小話
何か書きたいなーと書いたやつなので起承転結がないSS
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たまには、たまにはいいんじゃないかって。滅多にそんなことしないし、むしろした記憶がないし。
喜んでくれるかな、って思える自分が嫌いじゃない。絶対口にしないけど。
喜んでもらえなかったらどうしよう、って思う自分もいるけど、彼なら喜ばないことなんてないし、もし喜びたくなくても、きっとわたしにそんな気配を悟らせないから大丈夫。
ちょっと前にわたしが気に入ってた、彼が買って置いてくれていた北欧柄のペアのマグカップ、わたしの分が割れてしまってがっかりしてたら、また揃いのものを買おうよ、って言ってくれたから、それでもいいかなって。
でも本当は、キリコが北欧柄のものが好きじゃないって知ってるから、何だろう、好きな男が好きそうな、シンプルで品の良い、でも使い勝手がいいのを探さないと。
待ち合せまであと1時間、セレクトショップで選んでみる。
自分で言うのも何だけどわたしはこういうセンスが皆無で、5分きっかり迷ってから、わたしを購入層だって見抜いてチェックしてくれてた店員に視線を送った。店員は笑顔でわたしのもとに来てくれた。
シンプルで品が良くって、使い勝手がいいの、でもわたしよりあげたい人が使いたいものを探してるから選んで欲しい。そう言うと店員はますます笑顔を深めて、たぶん今売りたかった、でもわたしの要求を満たしてくれるカップを魔法のように目の前に出してくれた。
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空港から待ち合せの場所近くまで移動してふと気付いた。土産は用意してあるが(あいつと可愛い恋敵が好きそうなファッジとトフィー)、他にも何かあっていいかもな。消え物は母子で、少し長い間使うものはあいつで。そういう俺のルールがあっても悪くない。
何を欲しがるか、って考えても意味がない。あいつは誰かに土産をもらう立場になると途端に恐縮するから、俺が買いたいから買ったものをあげた方がいいんだ。
そう言えば、俺の家にあるクロオのマグカップが割れた。あいつが好きだろうから買った北欧柄のペアのマグカップ。別に俺は好きな柄じゃないが、好きな女が喜ぶならそれにした方がいい。
待ち合せまであと30分。少し急いで、過去に数回使ったことのあるセレクトショップへ入る。
あいつが(あいつを知る連中の意外性を突くであろうことは間違いない)好きそうな形と柄の食器が揃うコーナーに、生憎若い女性が数人いた。流石に入りにくくて店員を見る。全てを察したに違いない店員は笑顔で俺のもとに来てくれた。
北欧柄の。俺はそんなに好きじゃないんだが。でも好きな女が好きだから。そう言うと店員はますます笑みを深くした。
さきほど、同じようなことをおっしゃって、ウエッジウッドを買って行かれた女性のお客様がいらしたんです。俺に買わせたい北欧柄のペアのマグカップを包みながら、その店員は楽しそうだった。
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久し振りに会う恋人にはにかんだ笑顔を向けられ、はにかんだかもしれない笑顔を向けて、でもここは日本だからと嫌がる女の意向を採用して、キスはせずに軽いハグに留めておく。
男の家に行く前に軽く飲むために入ったラウンジで、それぞれが持っていた小さな手荷物を、それぞれ何となく笑いながら交換する。
中を見て二人してぽかんとした顔も交換する。
それから二人して小さく、店の迷惑にならない程度に笑う。
早く帰ろうか、と言うと、早く帰りたい、と答える。
早く帰ってベッドの中でキスをして、それから少し丁寧に入れたコーヒーを飲もう。
どのカップを使うかは我のみぞ、君のみぞ知る。
(どれを使ったって変わりやしない)
(君と己が選んだ事実に何の変わりがあるのかと)
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