言われたら言い返せない。ユリさんの怒りは正当だ。ごめんね、と言ったら、それはわたしに言うことじゃないでしょう、って叱られた。その通りだ。キリコにまだ謝ってない。
「今頃、社長に死ぬほど嫌味ったらしく笑顔でクレームを入れてるんでしょうね。社長が開催したパーティでこんなことが、って。にいさんのクレームはたちが悪いわ」
「分かる。聞いてるだけなのに自分が謝りたくなる」
 でもクレームを入れるってことは、死神はまだあの製薬会社と手を切る気はないって意思表示だ。わたしとは違う経由でドクター・キリコはあの会社と利害が一致していて、わたしと同じ程度には社長と懇意らしい。仕事のことだから詳しく聞いたことはないけど。
「でもよかった」
「何が?」
「にいさんと先生が別れてなくて。噂を聞いた時、すっごい驚いたし、嫌だったんだから。にいさんは呆れてたけどね」
 ユリさんはグラスをきゅっと開けて息を吐いた。わたしも真似した。ユリさんが嫌だったと言ってくれて、何だか本当に嬉しくて、何となく涙が出た。どうして泣いてるの、やめてよ、って言いながら、ユリさんがわたしを抱き締めてくれた。嬉しかった。今日は嬉しいことばっかり、って思った。賭けのことなんてどうでもよくなった。


 キリコが帰って来たのは0時を回った頃で、ユリさんはもう寝ていた。キリコは風呂を終えていたわたしを見て笑い、いい子だね、ベッドで待ってて、って気障なことを言ってシャワーを浴びに行って、それからのことは、まあ、うん、久し振りと言えば久し振りだったんで、はい。
 次の朝、ユリさんは寝坊した。珍しかった。耳栓して寝たから目覚ましが聞こえなかったんだもの、って言われて、その耳栓が何のためかなんてすぐ分かって、わたしは朝から耳まで熱くなって呻くしかない。キリコは涼しい顔で「おまえが20歳の時に男を連れ込んだ時ほどじゃねえ」なんて言ってユリさんを怒らせていた。20歳の時、ああ、そうだったんだ、そっか。でも顔を赤くして怒るユリさんを初めて見た。貴重な経験だな、これ。
 それからピノコに電話して謝り倒した。ピノコは怒ってたけど、ちぇんちぇいだから仕方ないのよさ、って可愛く許してくれた。可愛い。本当に可愛い。こっちに来る? って訊いたら、すぐ行きたいって大喜びしてた。その後、信用できる人に出国の面倒を見てもらえるように連絡した。
 それからユリさんに、二人して家を追い出された。俺の家だぞ、ってキリコは怒った振りをしてた。わたしはふたりでいられるから嬉しいし、ユリさんに感謝した。きっとキリコも同じ気持ちだって分かってる。
「まあいいか、どうせ出掛ける予定だったし」
 手を繋いでメインストリートを歩きながらキリコがぼやいた。
「え、そうなの。仕事?」
「違う。指輪」
「指輪?」
「磨きに出してるんだよ、俺とおまえの」
「あ、そうか、ありがと」
「どういたしまして。受け取りに行こうと思ってたんだ。ちょうどいい、取りに行ってついでに買い物だ。おまえの服を買う」
 キリコはシーズンごとにわたしに服を買いたがる。自分好みの服ばっかり選ぶから、たぶん楽しんでるはず。だから遠慮しないで買ってもらう。仕事の時はまず着ないけど、キリコのふたりの時や、家族でいる時に着るのは好きだった。
「どこのジュエリーショップ?」
「タイスンス・ギャラリア」
「磨きに出すだけで!?」
 ワシントンでも有数の高級ショッピングエリアの名前が出ればそりゃ驚く。この男はいちいち高級志向というか、なんて言うか。でも嫌味なく似合っちゃうから困る。いい男すぎて困る。
 指輪を取りに行った店で明らかに上客の対応をされているキリコを見ていい気分になるのと同時に、醜いわたしが隣にいていいのかな、って久し振りに思った。でもキリコが「ほら」ってその場でわたしの指にリングを通してくれて、わたしが隣にいていいんだな、って思えて嬉しくなった。キリコが優しく微笑んでくれたのも嬉しかったし、仕事の一環だろうけど、店員たちがわたしにまで丁寧にしてくれたことも嬉しかった。
 買い物をしてランチを食べて、取り留めもない話をして、あの大喧嘩をする前と何も変わらない。でも今日はそれが全部嬉しくて、わたしはずっと笑ってたと思う。キリコもいつもより微笑みかけてくれる回数が多い気がする。きっと気のせいじゃないし、嬉しい。
 家に帰ったら豪華すぎる花束とスイーツのアソートが届いていた。カードは社長の名前で、わたしとキリコとユリさんの許しを待つってことが書いてあった。キリコが社長に礼儀としての礼の電話をする横で、わたしとユリさんは早速スイーツに喰らい付いた。許すも何も、もうどうでもいいし。スイーツは美味しかったし、ユリさんはピノコちゃんにも食べさせてあげたい、少し取っておきましょ、って言ってくれたし、キリコの電話は大人の態度で格好よかったし、全部、ぜんぶ嬉しい。
 よく言うじゃない。失ってから幸せだと気付く、って。わたしはそうでもなかったみたい。正確には失ってなかったんだけど、勝手に失ったって思い込んでた馬鹿だけど。
 失って取り戻して、わたし個人の生活って、嬉しいことがたくさんあるんだって気付いた。昨日も今日も嬉しいことばっかり。
 ちゃんと分かってる。この嬉しい気持ちは、キリコがくれる嬉しさだってことも。キリコがいてくれたから気付いたんだってことも。
「あら、珍しい」
 ユリさんがスイーツを片付けながら言った。
「指輪してるの? にいさんも?」
「あ、うん、磨いてもらったのを取りに行ったから、流れで」
「ふうん。──つけっぱなしでもいいのに。ピノコちゃん、怒らないと思うんだけどねえ」
 キッチンにスイーツをしまいにくユリさんを見送り、わたしは指輪を見て、それからまだ電話をしているキリコを見る。視線に気付いたキリコが微笑んでくれた。
 嬉しかった。
 だからわたしも微笑み返した。
 電話をしているはずのキリコの唇が声無く動いて、あいしてるよ、って言ってくれて、もう嬉しくて嬉しくて抱き着いた。
 片腕で抱き締め返してもらえたことがまた嬉しくって、もうぎゅうぎゅう抱き着いちゃう。キリコもぎゅうぎゅう抱き締め返してくれる。早く電話を切って両腕でぎゅうぎゅうして欲しい。
 嬉しくて嬉しくて、とにかく今はキリコとくっついていたくって、他のことなんてぜんぶどうでもいい。だからキッチンから戻って来たユリさんが美しいターンを決めてまたキッチンへ戻ったことについては、後で改めて嬉しいと思うことに決めた。