30分1本勝負

SSとか

別に勝負したわけではないのですが。
寝るまでの30分で何か書きたかったのでフォロワーさんに「ネタくれ」と無茶振りをしたら、「無心で先生のおっぱいやらお尻やら触りまくるキリコ」というネタが即レスで返って来たのでありがたく書きました。そして書き始めたはいいが「こんなシチュエーションで書き始めるんじゃなかった」と5分くらいで後悔しました。
30分で書いたものをそのままアップしたのでいつも通りひどいです(いつもよりひどいと言えないいつも通りのひどさ)。せっかくお題をいただいたのに…すみません…

 それほど激務という生業でもなく、時間があるといえばある人生だ。キリコは自分の実働時間は一般的な社会人よりも短いと自覚している。
さりとてすることがまったくない生活でもないため、時には立て込むことがある。
 立て込むのはスケジュールのときもあり、思考回路のときもある。それなりに頭脳階級である以上、思考を展開させることも仕事であるともいえる。
 今日は思考回路が立て込む日だった。テーマは来月リリース予定の米国大手製薬会社の新薬だ。キリコと付き合いの深い企業ではないが、MRに闇関係の人間が入り込んでいることもあり、詳細は先に入手している。MRからすれば付け届けのようなものであり、営業成績に困ったときにはキリコをあてにするための布石だった。
 書斎ではなくリビングのソファで書類を開き、目を通し始める。BJほどではないが、文章を追い始めると周囲の声が聞こえなくなることは否め得ない。窓の外に響いているはずのワシントンの喧噪はあっという間に遠くなった。
 しばらくするとどこかでドアが開くような音がしたが、それを確認するよりも文字を追うほうに意識が向き続けてしまっている。
「キリコ──ああ、なんだ」
 あれはクロオか、帰って来たのか、お帰り、と心の中でつぶやき──キリコ本人は口に出したつもりだったが文字列が邪魔をした──書類の中にある情報とたわむれる。キリコにとってはかなり興味深い内容であり、読み終えたら関連論文を探してみるのもいいかもしれないと思い始めていた。
 しばらくするとコーヒーの香りがリビングにただよう。いつの間にか目の前にコーヒーカップが置かれていた。
とくに喉は渇いていなかったが、おそらく飲んだほうがいいだろうと無意識に分かり、書類から目を上げないまま手にとって口を付ける。ひどくまずいことも無意識に予想済みで、吹き出しはしなかった。やはり無意識に隣に手をやり、そこにあった頭を撫でると、キリコが気づかないうちに──何回か声をかけられたとキリコが気づかないうちに──頭の持ち主は満足そうな息を吐いた。
「わたしの話なんて耳に入らないくらいおもしろい書類?」
 うん、と小さく答えたかもしれない。普段のキリコなら有り得ない返事であり、女が不機嫌になる態度だが、今の状況であればその心配はない。その代わりため息をついた女はソファに深く腰掛け、横のラックにあった医療雑誌を手に取ってぱらぱらとページをめくり始めた。静かでいい、と口から出なかったことを喜ぶべきだと、今のキリコは気づきもしなかった。恐ろしく薄氷の上を進んだ瞬間であったことも。
 この視点は、この結果は──読み進めれば進めるほどさらに情報に深く沈む。あとで書斎の本を──それより図書館か──
「──もう、何」
 なぜか指先にぺしりとした感覚を得た。とくに気にせず文字列を追い続ける。こちらの情報は確か比較論文が──これは──
「ちょっと」
 またぺしり。一体何だろう。まあいい、比較論文を選ぶとしたら──
「何なの、もう!」
 今度は少し強くぺしりと感じた。少しばかり痛みもある。一体何なんだ、とため息をつきながらページをめくる。
 この章で扱っているデータには見覚えがある。半年ほど前にフォート・デトリックの別フロアで働くドクターと話したときに見たのかもしれない。親交を深めるつもりはないが、それなりに話す相手も仕入れる情報も増えていた。
「しつこいんだけど!」
 ぺしり、が、べしり、になった。さすがに痛いし、そしてうるさい。書類はもう少し残っている。夕飯までに読みきってしまいたい。それなのにこの痛みもうるささもなぜ邪魔をするのか。
「──もう!」
 今度は確実に女が悲鳴を上げた。知ったことではなかった。ページをめくろうとして、なぜか両手が塞がっていることに気づく。片手を自由にしてページをめくる。ばか、ばか、と女が金切り声を上げている。
 ああ、うるさい、俺の邪魔を──そう思ったときだった。
「──いってぇ!」
「いってぇじゃない、ばか、エロキリコ!」
「何だよ、おまえ!」
「何だよじゃない!」
「何だよじゃないって、おまえ──あれ?」
 あれ、と、いわば我に返ったと言うべきだろう。いつの間にか腕に抱き込んでいたBJが真っ赤な顔をしている。あれ、いつの間に、と我ながら驚きつつ、さらに驚くべきことに、かわいい恋人の胸元がはだけ、キリコ好みの下着と肌が露出しているではないか。
「何なの、ずっと!」
「え、何、ずっとって何」
「──ずっとさわりまくって! ずーっと! エロ死神!」
「嘘だろ」
「覚えてない!? 最低! 最低すぎ!」
「ちょっと待て、本当に──いてぇ、やめろって!」
 暴れ出した挙げ句に容赦なく叩かれる。外科医の力は女性でも強い。本気で痛みを感じ、キリコは悲鳴を上げざるを得なかった。
「服まで脱がそうとして!」
「してねえよ!」
「自分でブラウスの前をはだけて下着をさらす趣味はないでーす!」
「いや、それはあってもいいよ」
「──最ッ低!」
 思わずキリコが真顔で言うと、たちまちBJは真っ赤になって再び暴れ出す。やめろって、痛いって、とキリコが悲鳴を上げようとも止まりはしない。
 だがここに第三者がいれば言ったかもしれない。殴られたくなければ抱いている腕を放せばいいだろうに。触られたくなかったんならさっさといなくなればよかっただろうに。──やめてって言えばよかっただろうに!
 外は喧噪のワシントン、だがこの家の中も負けてはいない。とはいえ、最低、エロ死神、ばか、と散々罵っていた声も、無意識に恋人の身体を触り続けていた男の必死の努力──ご機嫌取り──でやがて甘く崩れていくのだから、結局は平和な時間にすぎないと言えるのだろう。

SSとか

Posted by ringorira