※R15※ haveabreak

SSとか

フォロワーさんが呟いていたネタを勝手に書いた。

 最近の死神稼業は忙しい。本業はもちろん、副業もやたらと立て込み、しかも本業ではあの忌々しい無免許医の邪魔が入って大わらわだった。それに加えて事務処理、薬の在庫管理、近所の猫の下僕役。
 疲れるなと言う方が無理だ。俺は速やかに認める。疲れている。俺は疲れている。休息が必要だがとにかく目の前の仕事を片付けなければ。そう考えながら書類を手に取る。
 近所の猫は図々しく俺の膝の上で昼寝を決める。こいつのせいでリビングで仕事をする羽目になっている。診察室や書斎には動物を入れたくない。
 眠っていたはずの猫の耳がぴくりと動き、すぐににゃあんと一声鳴いて膝から飛び降りた。車の音を聞きつけたのだと予想した俺は立ち上がろうとしたが、だがどうにも億劫で、俺が疲れている原因の多くはこいつのせいだと思い出して開き直った。
 やがて猫撫で声で猫に話しかける女の声が聞こえる。出迎えの猫を抱き上げて頬ずりし、お迎えしてくれたの、いい子だねぇ、かわいいねぇ、と眦を下げている恋人の顔は想像するまでもない。可愛いのはおまえだ。だが今日ばかりは迎えに出てやる気になれない。
「あ、仕事してた」
「今日、モグリの無免許医が奪った患者に返す金を計算してるんだ。交通費とカウンセリング料だけは請求する」
 無論それだけではなく、むしろそれはほぼ一瞬で終わるのだが、ちょっとした憂さ晴らしで言った。猫を抱いたBJはフフンと鼻で笑い、ざまあみろ、とおそらく今日最後のモグリの台詞を吐いた。
「前は破棄になったって交通費もカウンセリング料も取らなかったのに」
「モグリに邪魔された時だけは取ることにした」
「え、そうなの?」
「現実を思い出させてやるんだよ」
 生きていくためには金がいる。誰かに仕事を依頼すれば金がかかる。俺のエスコートを必要とする患者の多くは生を諦め、まるで現世のことなど忘れてしまう。病も金もない世界へ旅立つつもりで死神を呼ぶのだから。
 死を選ぶならそれでいい。だがモグリ──ひとときの喜びと引き換えにその先の厳しい現実に引きずり戻す悪魔のような天才外科医の手を取ると言うのなら、目の前から姿を消す死神が真っ先に金という分かりやすい現実を突きつけておいてやるのも悪くない。
「親切な死神だ」
 説明したわけでもないのに察したBJはそう呟き、しばらく何かを待つような風情だったが、やがて「キリコは忙しいんだって」と抱いた猫に話しかけながらキッチンへ消えた。キスしてやらなかったな、と気がついて溜息をついた。
 キッチンへ追いかけて機嫌を取るべきかと考えたが、俺は疲れている。目の前の仕事、せめて書類を片付けてから恋人役に徹することにした。社会人には優先順位というものがある。
 しばらくするとコーヒーの香りが漂った。気持ちは嬉しいがあいつのコーヒーは不味い。何をどうすればここまで不味く淹れられるのかと不思議なほどに不味い。
 コーヒーメーカーの導入を本気で検討するべき時かもしれない。あれならシステマティックにセットするだけでまともなコーヒーになる。
 俺は気に入ったケトルとドリッパーで一杯ずつドリップするのが好きなんだが、あいつの好意が不味いコーヒーを生み出し続けることに繋がる事実がそろそろ耐え難い。要は真剣に嘘偽りなく心底不味いんだ、あいつのコーヒーは。
「はい」
「ありがとう」
 それでも出されりゃ礼は言う。我慢の限界を超えた時は不味いと言うことにしている。大抵は超える。だが今日は分からない、もしかしたらましになっているかもしれない。
 一口含んだ今日の結論。不味い。だが辛うじて耐えられる。BJの足下にいた猫が、まずそう、と顔をしかめたような気がするがきっと錯覚だ。
 不味いコーヒーの横にチョコレート菓子が置かれていた。普段は赤い小袋に入っている4連のウエハースチョコレート──オレオと並ぶ我が家の常備品、キットカットだ。今は小皿に2連だけ置かれていた。半分食ったな、こいつ。
 男性がブレイクタイムのために気軽に持ち歩けるように、というコンセプトで開発された商品だ。俺も先達に倣うことにした。
「疲れた」
 我ながら珍しく口に出して呟き、チョコレートを咥えてソファにどさりと寄りかかる。BJが肩を竦めた。
「キリコが疲れたって言うの珍しい」
「それだけ最近ハードワークってことだ」
 本気で疲れている。自分で言うのは何だがこの俺が「今日のセックスは控えめにしよう」と思う程度には。付け加えておくとBJが嫌がらない限りノーセックスの選択肢はない。そしてBJが嫌がることはまず有り得ない。こいつも結構な好き者だからな。
 咥えたチョコレートを半分噛み砕き、ウエハースとチョコレートが口の中で混ざり合う感触が異様なほどに甘美で、ああ俺、今すげえ糖分補給してる、すげえ疲れてる、としみじみする。
 不意にBJがソファの横に立ち、身をかがめた。今のうちにキスしておこうかと手を伸ばそうとした俺より早くBJが動いた。
 動いたのはいいが、何だ。
 これは何だ。
 咥えたチョコレートごと俺の顔が食い込んでいるのは──得も言われぬ柔らかき、かつ弾性に飛んだ、さりとて触れれば滑らかに流動するふたつの至高の丸み。
「お疲れ、お疲れ」
 可愛く優しく労う言葉と共に、胸に埋まった俺の頭を抱く腕にきゅっと力が入る。
 柔らかい感触と優しい腕、好きな女のにおい、可愛い声。
 認めよう。
 癒やされている。俺はこの上なく癒やされている。
 幸せだなあ、いい女だなあ、いいおっぱいだなあ、と吐息を零してしまうほどに。
 うむ。
 いいおっぱいだ。
 だが皮肉にもその吐息が俺を現実に容赦なく引きずり戻した。咥えていたチョコレート菓子が潰れ、BJのリボンタイとブラウスの胸元を汚したのだ。
「マフィン」
 すぐ顔を上げられなかった俺を許してほしい。仕方ないだろう、このいいおっぱいに埋めた俺の顔が動くことを拒否したのだ。
「なあに?」
 この上なく優しい、俺を癒やすためだけに存在するかのような甘やかな声が降り注ぐ。汚したと白状したところで怒られはしないだろう、そう信じさせてくれる慈しみの声だ。
「ごめん、キットカット潰れた」
「──うっそ最悪、馬鹿!」
「ぐっ」
 瞬時にして頭を突き放され、妙な方向に首が曲がった俺は呻く。酷い。あんまりだ。信じた俺が馬鹿だった。最悪も何もおまえがいきなり抱き込んだくせに!
「ああもう、やだ、べったり!」
「すみませんね」
「何、その言い方!」
 怒りながらリボンタイとブラウスの汚れを検分している。結構べったりとチョコレートがついてしまっていた。洗濯しないとまずい汚れだ。
「もう、タイまで」
 待て、と言いかける俺がいる。待たなくていい、と言いたい俺もいる。
 目の前でタイを解き、ブラウスのボタンを外してチョコレートを拭おうとする光景に、心底待てと言える男がどこにいる。覗く下着は俺好み。非常によろしい。癒やされる。むしろ元気になる。
「マフィン」
「何」
「誘ってる?」
「馬鹿じゃないの!?」
 たちまち真っ赤になる女は素直、そして素直すぎてあざとい。このクソビッチ、手を出さずにおれようか。
「誘ってるね、間違いない」
「誘ってないってば!」
 抵抗する言葉を吐くくせに、俺が抱き寄せて腕の中に収めても暴れない。そういうことだ。
 だが少しばかりの意趣がえしか、それとも──拗ねていたのか。
「キスもしないくせに手を出すなんて最低!」
「──するよ、悪かった」
「遅い!」
「悪かった、ごめん、可愛い」
 可愛くてたまらない。笑いながらキスをしようとすると腕の中で顔を背ける。笑って髪や頬にキスをいくつも仕掛けると、やがてBJも笑い出した。それからようやく今日初めてのキスをした。
「駄目、洗濯が先」
 深くなりかけたキスと動き始めた俺の手を制するように宣言される。なるほど、確かに先に汚れを落とすべきだ。仕方なく納得しておいた。
 だがそこは俺だ。そして俺の女だ。
「おまえも綺麗にしておけよ」
 すぐ終わらせるから。
 そう言ってテーブルの書類を示すと、理解した俺の女は「エロ死神」と悪態をつく振りをして了解の意を示し、するりと俺の腕を抜け、バスルームへ消えて行った。猫がその後を追いかけて行った。
 俺は仕事の残りに取り掛かる。いい休憩だった。
 haveabreak、しばらくはあのチョコレートを休憩に重宝しよう。
 改めてしみじみで失礼だが。
 いいおっぱいだった。

SSとか

Posted by ringorira