※R15※ Between the Sheets

SSとか

次の更新用の話を書いていたら指が止まったので息抜き。タイトルほどえろくないですが一応R15で。あのカクテルの名前はえろいっていうよりセクシーって言葉が似合いますね。私はキリコがめちゃくちゃセクシーだと思って生きています。あまりそういう部分が書けてないけどそう思って生きているんです。

 会った瞬間、互いに戦闘モードに突入する。かたやモグリの天才外科医、かたや慇懃な死神、闇では有名な商売敵が顔を合わせたのはとある欧州の片田舎。24時間前までは日本の同じベッドにいた事実など忘れ去る瞬間だ。
「どうしてここに──」
「患者は今、昼寝しているはずだ。大声を出すな」
 病室の前で口を開こうとしたBJを制して1フロア上のリラクゼーションスペースへの移動を提案して医療鞄を取る。BJは提案を受け入れたが、歩きながらも剣呑な声を止めようとはしなかった。周囲の視線を感じながら「声が大きい」と注意しつつ階段でBJの手を取り、リラクゼーションスペースまで上がる。いくつか用意されたテーブルにはつかず、フロアの隅で取り敢えずといった風情で口火を切ったのは死神だった。
「今回の仕事がこの国だって言ってたから予想はしてた。長旅だったな、ご苦労さん」
「仕事なんて一言も言わなかったくせに。私の患者だ、さっさと消えろ」
「目の前で無意味な拷問に晒される人間を見過ごすわけにはいかないもので」
「いいや、私なら救える。だから患者が手紙を寄越したんだ。おまえさんの出番なんかないよ」
「手紙?」
「そう。──ほら。誰かに脅されて書いているわけでもない文章と文字だ、明らかに本人の意思で生きようとしているのだ」
「拝見」
「100万円」
「Put it on my tab」
 ツケておけ、と言いながら、通りがかった若い女性看護師の訝しげな視線に青い片目で社交辞令の笑みを投げて遠ざけ、途端に不機嫌を増したBJから手紙を受け取る。ざっと目を通し、自分に伝えられた症状と一致する事実、確かに患者本人の書であることを確認してBJに返した。
「ありがとう。なるほど、相違がない。──俺の女の方が可愛い」
「誰からの依頼?」
 ほんの僅かに棘が減った声でBJが問う。キリコは小さな声で個人名を言った。闇仕事のマネージメントサービスの担当者だ。つまり闇を通した依頼ということになる。BJは眉を跳ね上げ、じゃあ、と言った。
「本人の依頼が優先されるべきだ。闇を通した殺人依頼なんてまともじゃない」
「俺への依頼が本人じゃないという証拠は?」
「必要ない。表で私に依頼しているんだから。例えドクター・キリコの連絡先が分からないから闇を通したとしても、大手を振って依頼を受けるべきは私だよ」
「無免許が大手を振って? どんなコメディだ。それからひとつ訂正だ、ドクター・キリコは殺人なんぞ請け負わないよ」
「とにかく帰れ、私が話を聞く、患者は生きる、それだけのシンプルな話だ」
 言うなり身を翻し、BJは患者の病室へ向かおうとする。キリコは脚の長さに物を言わせ、数歩で追いついて背中に軽く手を添える。帰れ、とBJは言い、嫌だね、とキリコは返事をした。
 話はこの上なくシンプルだった。依頼人である難病患者はBJの来訪に心から歓喜し、キリコには目もくれない。病室には姪という女性もいた。彼女はキリコをひどく気にする素振りをどうにか隠そうとして失敗した。
 なるほど、と闇医者二人は視線を交わし合った。今までにもこんなケースは稀にあった。
「ブラック・ジャックです。手紙をありがとう、間に合ってよかった」
 そしてBJは笑顔で自己紹介を終えた後、キリコを薬学のエキスパートの医者であり、今回のアドバイザーだと紹介する。キリコも穏やかな笑みを浮かべ、どうやら安楽死とは違う仕事をすることになりそうだと思いながら、患者からは見えない角度から姪に視線を投げた。姪は何とかして死神と意思疎通をしたい感情を目に浮かべたが、死神は反応しなかった。

「俺の患者でもおかしくないな」
「馬鹿を言うなら失せろ」
「あの状態で手術? 馬鹿を言ってるのはどっちだ」
「私じゃないことは確かだ、この殺人者」
 キリコが開けたエントランスのドアを抜け、BJの悪口雑言は止まらない。その背に軽く手を添えて歩きながら、誰が殺人者だ、と言い返した。
「モグリの外科医が人を救う? 冗談じゃない。あの状態じゃ余命3ヶ月が5ヶ月になるだけだ。二ヶ月余分に苦しめて大金をぼったくろうってのか」
「いつの術式の話をしてる? 死神より白拍子の方が先を行ってるなんてお笑いぐさだね」
「あの青二才と会ってるなんて意外だよ。──術式? どんな?」
「会ってない、質問の電話が来ただけ。──あの症状なら先月のあの学会で発表された術式の理論が──」
「あれか。あれはまだ確立されてない。患者を実験台にするのはやめろ」
「実験台? とんでもない!」
 敷地内にあるタクシー乗り場への道すがら、二人の口論は止まらない。警備員や散策中の患者、見舞いの家族たちが地元では見かけない風体の二人に道を空けては眺めていく。元々目立つ上にアジア人がほとんどいない地域だった。
 タクシーのドアを開けてBJを先に乗せ、当然のように奥へ行った女の隣に乗り込んでドライバーに自分が泊まる予定のホテルを告げた。車が走り出してからキリコは問うた。
「ホテルは?」
「市内の──ってとこ。──実験台なんてとんでもない、取り消せ」
「後でキャンセルの電話を入れておくよ。──実験台だろう。あれは根拠も薄い、手を出すべきじゃない」
「あの根拠が分からないって? 殺人ばっかりやってるから脳が錆びたんじゃないか?」
「何度でも言ってやるがな、俺は殺人なんか一度もしたことはない。俺の仕事は神聖なんだ」
「私だって何度でも言ってやる。絶対に認めない。おまえさんが廃業するまで片っ端から患者を取り戻してやる」
「奪う、の間違いだ。傲慢が過ぎるだろう、モグリの無免許医が」
 延々と口論は続き、やがて患者の病状の話になる。BJは手術が可能である根拠を、キリコは難色を示し、互いに着地点を見つけられないまま、いつの間にかホテルに到着していた。
 チェックインと同時に部屋のアップグレードをするキリコを数歩離れた場所から眺めているBJに、観光客や地元のホテルスタッフの視線が集中する。もう慣れたがやはり気持ちの良いものではない。そして銀髪で長身、いわば見栄えのいい白人男性が腰を折ってキスをくれた途端、解散と言わんばかりに視線が消えることにももう慣れた。エレベーターまで並んで歩く。今度は背中に手を添えられるのではなく腰を抱かれた。少し身体を寄せておいた。いつもの香水の香りがした。
「エグゼブティブスイートが空いてた。シーズンオフで良かったよ」
「あ、キャンセルの電話しないと。荷物も送っちゃったし」
「夕飯ついでに取りに行けばいい」
「酒を飲む余裕なんてないよ、明日は朝から病院なんだから」
「世界の秘密をひとつ教えてやるよ。酒を飲まなくても食事ができるんだ」
「そんな秘密、軽々しく口にして大丈夫?」
 案内のベルボーイにチップを渡し、キリコはコートを脱いでBJが泊まる予定だったホテルにキャンセルの電話をかけ始める。
「ああ、ありがとう。──ハロー、今日チェックイン予定のクロオ・ハザマという日本人がいるはずだが──」
 脱いだコートをクロゼットにかけるために手を出したBJに言うと同時に電話が繋がり、礼のキスをする機会を逸した。代わりにBJが頬にキスをしてからクロゼットへ歩いて行った。
 二人のコートをしまった後、BJは予定外に泊まることになった高級ルームの探索に出た。電話をしながらその姿を眺め、どのホテルでもこれをやるんだよな、可愛い、とキリコは思いながら煙草に火を点ける。
 キリコが受話器を置いてもBJの探索はまだ終わっていなかった。何か気に入ったものでもあるんだろうと思いながらミニバーへ行き、炭酸水を用意する。BJにはオレンジを、自分の分にはライムを搾った。やがて戻って来たBJは「ジェットバスだ」と嬉しそうに報告した。それからキリコの手を引いてルームツアーに連れて行ってくれる。いつものことだ。キリコ自身は興味がなかったが、案内するBJが可愛いので付き合うのもいつものことだ。
 小さいながらも設置されているテラスで炭酸水を飲みながら、少し患者の話をする。相変わらずキリコは術式に異を唱えたが、それでもBJがやると言えばやるのだということは理解していた。俺の反論でやめるくらいなら最初から選択しないだろう、と思っているのも確かだった。
 BJが語る術式の話を聞きながら、いつの間にか麻酔量や術後の投薬治療について考え始めていた。BJもそれを当然のように話に織り込み、術後のあれこれについても口にする。結局俺が第一助手か、と思った。ダブルブッキングではよくある流れだ。もはや当然のような気すらしていた。
「細かい計画ができたら聞かせろ。俺の方の依頼は破棄だ」
「うん」
「じゃあ仕事の話は終わり」
「あ、それ、あの、キリコ──」
「うん? ──ちょっとごめん」
 BJが何かを言いかけた時、タイミングよく電話が鳴る。キリコはテラスにBJを残して電話に向かった。残されたBJは息を吐き、薄暗くなり始めた市街を眺めてオレンジ果汁の香りがする炭酸水を口に含んだ。
「ちょうどいい、俺も連絡したかったんだ」
 フロントが繋いだ電話はマネージメントサービスの担当者からだった。盗聴を警戒して言葉を選びながらキリコは話を始める。様子を察したBJが煙草と灰皿を持って来てくれたのでキスをし、担当者に少し訂正を入れた。
「失礼、訂正だ。俺とブラック・ジャックが連絡したかった」
「したかった」
 BJが合いの手を入れてキリコに抱き付く。キリコは小さく笑って片手で抱き寄せた。
『──ああ、いえ、そうですよねえ』
 長い付き合いの担当はばつが悪いのか、普段よりもややくぐもった声だった。金のためにわざとダブルブッキングをすることもある男だが、今日はそうではないとその声でキリコに教えた。
『うちが手配した部屋をグレードアップしたってことは、BJ先生も一緒の部屋ですよね? そこにいるみたいですし』
「お察しの通り。差額は払う、心配するな」
「え、払うんだ?」
「払うよ」
『そりゃありがたいですね。最近は経理がうるさくて』
「で、どういうことだ?」
『それが──』
 電話が聞こえないBJがキリコに会話を任せ、医療鞄から患者のカルテを出してリビングの豪奢なソファにひっくり返る。キリコは煙草に火を点けて担当の話を聞いた。BJと予想していた内容とほぼ一致した。嫌な話だが稀にあることだ。
『神がかったタイミングですよ。あの姪がうちを通してドクターに依頼をするのと、患者本人がBJ先生に依頼をするのが重なるなんて』
「てっきりおまえさんのところがわざとやったのかと思っていたよ」
『そんなこと一度もないですよ!』
「下手な嘘はつくもんじゃない。自分でも説得力がないって分かってるだろう?」
 死神の指摘に担当はわざとらしく笑い、嫌ならうちと手を切ればいい、と言外に告げる。闇の繋がりなどその程度のものだ。充分に理解しているキリコも笑い、今はその気がないと示しておく。
「俺に依頼したって、本人が納得しなければ仕事──エスコートはできない。本人は俺のエスコートを勧めたい程度には末期だが、BJが言うには生きるそうだ」
『じゃ、9割がたは生きますね』
「だろうな」
 闇でのBJへの評価を改めて知り、悪い気分ではない。安楽死医としては過去に「生きた」患者のその後の生活の質、いわゆるQOLについて、生命と引き換えに不自由と苦痛を強いられる可能性を考えると気分が悪い。多くの患者がその可能性が低いと分かってはいても。だが今は言うべきことではないと分かっている。
『本人への──姪ですね。姪にさっき、うちの人間が確認を取りましてね』
「ふうん?」
『まあ、あの姪が唯一の身内でしてね。そして先生に依頼した患者は地元じゃちょっとした金持ちです』
「なるほど、よくある話だな。おおかた患者が寝てる間にでも俺に仕事をさせようとしたんだろう。訪問を患者の昼寝の時間に指定したのもそのためだ」
『よくあるんですか?』
「よくあるよ」
 依頼の1~2割はそんな話になる。無論全て断っているし、強い憤りを感じる。場合によっては依頼しようとした者に適度な制裁を加えることもあった。患者のための憤りではなく、神聖な仕事を汚す者への傲慢な怒りだった。
「何の話?」
 カルテに集中していたはずのBJが『寝ている間に』という言葉に反応し、ソファから身を起こしてキリコを見る。何でもないよと答えると、眉を跳ね上げてソファを降り、小走りにキリコに近寄ってまた抱き付いた。キリコは煙草を消してまた片腕で抱く。
『今後の確認のためなんで、気を悪くしないでもらえます?』
「内容による」
『そういう仕事は請けてませんよね?』
「もちろん。未来永劫お断りだ」
『絶対に回さないようにしますんで。──今回はちょっとたちが悪いってのが、上の判断なんですよ。ドクターだけじゃなくて、うちにも嘘をついてたわけなんで。うちには患者の希望だって言って依頼してきたわけでしてね』
「ふうん」
 事実が分かればもう興味がなくなった。後はマネージメントサービス、つまりマフィアたちの問題だ。生返事をしてBJを抱き寄せ、額に、頬にキスをして喜ばせる。女の小さな笑い声と担当の忌々しそうな声が聴覚の中で混ざり合った。
『まあ、弁済が必要って話になりましてね』
「そうか。俺が口を出せる話じゃないが、おまえさんの上がそう言うなら決定だろう」
『BJ先生がご機嫌の時にすみませんね、もう少しいいですか』
「手短に。良いベッドなんだ」
『何てこった』
 担当が苦笑し、BJがきょとんとした後に遅れて理解して顔を赤くする。キリコが好きな顔だ。可愛さを見せてくれた礼として少し丁寧にキスをした。
『ドクターのご希望があれば取り入れたいんですよ。何か──彼女に言いたいこと、伝えたいことや、その手段なんかですね』
「ああ、なるほどね」
 要は姪の行く末が気の毒なものになるということだ。暴力に晒されるか売り飛ばされるか、それとも多額の借金を負わされるか。キリコが希望する手段があれば考慮するという話だった。
 まだ終わんないの、と言い出したBJの髪に唇を落とし、数秒考えたが特に浮かばなかった。既に依頼そのものが無効の状態の上、結局はBJの第一助手に入ることになる。既に患者の麻酔量や術後の投薬について考え始めていた自分を思い出した。姪のことなど考えている暇はなかった。
「俺は特に何も。興味が失せた」
『そうですか。──埋め合わせと言っちゃ何ですが、部屋代は全額うちで持ちますよ』
「経理がうるさいんじゃなかったのか」
『うちの面子を買う必要経費です。じゃあどうも、長々とすみません。BJ先生にもお詫びお伝え下さい』
「気遣いをありがとう。おまえさんの上にもよろしく」
『良い夜を。良いベッドでね』
「良い夜を」
 笑って電話を切る。途端にBJが「長い」と文句を言い出した。それでも抱き付いたまま離れないのなら機嫌は悪くない証拠だ。ごめんね、と謝りながら両腕で抱き直し、丁寧にキスをした。
 珍しくBJが深いキスを仕掛ける。応じない理由がない。少し長く、深く唇を合わせて舌を絡めるうちにBJの息が熱くなり、舌が柔らかくとろけていく。濡れて重なった唇の角度を何度も変えては濡れた熱を呼び起こした。
 キャンセルしたBJのホテルに荷物を取りに行かなくては、と思い出して一度唇を離したが、目元を熱く潤ませたBJの顔が余りにも可愛くて、すぐに忘れることにした。代わりに思い出したのはいいベッドだ。もう一度唇を重ねて深いキスをする。服ごしに肌を撫で始めるとぴくり、ぴくりと小さく反応し、抱き竦められた腕の中、脚をすりあわせるように密やかに動かしてしまう素直な身体がいとも簡単に男の欲を呼び起こしてくれる。
 ベッドへ誘うために一度キスを解いた時、とろけきっていたBJがはっとしてキリコの胸にしがみつき、見上げて言った。
「あの、さっき言おうとしたんだけど、電話の前に」
「うん?」
 今言わなきゃいけないのか、とキリコはやや不満だが、これがBJなのだから仕方ない。それに二人の時間の雰囲気を多少壊しても今言わなければいけない重大事の可能性もある。
「あの」
 見上げてくるBJの顔が熱とは違う意味で赤い。そしてどこか必死だ。どうしたんだ、とキリコは内心で首を傾げた。
「あの、会ってないから」
「え?」
「電話だけだから」
「何のこと?」
 本気で分からないキリコに、BJは心底必死の顔で、そして半ば泣き声で言った。
「白拍子!」
 数秒、まじまじとBJを見る。BJは涙目にさえなってキリコを見上げている。
 そしてキリコは思い出す。
 白拍子。そうだ、術式について話している時にそんなことを言った、言われた覚えがある。そんなことを気にしていたのか。気付いた途端、ああ、と呻きたくなった。耐えられなかった。だから呻いた。
「……ああ、うん……」
 ああ。──ああ、可愛い。何て可愛い。俺の女は何て可愛いんだろう。どこまで可愛いんだろう!
「本当だから。ねえ」
 キリコの呻きを誤解したBJが必死で縋る。キリコはもう何も言えず、うん、うん、と辛うじてそれだけを言いながら、そして強く抱き竦め、噛み付くように吐息ごと唇を奪ってしまった。
 ハリウッド映画の主人公よろしく、勢いよく抱き上げるとBJは驚いて首にしがみつく。それも可愛くてまたキスをする。可愛いね、と囁くと、ようやく安堵したBJが嬉しそうに笑って首筋に顔を埋めた。
 今すぐだ。キリコは自分に宣言する。今すぐだ。荷物も患者も今はどうだっていい。
 俺は今すぐこの女を抱いて、これでもかってくらいに言ってやらなきゃいけない。言わなかったら俺が死にそうだ。
 これでもかってくらいに言ってやるんだ。可愛い、愛してる。これでもかってくらいに。そのために良いベッドがあるんだからな。

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良いベッドで仲良くしてる間に担当の手配で荷物が届いていた、というオチを入れる予定でしたが書くのが面倒でやめました。

SSとか

Posted by ringorira