モブ視点
モブ視点でキリジャ♀。モブ視点が苦手な方はご注意下さい。悪役と情婦的な光景&彼シャツで人前に出る先生♀を書いてみたかっただけです。内容はないです。したくもない年末年始の帰省でキリジャが書けなくて苛々していたストレスをPCのキーボード操作のリハビリと兼ねてぶつけてみました。よく分からない内容になりました。いつものことです。今年もよろしく。
やっちまった。やらかした。俺は日本で言うところの土下座をしたまま顔を上げられない。部屋の空気は最悪を超えた最悪で、俺の上司にあたる連中も冷や汗をかいてるのが分かる。俺なんて冷や汗どころじゃない。せめて苦しまないようにお願いしますって心の中で絶叫し続ける始末で、はっきり言って漏らしてない自分が凄いと覆う。
「今回は──その、言い訳できないと思っているよ」
俺の上司が言った。俺が聞いたことのない、焦りを隠せない声だった。そりゃあそうだろう、俺のミスのせいでお得意さんの死神の化身に迷惑をかけて、クソ高いこの高級ホテルのスイートルームを死ぬほど急いで手配してから海を渡り、今こうしてクレーム処理をしているわけだから。
ドクター・キリコほどのお得意さんのクレームは、組織の破滅に繋がりかねないってこと、一番最初に叩き込まれる注意事項だった。組織の破滅なんてことになれば、俺みたいな下っ端、しかも発端のミスをした奴は、いの一番、真っ先に殺されることは間違いない。
ドクター・キリコは一言も喋らない。俺たちが部屋に入った時から無言を貫いている。かなりのお怒りってやつだ。俺は土下座、ひたすら土下座。上司たちも心の中ではそんなものだろう。
「あなたの情報は一切、他の外部に漏れていない。そこだけはまず信じて欲しい」
上司が言葉を選びながら言ってるのがよく分かる。でも相槌すら聞こえない。無言なのに、ドクターの威圧感は半端じゃない。ああ、これが死神か、って床に額を押し付けたまま実感する。
「ドクター、本当にすみません。私がもっと気を配るべきでした」
もう一人の上司が口を開く。この人はドクターの担当で、普段の依頼の窓口になってる。その分ドクターのことを俺たちよりよく知っていて、だからこそ、俺はここに来る前に「遺書を書いておけ」って言われて本気で絶望した。俺、たぶん死ぬんだと思う。
「まさかこいつが依頼の内容をバーで喋っちまうなんて──酒が好きなことは知ってたんです。でも仕事に差し支えないと判断して、使い続けたのは私です。申し訳ありません」
ああ、酒か。昔から俺は酒で失敗ばかりだ。でも酒をやめられなくて、休みの日なんて朝から晩まで飲んでて、今回はそのせいでやらかしちまった。
安いバーで知り合った女に、ドクターの依頼の内容をちょっと喋っちまったんだ。法的にはグレーだけど、あまり大きな声で言っちゃいけない金のやり取りの仲介のこと。悪いことに女は保護観察中のジャンキーで、点数稼ぎのために保護観察官にその話をタレこんだんだ。
幸い(?)その保護観察官は組織の息がかかった奴で、呆れながら俺の上司に連絡してくれた。そして俺は今こうして、ドクターの前でジャパニーズ土下座をしながら楽な死に方を願ってる。
金属製のライターで煙草に火を点ける音と、それから、長く、細く煙を吐き出すような気配があった。重い煙草のにおいがする。
「あまり長引かせたくない」
遂にドクターのお声拝聴の瞬間が訪れた。俳優みたいないい声で、今みたいな場じゃなければきっと女が好きそうな甘い声に聴こえるんだと思う。ああ、今の瞬間ですか、滅茶苦茶怖いです、そりゃあもう。毛足の長い絨毯に押し付けたデコをもっと埋めちゃうくらいに。
「俺の女が日本人でね」
あ、そうなんだ。意外。って、そんなこと思ってる場合じゃねえんだけど、でも意外だ。
「ビジネスの場の土下座なんぞに意味はないって話を聞いたことがある」
空気が極限まで凍った。死ぬ。俺はもう死ぬ。心は既に死んでる。ドクターの担当上司が俺を足で小突き、おい、と言ったので、俺は吐きそうなくらいの恐怖の中で顔を上げた。
ソファで長い脚を組んで座るドクターがちらりと俺を見た。案の定、ゴミを見るような目付きだった。アイパッチに隠れた左目は戦傷で無くなってるって噂で、今の状況じゃ迫力が出るだけだ。シャツにジーンズって言うラフな格好なのに、スーツ姿の上司たちよりよほど怖かった。
でも欧米人でも珍しい銀髪と整った顔立ちは、左目の分を差し引いても、きっと女に不自由しないんだろうって分かる。俺も生まれ変わったらそうなりたい。あとちょっとしか残ってないかもしれない今生は諦めた。
ドクターは暫く俺を眺めた後、上司たちに向き直る。
「依頼料は返してもらう」
「もちろん。それから慰謝料もお渡ししたい」
「それはいらない。将来的に慰謝料以外の名目に変更されて、借りを作ったことにされても困る」
「まさか、ドクター。そんな真似をするはずがないよ」
「俺だってまさかこんな真似をされるとは思っていなかったよ」
上司たちはぐうの音も出ず、俺は涙が出そうになる。でもここで泣いたらドクターが俺をゴミ以下の目で見るんじゃないかって気がして、とにかく我慢した。ミスをしてからずっと止まらない震えがもっと酷くなってきた。ああ、俺のかっこ悪さよ。目の前の死神みたいにかっこ良くなるのって、どれだけ努力すればよかったんだろう。
「迷惑した」
「それはもう、本当に。申し訳ない」
「お宅とは随分長い間、そうだな、それこそ俺がこの仕事を始めてからずっと良い付き合いをしていると思っていた。似たようなマネージメント組織はいくらでもあるが、お宅が一番仕事が早いし確実だった」
「これからもそうでありたいと思っている。ドクターは我々にとって最上級の顧客だと言ってもいいし、ドクターのお陰で増えた顧客も少なくない。挽回のチャンスをくれないか」
ああ、俺、本当に下っ端なんだな。そのうち出世して、こんなふうに喋る自分を想像できない。そう言えば組織の上層部って、いい大学を出てたり、いい会社から転職して来た人ばっかりだって聞いたことがある。
「挽回? どうやって?」
「慰謝料を受け取ってもらえないのなら、今後の依頼はむこう一年ほど無料に」
「それも御免被る。仕事の質が下がらない保証がない」
「ドクター、そこは我々を信用してもらうしか──」
俺に発言権はない。話は続くけど、金や物の話にドクターは全てノーを言い続けた。上司はほとほと困っているようだった。
たまに担当上司が俺を見て、ちょっとばっかり気の毒そうな目をするのが辛い。もうこれ、色々確定なんだろうな。俺、死ぬのかな。身体の震えが止まらなかった。
「信用してもらえないなら、別の方法を探るしかないな」
「別の方法?」
「別の手段と言うべきか。うちも最近ではあまりやらないことなんだが、ドクターの気が済むようにしなければならないだろう」
あ、来る。これ。俺死ぬやつ。絶対。ドクターにゴミの死にざまを見せて手打ちにして下さいって申し出るやつ。やばい。漏れそう。
「ミスをした彼が、その生命で──」
やばい。泣きそう。俺死ぬやつ? 死ぬ?
「ハン」
その瞬間だった。
「まだ終わらないの? いつまで待たせる気?」
奥の部屋から出て来た女が、いかにも機嫌が悪いって声を部屋に響かせた。会ったことはなかったけど、その見た目ですぐ分かった。
言っちゃなんだけどツギハギで、髪と顔はツートンカラー。噂はよく知ってる。
無免許の天才外科医だ。
ブラック・ジャックって通り名の外科医はなぜか男物のワイシャツ一枚だった。彼シャツってやつ。ギリギリの裾から覗く太腿と脚は縫い傷だらけで、でも凄く形のいい脚だ。襟刳りからも大きい傷が見えた。こんな時にそこまで見ちゃう俺も俺だけど、死の恐怖から目を逸らしたら、そこにBJがいたってだけだ。
「悪いね、マフィン。随分待たせてる」
「こいつ?」
「そう」
「ふうん」
どさっと勢いよく、BJは横座りでだらしなくソファに脚を投げ出して、ドクターに寄り掛かるように腰を下ろした。うう、いかにも悪役とそのオンナって感じ。映画でよくあるやつ。
見た目がツギハギでもよく見たらすげえ美人で、何ての、アジアンビューティってこういう人のこと言うのかなって。なんて思ってたら首を半分回してドクターとキスして、あれだ、これも映画でよくあるシーン。……そうか、俺は映画を観ながら死ねるんだなあ。って、あんまり有難味がないけど。
「BJ先生、お待たせして失礼。お二人でいた時にこんな話になってしまって」
「わたしはどうでも。彼がもっといいホテルに移動しようって言うから来ただけだし」
「気に入ってもらえたなら救われるよ」
「だからって、話が長すぎる男は嫌いよ」
途端に上司たちが慌て出した、ような気がする。震えが止まらないまま俺も慌てる。いよいよ死刑宣告が来るんだ、ああ、最後に美人を拝めて良かったかもしれない、でも彼シャツの下にしっかりホットパンツを履いてたのがちょっと残念です、BJ先生。日本人女性が慎み深いって本当なんだな。彼シャツで慎みも何もねえけど、でも映画ならパンツが見えるとこだろ、セクシーなパンツが。
BJが煙草に火を点けて、ふっと煙を吐き出してから俺を見た。妙にしげしげと見られた気がする。その後、ドクターを小突いて首を回して少し見詰め合って、なぜかお互いに同時に頷いてた。
「わたしの男に随分舐めた真似をしてくれたそうじゃない」
「先生にも申し訳ないと──」
「マフィン、口を出すな。邪魔をするなら外せ」
「わたしがどれだけ待ってると思ってるの。こいつらと話を続けるのと、わたしをベッドで可愛がるのとどっちが大事なのよ。わたしからすればこいつらが邪魔をしてるのよ」
伝説の天才外科医ってこんなこと言うんだ。意外。もう意外。そこらへんの頭の悪い女みたいなこと言ってる。でもベッドで可愛がるって、つまりそう言うことだよな。そういう。……やばい、えろい想像しそう。俺死ぬのに。死ぬ直前までえろいこと考える俺って本当に来世に期待するしかないゴミのような奴。
「先生、その、ええ──申し訳ないと思っているよ」
上司が言葉を選びながら言ってる。内容も内容だけど、たぶんこのBJも、ドクターと同じくらい怒らせちゃいけない相手なんだろう。そういやうちの組織のボスの手術をしたとか何とか聞いたことがある。
「今、最終的な話をしているところだったんだ。金銭的な話ではないとドクターがおっしゃるものでね」
「そりゃあそうよ。このガキ、わたしの男を逮捕させようとしたも同然なんだから。金で片付くはずがないでしょ」
仰る通りでございます。俺はがたがた震えるしかない。このおねえちゃん、ドクターより怖いかもしれない。
「ハン、さっさとしてよ」
「うるせえな。おまえの好きにしろよ」
「するわよ」
「ったく」
ドクターが寄り掛かるBJの腰に手を回して、飽きたように深くソファにもたれかかった。何だか凄いアレ、映画っぽい、悪役と情婦みたいな絵面になってる。二人とも外見が外見だから更に。
「最終的な話って、埋めるってことでいい?」
よくない! よくないです! 今まで男たちが遠まわしな言い回しで避けていた結論をシンプルにぶっこむのやめて下さい死んでしまいます! ってか死ぬ!
「先生がそう提案するならそうなるかもしれない」
身体の震えが止まらない。漏れそう。でも辛うじて我慢。たぶん人生最後の我慢。人生最後くらい成人男性としての尊厳を守りたい。
ああ、生まれ変わったら絶対もう酒なんか飲まないし、ドクターみたいにいい男になって、BJみたいないい女を情婦にしたい、っつうかもう真面目に働いて、こういう仕事しない人間になりたい。その前にせめてあんまり痛くない方法で死にたい。
「何それ、わたしが決めたみたいに言っちゃって。あんたたちは何を言うつもりだったわけ?」
「それを相談する段階だったんだ」
「埋める以外に何があるのよ」
そういう話、もうやめて下さい。震えが極限。あ、やばい、涙出て来た。ついでに鼻水も。喋るなって言われてたけどもう止めらんない。
「し」
言っちゃった。ってか、言っちゃえ。どうせ死ぬんだ。言い付けを破って喋ったって結果は一緒だ。
「死にたくないです……!」
我ながらみっともない命乞いなのは分かってる、よく分かってる。俺が俺を見る立場だったら指差して笑ってるくらいみっともない。くそ、笑ってくれ、笑って下さい、でも死にたくないです。
なのに、誰も俺を指差して笑わなかった。
「マフィン」
ドクターが言った。あ、ちょっと笑ってる。
「あれ言ってやれよ」
「何よ」
「『それを聞きたかった』」
「馬鹿にしてんの?」
「してねえよ。ブラック・ジャック先生の名言集を紐解きたいだけだ」
「馬鹿にしてるし!」
本気で怒ってドクターを叩いて、ドクターが笑って「痛ェよ」って言って、そしたら上司たちも笑い出して、俺はもう何が何だか分からない。とりあえず鼻水が酷かったから鼻をすする。
俺を見たBJが立ち上がってサイドボードに歩き、あ、やっぱり綺麗な脚だ、それからそこにあったティッシュの箱を投げ付けて来た。豪華なケースに入ったティッシュが頭に直撃した俺は呻く。痛い。でもこのくらいの痛みで死にたい。
「きったない。拭けば?」
「す、すみません」
慌てて鼻を拭く。BJはふんと鼻を鳴らしてまたドクターの隣にだらしなく座った。
「先生、お手数を申し訳なかった」
上司が言った。俺はもっと意味が分からない。唖然とする俺に担当上司が解説してくれた。
「怖かっただろ。これでお仕置き終了だよ、良かったな」
「……え」
「最初は本当におまえをどこかの工事現場に生き埋めにしようと思ってたんだ」
ああ、やっぱり。声も出ない。震えもまだ止まらない。現実逃避したい。酒だ、酒をくれ。
「その話を最初の段階で提案したら却下されてね」
「当たり前。私の男をプライベートでも殺人犯にするんじゃないよ」
今までより随分蓮っ葉な言葉でBJが言った。本気で嫌そうな顔をしていた。
「プライベートでもって何だ、おまえ」
「仕事が人殺し」
「それは永遠の平行線だ。──二度とやるなよ。次は俺の知ったことじゃない。俺はこいつほど甘くないつもりだ」
最後の声は低くて冷たくて、俺は死ぬ気で「はい」と返事をする声を絞り出した。マジでタマが縮んだ。それくらい本気で怒ってたってことを改めて教えられた。上司たちも神妙に頷いてた。
でも結局どういうことなんだ。まだ状況が分からない俺に、担当上司がもうちょっと説明してくれた。
「殴る蹴る殺すより、ドクターと話をさせた方が効くだろうって。先生が提案してくれてね。確かにそうだったな。演技だって分かってても俺まで怖かった」
「……そうなんですか」
「先生が出て来たのは予想外だったけどな。最初はドクターだけの予定だったのに」
BJが肩を竦める。
「だって長すぎて、おまえさんたちが帰るまで待ってるのも飽きちゃって」
「その分、こいつの怖さも増したみたいで。ありがとう、先生」
はい、怖かったです、演技だったんですか、でもドクターから滲み出るお怒りは確実に本物だったんだろうなあって分かります。
でもこれで死ななくて済んだんだ。二度とこんな馬鹿はしない。これからはちゃんとやる。飲みに行く店も選ぶ。それを誓おうとした時、BJが言った。本当にあっさり言った。
「で、埋める先は?」
「──え」
俺はぽかんとBJを見る。埋めるって? 何? このおねえちゃん何をあっさり言ってんの? 演技だったんでしょ? え? 俺死ぬの? やっぱり死ぬの?
上司たちも顔を見合わせた後、BJをぽかんと見てる。
「いい加減にしてやれ」
ドクターが溜息混じりに言った。それから俺を見て説明してくれた。この人、BJに比べれば甘いんじゃないだろうか。
「おまえ、アルコール中毒だろう」
「え」
「震えと黄疸、肌の色。典型的だ。酒が飲みたいだろう」
俺は一も二もなく頷いていた。それに驚いた。飲みたいと思ってたけど、まさかこんなにすぐ頷くなんて。しかも急に喉が渇いて苛々して、身体全体より手が激しく震えていた。
いつも飲みっぱなしで、身体から酒が切れたことがなかったから気付かなかったんだ。
いいや、本当は薄々分かってたけど、気付かない振りをするために飲み続けてたんだ。
「次は幻覚が始まる。そうなったらもう戻れない。その前に治療して来い。埋めるってのは更生施設に入れってことだ」
「甘い死神だこと」
「おまえの話し方はたちが悪すぎる」
「わたしの男に舐めた真似したんだから、これくらいはやらせてもらう。タマ切り落とされなかっただけありがたく思えってんだ」
俺のタマがヒュンって縮んだ気がする。絶対縮んだ。
「──そんな状態だったのか?」
上司が驚いてる。担当上司は溜息をついてうなだれる。担当上司は俺の直属の上司だったから、余計にがっかりさせちゃったのかもしれない。申し訳なくて別の意味で死ぬ気分だった。俺が喰い詰めて組織に入った時から面倒見てくれてる人なのに。
それから二人の医者と上司たちは、俺の今後について話を始めた。俺は黙ってるしかなかった。更生施設なんて入りたくなかった。
どうせ俺が放り込まれるのは貧困層向けの更生施設だ。今の時代、まともな環境じゃないことはよく知ってる。俺の死んだ親父も入ったけど、人間の扱いなんてされてなかった。でも今、入りたくないなんて言える立場じゃない。埋められる、って、案外的外れじゃないかもしれない。
「入所施設が決まるまで、当面は俺が診る。こいつが診ると高いからな」
「なるほど、そうしてもらえるのは有り難いよ。払いはドクターに渡すはずだった慰謝料を充てることでいいかな」
「その金額がどの程度か知らないが、俺も安いってわけじゃない。早めに施設を決めた方がいい」
「だからさ、今の時代、まだまともな施設なんてないんだから、いっそ作っちゃいなよ」
BJが言いながら俺を見てちょっと笑って、俺はびっくりした。俺にあんまり縁がないものを見た気がする。
医者が患者に笑いかける顔って、たぶんこんな顔なんじゃないかって。
「おまえさんたちのロンダリング会社で慈善事業としてやって行けばいいじゃないか。政府から補助金が出るから、やり方次第じゃかなり儲かるよ」
「──なるほど、上に提案する価値はあるな」
「わたしの発案ってことを恩着せがましく言ってくれていいんだよ」
言ってることは反社会的だし腹黒いし、でも俺を助けようとしてくれてるのは凄くよく分かって、俺は急に、──本当に急に、身体の底から凄い勢いで何かが沸き上がって来て、思いっ切り声を上げて泣き出してしまった。みっともないって分かってても止められなかった。
「大丈夫」
BJの声がした。優しい声だった。
「必ず回復するよ」
俺は泣きながら頷いて、何度も何度も、ありがとうございます、ありがとうございますって馬鹿みたいに繰り返した。担当上司が俺を小突いて、しっかりやれよって言ってくれて、俺はやっぱり泣きながら頷くしかできなかった。
ドクターが肩を竦めて、BJに「着替えて来い」って言いながら煙草に火を点けた。途端に自分の格好を思い出したみたいに慌てふためいて、真っ赤になってから奥の部屋に飛び込むBJの後ろ姿が可愛いと思った。
だからつい、「可愛い」って言っちまった。
次の瞬間にドクターが俺を射殺すような目で睨んで、担当上司が慌てて俺をぶん殴って、俺はまた土下座状態で、すみませんすみませんって謝り倒すことになった。
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後でhtmlに流して小説コンテンツに置きます。
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