リハビリ
起承転結も何も考えずに書き始めて止まった1000文字未満。ちょっと立て込みすぎて色々と厳しい年度末です。
崖の上の家にある書斎はちょっとした図書館だ。初めてキリコが入室を許された時、まじかよ、と呟いた。彼が家族の前以外では決して口にしないスラングを零した姿を見た時、なぜかBJは得意な気分になったものだった。
お互いの時間をお互いのペースで過ごすことに違和感を持たなくなった頃から、キリコは勝手にBJの書斎に入るようになった。BJもキリコの家では同様だった。キリコの家の書斎もちょっとした図書館だ。
同じ本を一緒に読むことも多い。ユリに「にいさんとどんなお家デートしてるの」と悪戯げに訊かれ、正直に言ったら複雑そうな顔をされた。くっついて読むのが好きなんだ、と言うのはやめておいた。何となく恥ずかしかった。
「マフィン、ちょっといい?」
「何?」
一家の主婦たるピノコがランチのメニューを考え始める頃、朝から書斎にこもっていたキリコが本を片手に診察室へやって来た。カルテの整理をしていたBJは、キリコの手にある本が日本語のものだと知り、おそらく漢字の読みと意味を訊きにきたのだろうと当たりをつける。そしてそれは正しかった。
「これの読みが──何だっけ、キュウジ?」
「旧漢字」
キリコは一般的な外国人と比較すれば漢字の知識がある。だが流石に旧漢字となると難しい。そのたびにBJに質問していた。
「これの読みは──あの漢字、あれの旧字体」
「ああ、そうか」
BJの説明で納得し、ありがとう、と言ってまた書斎へ戻った。BJは少し考え、整理するべきカルテを持ってその後を追った。キリコが一人で読書をしている時はあまり構ってもらえないが、今キリコが読んでいる本は旧漢字が多いと思い出したのだ。そのたびに書斎から足を運ぶのは効率が悪いと思った。
書斎には椅子が一つしかない。デスクとその対の椅子だけだ。キリコが座る椅子の足元に座り込み、カルテの整理を続けた。キリコはBJがそのスタイルを好んでいることを知っていて──おそらく自分の足元にしか座りたがらないと知っていて──好きにさせておいた。自分のために来てくれたのだという予想もあった。ただ、咥え煙草であぐらをかくのはできるだけやめた方がいいのではないだろうかと思うことも確かだった。
最近のコメント