【R15】to watch TV
スパダリ~!!! を書こうとしたら単なるエロ過ぎるおっさんになりました。スパダリスタイリッシュスマートジェントルなキリコをお求めの方はご覧にならない方がよろしいのでは……と危惧する程度にはエロ過ぎるおっさんです。ご注意下さい。ごめん眠かった(言い訳)。
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女三人寄ればかしましい、はずの崖の上の家なのに、今日はやたらと静かだ。さもありなん、さもあらん。俺にはさっぱり共感できないが、いわゆるお涙頂戴のドラマに揃って見入っていれば静かにもなろうというもの。
夕飯の後にたまたま回したチャンネルで流れていた二時間ドラマはテンポよく進む。興味を持てない俺にはつまらない。逃げるチャンスを窺っている。
今のところ逃げ損ねた(ここまでつまらないと思わなかったんだ)俺は中々良い揺れ方をする女優の胸を眺めることに専念する。とりあえず真面目に鑑賞しているように見えるはずだ。いや、ある意味真面目に見ているがそれは公言すべきじゃない。俺の隣に座る女の病的な嫉妬たるや、今更説明するまでもないだろう。
人間関係と主人公の悲恋の可能性の説明が終わった前半、CMに入ったチャンスを逃さずにテレビの前を離脱する。BJの書斎で本でも読もう。テレビの前でああだこうだと言い合っている──おおむねユリとお嬢ちゃんが俳優の好みについて自己主張をしている──女たちにアイスティを淹れてやり、速やかに書斎へ撤退した。あと一時間程度は一人の時間だ。
本を読む前に俺のベッドを整えておこうかと考える。俺だけが泊まる日ならBJはいつも通りお嬢ちゃんと寝るが、ユリも泊まる日はユリがBJのベッドで、BJは客間という名の俺の部屋のベッドで寝る。──神に誓ってこの家ではセックスをしない、これは本当だ。俺にも倫理観というものがある。ただし散歩に出た浜辺では稀に倫理観を捨てる。稀に、だ。あくまで稀。毎回じゃない。
ベッドを整えてから改めて書斎へ行く。この家の書架は数える気にもなれない数の蔵書を誇る。書斎の主は全ての本の内容をほぼ完全に覚えていて、俺が何か質問すると数分も経たないうちに参考になる本を一発で引っ張り出す。最初はどんな記憶力だと舌を巻いたが、今はもうあの女が天才を通り越した生物なのだと理解して驚かなくなっていた。
以前から少しずつ読んでいる薬学の本を見付けてページを開く。時折入っているBJの書き込みは的を射ているものもあれば、俺の持論と異なるものもある。俺がこの本を読み終わったら、きっとBJは俺と意見交換をしたがるだろう。俺もあいつも好きな時間だ。
読書に没頭している間に時間が流れていたらしい。女たちがいるリビングが急に騒がしくなった。ドラマが終わったようだ。すぐには顔を出さず、余韻に浸る──感想をさえずると言うべきか──時間を充分に取ってから書斎を出た。
「あら、にいさん、いなかったの?」
「俺の存在なんかその程度で結構だ。終わったのか」
「終わったわ。もう、すっごい泣けた!」
「最後があれだなんて思わなかったのよさー!」
ユリとお嬢ちゃんはまた思い出したのか、そうよねえ、あれはねえー、とまたさえずりだす。楽しいなら結構だ。BJは二人の話にうんうんと頷いているばかりだが、これはいつもの光景だった。三人でいると大抵は聞き役になっている。
最初はユリの押しが強すぎてBJが発言できないのではないかと心配したが、あの記憶力と同じで、今はこれがこの女の楽しみ方なのだと理解して心配しなくなっていた。ちなみにお嬢ちゃんに関しては心配したことがない。彼女の機転と語彙と会話力はユリに負けない。
三人が飲み干していたアイスティのグラスを片付け、まだ話が終わらない声を背中に聞きながらシンクで洗っておく。するとBJがキッチンに顔を出し、グラスを拭く俺の背中にぴたりと貼り付いた。可愛い。お嬢ちゃんが起きている時に身体を寄せてくるのは珍しいが、リビングにいるから見えないと思ったんだろう。
「何だよ」
「別に」
「ふうん」
食器棚にグラスを片付ける間もぴたりと貼り付く。可愛い。可愛いが何をしているんだ。食器棚の扉を閉めて振り返り、軽くキスをすると、これも珍しく首に抱き着いて来たので少し丁寧にキスをし直しておいた。可愛い。
身体は子供のお嬢ちゃんがジュニア向けの睡魔に連れられて寝室へ引き上げ、大人三人はテラスで少し酒を飲む。会話を楽しんでいるうちにいつの間にかユリがいなくなっていて──あいつはそういうのが上手い──残された俺とBJは二人の時間を過ごした。寝てもいいし、まだ少し起きていても明日の健康を保てる時間帯だ。
散歩でもするかと言おうとした時、BJがまたもや珍しく椅子をぎりぎりまで俺の方に寄せ、どすんと結構な勢いで寄り掛かって来た。面喰らったが可愛い、問題ない。笑って抱き寄せてキスをした。BJも笑ってキスを返してくる。しばらく繰り返してじゃれ合った。非常に可愛い。
「ねえ」
「うん?」
「散歩したい」
「これから?」
「ちょっとだけ」
ちょっとだけ、と言いながら目元を赤らめている。なるほど、そうか、よろしい、非常によろしい。
俺はこれでもスマートであることを心掛けている。よって野暮を口にするつもりはない。理解できれば充分だ。稀に、の稀が今夜だというだけの話だ。もちろん歓迎する以外に何がある。
それにしても珍しい。この女は俺限定で(当然だ、どれだけ真剣に仕込んだと思ってる?)結構な好き者だが、自分から言い出すことはほとんどない。したい時でも俺が誘うまで口にできない奥手で可愛らしい女、言い方を変えれば俺が手を出すように仕向ける小賢しいクソビッチだ。今夜のようにほぼダイレクトに誘うことは相当珍しい。
だがそれはそれで新鮮だ。可愛い。手を繋いで浜辺に降り、「ちょっとだけ」のはずが随分と長い散歩になった。想定済みだ。
それにしてもBJはまたこれも珍しく、外でするにしてはずっと密着したがっていた。正直言って外でするには俺の負担が大きい流れで、これならベッドの方が楽だと思ったのは確かだが、まあ可愛いからいい。そんな時もある。
家に戻ってシャワーを浴びる。ユリもお嬢ちゃんも寝ていたから二人で浴びた。流石に手は出さなかったがいつもの癖で洗ってやった。BJが気をやったのは事故だ。俺の指はたまに俺の言うことを聞かない。不思議なものだ。特に風呂場ではよくコントロールを失う。何て不思議な現象だ。
よくも自宅で、とBJが烈火の如く怒るかと覚悟したが、もう、と怒る振りをして終わりにされた。意外すぎる。こんなことをすれば大抵は凄まじい、だがお嬢ちゃんを起こさないという神業を駆使して罵倒してくるはずなのだが。
ごめんね、と言って、声を堪えるために噛んで腫れてしまった唇を舐めておいた。
それから睡魔を呼び寄せることにする。流石に俺ももう本気で何もしない。ただ、服を着る間も寝る前の一服も、歯を磨く間もずっとぴったりとくっつきたがるBJがとにかく珍しく、しかし可愛い。
部屋の電気を落とし、ベッドの間接灯だけの明かりの中、おやすみのキスをして毛布をかける。
「クロオ?」
いや、いいんだ。可愛いし、二人で寝る時はそれなりに身体を寄せて眠る。
だが今夜は俺が当惑するするほどべったりと、それこそ抱き着いて脚を絡めるほどにべったりとくっついて来る。
「マフィン? 何かあった?」
珍しいことが続きすぎて、流石に俺は心配になった。腕に抱き込んで髪にキスをする。腕の中でBJが少し深い息を吐き、ああそうか、と俺はようやく気付き、それから可愛さに目が眩んでいた自分を呪った。
不安定な状態なんだと普段ならすぐ気付いたはずなのに、可愛さに意識を奪われ過ぎて見逃してしまっていた。それにしても何があった? 俺が一緒にテレビを観なかったから? だがそんなことは過去に何度もある。特にこいつは俺が女三人を置いて書斎に入ることに慣れている。心当たりがない。女優の胸に注目していたことがばれた? いや、それならその場で足を踏むなり尻を抓るなり(どちらも青痣が残る力であることは言うまでもない)しているはず。
「どうってことないんだけど」
「うん?」
「普通の人にとっては。でもわたし、普通じゃないから」
「どうした?」
まあな、とは言わず、話を促す方向へ持って行く。BJの「わたしは普通じゃないから」は、安い女の「わたしぃ全然可愛くないからぁ」と同義語だとよく知っているからだ。つまり同意すると面倒くさい部類である。よって敢えて避ける。
「どうってことないんだけどね」
「うん」
「さっきのドラマね」
「うん?」
表情を動かさないように努力する。やっぱりばれたのか。いや、だってあの女優、日本人にしてはいい胸で──だがBJは全く違うことを言った。
「主人公の恋人が最後に死んじゃって」
「うん」
「スキルスでね」
「そうか」
あの胸、じゃない、女優の相手役の男か。なるほど、スキルスか。若い男だったし、進行速度と寛解率を考えれば妥当な設定だろう。悲恋物としちゃオーソドックスだ。
「それで」
「うん」
「……なんか、キリコが死んじゃったらどうしようって」
可愛い。
可愛すぎる。そして俺は愚かすぎる。
女優の胸のことなんぞ僅かでも思い出した俺が愚かに間違いなく、スマートを心掛けている人間として自己嫌悪に陥る程度には可愛すぎた。可愛さに罪悪感を抉られる。この女に会うまで知り得なかった感覚だった。
「だからずっとくっついてた?」
「うん」
「外でも?」
「……うん」
間接灯でもはっきりと分かるほど顔を赤らめて頷く。
神よ。心の底から可愛さを噛み締めて呟くと、BJが俺にしがみつく力を強くした。
そこまで考えるかよ。十代の小娘じゃあるまいし。たかがテレビドラマで。そう思ったのは確かだ。流石は病んだ女だ、年齢も理屈も通じない。
だがそれ以上に、とにかく可愛くて可愛くて、俺は我ながら馬鹿みたいにどうしようもなく甘い声で、そんなこと心配してたの、可愛いね、と言ってやるしかできなかった。だってだってと呻きながら恥ずかしそうに、だが安心したようにしがみつくBJが可愛い。とにかく可愛い。可愛い以外に言えることがない。
よろしい、この可愛さには返礼をしなければならない。こいつが一番安心できる方法で。
「死にかけたら助けてくれるんだろう。グマの時みたいに」
「──当たり前だ!」
ほら、たちまち俺の嫌いな名医の顔になってがばりと身を起こす。俺は笑って腕を伸ばし、また胸に抱き込んで、忌々しい名医を俺の好きな女に戻した。
「もう寝よう」
「うん」
BJが安心しきった顔で微笑む。可愛かった。──可愛い。俺の。抱く時にしか言わない言葉を特別に囁くと、また顔を赤らめて、それでも嬉しそうに小さく笑い、ぴたりと俺に身体を寄せて目を閉じた。
おやすみ、と言って俺も眠ることにした。覚悟を決めながら。
何の覚悟かって?
あまり知られちゃいないようだが(当然そうあるべきだ)、滅茶苦茶寝相が悪いこいつに踵落としを喰らう覚悟だ。
どうってことはない、大したことじゃない。愛あればこそ。愛あらば。俺の愛は痛覚を超える。──だが本音、たまに辛い。
俺の覚悟も知らず、好きな女は早くも可愛い寝息を立て始めていた。
たまに辛い、それは本音。
でも可愛い。それも本音。
寝顔を見ればやっぱり可愛いと思うしかできなくて、緩んだ口元を額に落とし、俺は目を閉じた。

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