キリジャ寝落ち書き【R15】
馬鹿ップル。ダイレクトな性表現はないけど一応R15くらい。長編を書いている間の息抜きにと打ち始めたら見事に寝落ち→起きて無理矢理クローズしたやつ。本当に無理矢理。
確かめたことはないけれど、キリコは私に食事をさせるのが好きなんだと思う。食事と言うより、何かを食べさせる、という行為が好きなのかもしれない。
二人でいる時にキャンディのような小さなスイーツを口に放り込まれることは当たり前だし、食事は必ず、それこそ大喧嘩をしている時でも必ず声をかけてくれる。どこかに食べに行ったり、キリコが作ってくれたりと様々だけど、どんな時でも全部、確実に美味しい。
喧嘩をしている最中に食事だと言われると、正直言って私は助かる。これで手打ち、そういう意味だから。この時の食事は大抵いつもよりちょっと良い店だったり、キリコが作るならいつもよりちょっといい食材を使ったりで、まあいいかな、って気分になれて、店からの帰り道や食べ終わった後にごめんって言いやすくなる。キリコがごめんって言う時もある。
喧嘩はそれで終わり。その後にキスをすると、食べたばかりのスイーツの味がしたり、食後の煙草の香りがしたり、それはその時々だけど、凄く安心できる味なのは間違いない。
別に喧嘩なんかしてない時でも、キリコが食べさせてくれる料理は何でも美味しい。連れて行ってくれるレストランに外れはないし、テイクアウトができる店ならドギーバッグにピノコの分まで用意してくれる。流石ロクター、って言いながらピノコはお土産の料理を食べて、いつも美味しくてうっとりした顔になって、それが可愛い。
キリコが作る料理はいかにもアメリカ人男性の料理って風体で、でも想像以上に美味しい。仔牛のポットローストは舌が蕩けちゃうかと思ったくらいだし、それからケイジャン料理がすごく上手。定番のジャンバラヤはもちろんだけど、揚げた牡蠣と新鮮な野菜とバゲットで作ってくれるサンドイッチは美味しすぎて、何度ねだって作ってもらってるか分からないくらい。
口にひょいと入れられるキャンディもグミも小さなチョコレートも絶対に私が好きな味で、味蕾までもがもう、あ、キリコがくれたやつ、ってすぐ理解するようになった。
細いのに節くれだったキリコの指が小さいスイーツをつまんで、私の唇をつついて開かせて中に滑り込ませて、美味しい、って感じるのと同時にキスで唇を塞がれるのがいつものこと。他人様にはとても見せられない。慣れるまでちょっと時間がかかった。
初めてされた時は驚いて、耳まで凄く熱くなって、滑り込んだキャンディが喉に詰まっちゃって、ちょっとした騒ぎになったのも良い思い出だ。たぶん。
……放り込まれるスイーツがチョコレートの時は、したいのかな、って分かる。別にいつもじゃないけど、でもそういう時が多い。
チョコレートが溶けるまでずっとキスを──触れるだけのものじゃなくて──するんだから、そう思っちゃうのは仕方ない。その間にどんどん私の身体が熱くなっちゃうのだって仕方ない。
だってキリコがそう仕向けるんだから。ただのキスなのにただのキスじゃなくって、チョコレートの味が口の中からすっかり消えた時には、もう私の首からリボンタイは消え失せてるし、ベストとブラウスのボタンも外されてる。
その頃にはもう肌も息も恥ずかしいくらいに熱くなっちゃって、下着ももう湿っちゃってて、恥ずかしくって、でも恥ずかしいなんて言ってないのにキリコは分かってて、俺しかいないんだから恥ずかしくないよ、って、チョコレートの香りがする言葉で私を宥める。
そうなれば後はキリコがきもちよくしてくれるだけ。恥ずかしいのはどこかに飛んで行って、キリコの指と唇にぐずぐずに蕩かされて、私は馬鹿みたいに何度もきもちいいって言うばっかり。でもキリコは信じられないくらいに何度も可愛いって言ってくれる。
チョコレートの味はいつも違う。でもいつでも私が好きな味。
今日は夕飯が終わって二時間くらい後、放り込まれたのはアプリコットジャムが入った甘酸っぱいチョコレート。美味しいって思ってたのはやっぱりいつも通り、キスの途中まで。
ベッドまで行く余裕がなかったのか、それとも単にキリコがそこでしたかったのか、したのはリビングのソファだった。終わってもそのまんま二人でごろごろしてる。
きもちよさの余韻が残って動くのが億劫な私のためにキッチンでコーヒーを淹れて来てくれたキリコが、テレビをつけてから私の隣に座る。私は何となくまだ甘えたくて膝枕をしてもらう。だらけた時間。最高に好き。
髪を撫でてもらいながらテレビ画面を見た。キリコはニュースが見たかったみたい。つけたチャンネルはリベラル系のCNNだった。
CNNのアンカーの米語はちょっと早口で、でもキレがいい。でも今はそれより恋人の膝枕で髪を撫でてもらうほうが大事。
キリコはそうでもないみたいで、煙草を咥えてそこそこ真面目にニュースを見ていた。キリコの日課だから仕方ない。片手間でも髪を撫でてくれるから寂しくない。あと、ニュースを見ているキリコがかっこいいからいい。
アメリカ国内の色んなニュースの後、ちょっと明るいトピックになった。綺麗な色の鳥たちの映像だ。羽ばたきの練習をする雛とその親鳥、卵を抱く雌に餌を運ぶ雄。可愛い。難しいニュースの後にはちょうどいいのかも。
雌に餌を食べさせている雄を見て、キリコがちょっと笑った。
「求愛給餌」
「え?」
私が仰向けになって見上げると、キリコは私を見降ろしてふっと笑った。うん、かっこいい。
「鳥の雄が雌に食事させるのをそう言うんだ」
「食事させる? 何で?」
「抱卵中の雌が餌を探せないから、つがいの雄が運んでやるんだ。放っておくと飢え死にするからな」
「いいな。頼れる旦那」
「だな。他にもあって、まあ──おまえもよく知ってるよ」
「え?」
キリコは少し笑って煙草を消し、私の唇を指でなぞる。
「ものにしたい女に美味しいものを食べさせるんだ。俺といたらこんなにいい思いができるんだぞ、ってアピールにね」
私は少し考えて、それからアメリカ人よろしく、わーおって言ってみた。そうしたらキリコが本物のアメリカ人ならではの発音でWowって言う。二人して笑ってしまった。
起き上がろうとする私を抱き起こしてくれたから、私は私に求愛給餌する男にもたれかかる。腰に腕を回しながらキスをされた。煙草の味がするキスだった。それからキリコはまた笑いながら言った。
「何か食べる?」
私もまた笑った。まだしたいんだ? って訊くと、またしたくなった、って言われた。だから私は答えた。
「牡蠣のサンドイッチ」
「牡蠣がないな」
「買って来てよ」
「神よ」
それこそアメリカ人、オーマイゴッドを本場の発音で呟いて、ソファの背もたれにもたれて天を仰ぐ。天って言っても天井だけど。
「もう店やってねえよ」
「ふうん」
天井を仰いだままのキリコに乗り上げる。青い瞳と潰れた目を見降ろして、にやりと笑ってみせた。だって私もしたくなっちゃってるから。
「まだ給餌してくれなくても明日の朝くらいまでなら死なないから、先にするのもありだと思わない?」
「Sweet!」
やったぜ、なんてわざとらしく、でも思いっ切り嬉しそうに言って飛び起きて私を抱き締めるものだから、私も嬉しくって抱き締め返してキスをした。
スイートなんてスラング、わざと言ったのはすぐ分かる。いつもこんな時はオーマイゴッドって言うんだから。でもこんなところがすごくかっこよくって好き。
また難しい話を始めたアンカーにテレビを消してさよなら。二人の煙草を持ってだらしなく、他人様どころか神様にだって見せたくないくらいくっついて歩きながら寝室へ──その前にサイドボードのチョコレートをひとつ取って、キリコの口に放り込む。逆だろ、って笑われた。でも私は言ってやった。
「ベッドで返してよ」
たくさんキスしてよ、って意味。
すぐに分かった男はもう一回、スイート! って大袈裟に、でもかっこよく言って、私を勢いよく抱き上げた。大丈夫、って私は笑いながら思った。
大丈夫、飢え死になんかしないから。だってこれからキリコを食べちゃうんだもの。最高の求愛給餌だと思わない?
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