※R15※ 夜に散歩した

SSとか

書きかけの長編が暗すぎて気分が落ちたので糖度が高い話で息抜きだ! と思ったらよく分からないんですが「キスだけでいっちゃう先生」という短い話になりました。
最初は二人で夜の海岸を歩いてキリコすき♡俺もすき♡月が見ていた♡(古典)って話にするはずだったんですが、以前フォロワーさんとSkypeで話した「キリコってセックス上手いよね絶対」ってことをキスシーン書いてる途中に思い出したのが原因なんじゃないかと思います。いや間違いなくそれだろ。

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 ピノコが寝てからこっそりと。そんな時もある。かと言ってひとつ屋根の下で不埒な真似──キリコに言わせれば恋人同士の愛情を確認し合う重要な行為──をするのはBJとしては気が引ける。テラスで少し身体を寄せながら海を見て酒を飲む、大抵はそんな時間の過ごし方をする。
 今日は少しだけ違うことをした。私有地から海岸へ繋がる、狭くて少し急な坂を下りる。危ないからと言って手を繋いでくれた男が気障で格好良かった。歩き慣れているから平気、と言わなかった自分が馬鹿な女だと思ったが、嫌いではないとも思った。
 月明りと星の光だけを頼りに坂を下り、湿った砂に降りる。夜の海は不愛想で、静かな波の音を囁きながら、夜の光を水面に反射させるだけだった。
 あまり長い時間、家を離れるつもりはなかった。ほんの10分で帰るつもりだった。眠っているピノコをそんなに長く一人にしておきたくないし、キリコもそう考えていてくれていることは分かっている。今日は余りにも月が綺麗で、テラスから見える夜の海も綺麗で、どうしても砂の上に降りたくなった。
 手を繋いだまま歩く。特に話すこともない。砂を踏む音がいやに乾いていて耳に心地よかった。
 指を絡め、手を繋いで歩く、今の時間が不思議と言えば不思議だ。こんな時間を過ごすと考えてもいなかった日々をもう思い出せないことも不思議だ。きっとそんなに昔のことではないはずなのに。
 たまにキリコが立ち止まってキスをしてくれる。それが嬉しい。単純な言葉で言えば、満たされる、と言うそれが正しいのかもしれない。手を繋いで歩いて唇を重ねるだけで満たされる。キリコもそうだったらいいのに、と思った。
 やがてキスは深くなる。いつの間にかやわらかくなっていた自分の舌に少し恥ずかしくなる。男にとろけそうになると必ずこうなってしまうから。
 すぐに戻るのに。すぐに帰るのに。何て恥ずかしい。
 キリコも当然気付いていて、唇を離してから、欲しいの、可愛いね、と、他に誰もいないのに、あの甘くて低い声で囁いた。それでまた恥ずかしくなって、馬鹿野郎、と罵ったつもりだったのに、ばか、とうんざりするほど甘えた囁き声しか零れなかった。
 それが合図だったのか、それとも単なる偶然か、キリコの腕が優しく、そして強く抱き締めて来る。抱き締め返す前にまた唇を塞がれた。今度はもっと深く、もっとやわらかく、もっと強く、──もっといやらしく。
 わざとらしいほどにゆっくりと深く舌を絡められながら吸われ、濡れた音が零れていく。波の音よりもいやに鮮明に聴こえるそれがいやらしく思えてぞくりとした。たまに息継ぎをさせてくれるかのように僅かに離れる唇の合間から零れる自分の息が熱い。熱いと気付くと熱が身体中に広がっていく。
 片手で耳朶を撫でられた。あぁ、と小さく漏れる喘ぎを堪えられなかったほど快感が走り、同時にまた唇を深く重ねられる。男の指は止まらず、ゆっくりと優しく、いやらしく、波の音も聴こえないように耳朶を塞いでしまう。その指の感触にまた喘ぎ、自分の声と舌が絡む濡れた音しか聴こえなくなった。
 キリコの舌もやわらかくなっていることに気付いた。途端に腹の奥が熱くなってじわりと濡れた。なんていやらしいんだろう、なんてはしたないんだろうと自分が情けなくなる。それを見抜いたわけでもないだろうに、キリコが一度唇を離し、可愛いね、とまた囁いた。嬉しくてまた熱くなった。もっと触って欲しいとねだる前にまた唇を塞がれた。
 今度はきつく抱きすくめられて、少しの隙間もないような深すぎるキスをされた。絡んだ舌と深く合わせられた唇はどうしようもないほどに濡れて、それはもう身体も同じことで、ひどく疼いて濡れた。腹の奥底から男を求めて沸き上がるような熱が急激に広がって、うそ、と焦った。
 うそ、信じられない、と焦った瞬間、びくびくとひどい痙攣を起こして、頭が真っ白になった。うそみたい、と思いながらキリコにしがみつくと、ゆっくりと唇が離れて行った。それから唇を丁寧に舐められる。ああ、と思った。ああ、これは後戯だ、わたし、いっちゃったんだ、と思った。
 腰が砕けてへたりこんでしまいそうな身体を抱き支え、荒い息を宥めるように、額に、頬に唇で触れられる。濡れた唇を指で拭われて顔を上げると、あの綺麗な青い瞳の向こうに夜の空と鮮やかな月が見えた。なんてきれいなの、なんてきれいなおとこなの、と思わずにいられなかった。
「可愛いね」
 甘くて低い声に囁かれて、たまらずにしがみつく力を強くする。可愛い、俺の。言われれば嬉しくてたまらない言葉を耳元に与えられて、それだけでまた達してしまいそうなほどしあわせで、それから少し恥ずかしかった。
「もう帰らないと」
 帰らないと、と言うのに抱いた腕を離さない。しがみついた指を離せない。もう帰らないと、そうだね、と、そんな会話を何度も繰り返した。それから二人で同時に笑って、子供のように声を揃えて、いち、に、さん、と言って勢いよく身体を離してまた笑った。
「キリコのえろ死神」
「こんな程度でいっちまうおまえの方がえろい」
「馬鹿じゃないの」
「馬鹿で結構」
 また手を繋いで、今度は家に向かって歩き出す。波の音が耳に心地よいのに、キリコの声の方がきっとずっと心地よいと分かっていて、もっと聴きたくて、取り止めのない話を続けながら、声をねだりながら歩いた。

SSとか

Posted by ringorira