※R15※ レタス
文化の違い。※キリコの家では米語で会話しているという方向でひとつ。
朝っぱらから喧嘩した。原因は……まあちょっと恥ずかしいんだけど、わたしが起きた時にベッドにキリコがいなくて、……なんか、なんだか嫌だったから。って感じの。
喧嘩したって言うより、わたしのヒステリーをキリコが適当に宥めただけで、まだ機嫌が悪いのはわたしだけだったりする。
キリコはとっくに気持ちを切り替えて、いつも通り美味しそうな朝食を用意してくれている。こういう時は出来上がるまで待って、機嫌を直せよ、こっちにおいでってテーブルに呼ばれるまで待っていればいい。
いいんだけど、たまには、……たまにはわたしも、自分で自分の機嫌を取る努力をしてみようかな、って思わないこともない。
年上の彼氏でよかったね、甘え放題だよね、って間久部に呆れ半分で言われたことがある。ことがあるって言うか、何回も言われてる。年上の彼氏。なるほど、確かに12歳も違えば。甘え放題。なるほど、自覚ありすぎ。
でもわたしだって地味に若くない。キリコに比べれば若い、でも世間的には若くない。自分で言うとダメージが大きいけど敢えて言う。若くないです。
ので、少し頑張る。自分で自分の機嫌を……って、実は機嫌が悪いんじゃなくて、あれだけ怒った手前、キリコにどうやって話しかけようかなあって……そういう迷いっていうか……。わたしはこういうとこ、たぶん10代から変わってない。セルフコントロールが苦手と言えば聞こえがいい(?)けど、実際は陰険なだけなのかも。うう、どうせわたしなんか……って思うのは今はやめとこ、立ち直れなくなるから。
今日は夜まで休み、1日ふたりでいられるんだから、早く切り替えなきゃ。もう切り替えたよってキリコに教えなきゃ。
よし、頑張る。
「キリコ」
普段なら呼ばれるまで動かざること山の如し、でも今は頑張って、自分からキッチンへ行く。
「うん?」
きっとサラダ用かな、レタスを持ったまま、キリコがいつもの顔で振り向いてくれた。うう、かっこいい。
ごめんねはもう言った。何回も言うとキリコが嫌がるからもう言わない。じゃあどうしよう、普通の会話。ふつうの。
キリコはたぶん、わたしが頑張りにきたのを見抜いて、言葉を待ってくれてる。だって喧嘩してない時なら、こんなふうに振り返らないで料理を続けるから。
どうしよう、何を言おうかな。その──いいや、あんまり難しく考えるのはやめよう。
「あの」
「うん」
「レタスのサラダ?」
「そうだな。レタスとトマトと──」
キリコの米語は気持ちいい。頭と育ちが良くないと発音できない話し方で、わたしは大好き。たまにわたしが知らない言い回しをすることもあって勉強になる。
それはともかく、サラダの内容なんて本当はどうでもいいわたしは、キリコが説明してくれるのをちょっと遮ってしまった。
「レタスだけでいいのに」
「え?」
「だって」
ここは本音を言っちゃう。米語で正しい表現か分からないけど、違ってたら教えてくれるし。
「早くふたりで過ごしたいし」
簡単な朝食でいい、いつもみたいに手が込んでなくたっていいから、早くテーブルでふたりで食事をしたい。顔を見てゆっくり時間を過ごしたい。
わたしの米語でそれが伝わったのかどうか、ちょっと分からない。
だって、キリコが少しぽかんとして、珍しく視線を彷徨わせてから「ああ、うん」って曖昧な返事をしたから。
もっときちんと言った方がいいのかな。恥ずかしいけど。
「マフィン」
言葉を探そうとしたら、先にキリコがレタスをシンクに置いて言った。
「レタスだけ?」
「そう、レタスだけ──ええと、lettuce only」
発音が悪かったから聞き返されたのかな。もう一回、ちょっと丁寧に言ってみた。そうしたらキリコが今度は少し黙って、Wow、ってTheアメリカンな呻きを漏らす。うう、わたしの発音そこまでおかしかった? 普段は全然こんなことないのに。
「キリ──」
「ドレッシングは?」
キリコがわたしを遮って言った。ドレッシング? あ、そうか、サラダだし。
でも確か、キリコってあんまりドレッシングを使わなかったはず。ハーブソルトとかペッパーで、野菜の水分と混ぜて食べてる感じで。わたしもそれに慣れた。あれはあれで野菜が甘くて美味しい。
「え、キリコ、いる? ドレッシングはなくてもいいんじゃない?」
「いらないってこと? それとも俺の聞き間違い?」
うーん、また発音がおかしかったのかな。よし、カタカナになってもいいからはっきり言おう。レタスだけでいい、ドレッシングはいらないって。
「ええと──lettuce only、えっと、……without dressing」
「──all right, all right, kitty」
え。
なにそれ。
分かった、分かったよ、子猫ちゃん、って。
え。
ちょっと。ちょっと待って。
何でキリコがわたしを抱き締めるんだろう。しかもすっごい強く。
キスされたし。しかもすっごい、その、えっちの時にするようなやつ。
息が上がっちゃうくらいのキスをされて軽くパニックになってたら、一度唇を離したキリコが優しく、でも嬉しそうに笑った。
「おまえがこんなことするなんてね。嬉しいよ」
え、どういうこと、あの、なに──パニックでも質問したかったのに、いつの間にかまたキスをされて、しかもなに、なにこれ、脱がされてる? え? しかもキリコが好きな半端な脱がせ方だし、なにこれ、待って、カウンターキッチンに押しつけられて、でも痛くないけど、あれ、なに、あれ、……え、きもちいいんだけど、なんで。
なんでキッチンでえっちが始まるの。
なんで、どうして。
訊きたいんだけど、訊きたいんだけど。
きもちよくなってきちゃって、なにしてんの、って言ったはずなのに、割とすぐ挿れられてあぁんきもちいいよぉってやらしい声が出ちゃったから、今はあきらめた。
だってきもちいいんだもん、朝は夜する時よりすぐ挿れられちゃうんだけど、朝ならではのクイックなえっちって感じですごい好き。もちろんすぐ挿れるからってがっついたり急いでるとか焦ってるんじゃなくて、痛かったことなんて一度もないし、なんかキリコが言うにはわたしは朝だと濡れやすいみたいで、それはともかくほんときもちいいの。
うん、だから訊きたかったんだけどきもちいいし、今日はキリコが嬉しそうだし。いいかなって。
でも後になったらちゃんと訊かないと。なんでいきなりえっちしたのって。
とりあえずきもちいいからまた後で。
そういえばわたし、何しにキッチンに来たんだっけ。
———————————
lettuce only→Let us only→ふたりきりになりたいの
without dressing→服を着ないで
アメリカのハネムーンサラダって言う文化(?)だそうです。
旧い言い回しとのことですがキリコ40歳だしこういうのツボかなーって。知らんけど。

最近のコメント